8 モヤさん
「分かってくれた?」
「……まあ、はい」
「そかそか」
ならば一安心。
誰から見て誰がどう見えるとか、もうこんがらがって意味分かんないけど。
「……ところで、お名前は?」
くるっと後ろを振り向き、王妃様からは私に、私からはモヤモヤ人間に見えている王妃様への刺客さんに問いかけた。
「……」
モヤさん、もとい刺客さんは相も変わらずだんまりである。
……もしかして、喋ってるけど通じてないとか、聞こえてないとか、あるのか?
いやでも、さっき被った時に声聞こえたしな……。
「ん-、どうしよ。……じゃあ、聞き方を変えようか。首を振って欲しいんだけど、君、こっちに寝返らない?寝返ってくれるなら頷いて、無理なら首を横に振って?」
モヤさんは躊躇う様子すら見せずに、首を横に振った。
「……そっかあ?」
「…………あのカヴィナ、カヴィナにはこの方がどのように見えますか?」
恐る恐る、という感じに聞かれ、王妃様の方を向いて口を開いた。
「人型の、黒いモヤモヤかな?……多分、王妃様の見てる私みたいな感じだと思う。私も質問あるんだけど、良――?」
『クリティック』
が、私の言葉は唐突に遮られ、モヤさんが初めてしっかりと声を発した。
普通にびっくりして、モヤさんを凝視する。
……モヤさんの目とか口とか、どこにあるのか全く分からないけど……何故か……そう、何故か、目が合った気がした。
『我々は、クリティック。……この世界の守護者である』
そう言って秒経たずに、モヤさんは消えた。
……え、転移か?
「……王妃様、質問なんだけど、モヤさんが喋ったのは今ので二回目?」
「…………ごめんなさい、分かりません。……ただ、彼女がカヴィナの姿だったのは言いましたが、ずっと口は小さく動いているように見えました」
「そっか、ありがと。ちなみに、今、私のことはどう見えてる?」
「……!今、なんだか混ざっています。カヴィナと、黒い物が、変質しているような……!」
効果が切れてきたのは、モヤさんがいなくなってから、か。
「……あ、カヴィナに戻りました」
「…………そっかあ……」
分からない、本っ当に分からない。
バグなら、こんなにタイミングよく切れるのだろうか。
意図的な物だったのなら、誰の介入によって起きたのだろうか。
……どの道、神様に聞きに行かないとな。
「あ、そうだ王妃様、次のお茶会、いつがいい?」
「……そうですね、とりあえず近頃は王宮もゴタゴタしていますから……1か月ほど後になるでしょうし、今度会った時でも大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。それじゃ、私は帰るけど……ん、この指輪、着けといて」
せっかくだしどうせなら、と思い出して、王妃様に駆け寄り、“クローゼット”から出した一つの指輪を王妃様の右手、人差し指に嵌めた。
「……これは……月長石?」
「あ、そう。知ってる?」
「はい。……ですが、どうして急に……?」
王妃様は呆然としながら指輪をみつめている。
「まあ、王妃様の恋が上手くいきますようにって言うおまじない、かな?」
「……カヴィナ…………」
段々と口角の上がっていく王妃様に苦笑しながら、指輪に嵌められている月長石に軽く触れる。
……途端、月長石の上に何重もの魔法陣が展開された。
魔法陣の魔力に耐えられるよう、まずは物理面も魔法面も強化。
錆びたらやだし、その魔法もかけて。
その上で王妃様以外は嵌められないようにして、王妃様が怪我した時の身代わり役防御陣A(一回だけ、どんな強力な魔法でも無力化)と、防御陣B(一定のダメージ量を越えない限り壊れない)と、攻撃が来た時私に通知を送る魔法陣C、そして最後に、王妃様の位置が分かるのと通話の機能……テディー魔法の一部みたいなものを込める。
これ埋め込んでおけば、万が一の時通話できるしね。
……あ、普段は使わないし、埋め込んであることも教えないけど。
「……よし、おっけい」
「…………カヴィナ、今、何を込めました?」
王妃様から視線が突き刺さる。
「結構強力なやつ付けといたから、なるべくずっと着けておいてね?」
「あ、はい……って、そうではなくて……」
「あと、錆びない効果も付けておいたから、お風呂の中で着けてても大丈夫」
「それはまた……って、だから……!」
王妃様があたふたしながら何かを言おうとしている……が!
「それじゃあ帰るね王子によろしく怪我とか注意ね、バイバイ!!」
「あ――!」
ごめんね王妃様。
込めた魔法、結構強力なことに変わりはないんだけど、素直に答えると結構大変なことになるんだ。
心の中でちょっと言い訳をしながらも、勢いで押し切り無事に私は転移した。
月長石の石言葉は、健康、幸運、恋の予感。




