7 「私は、とてもっ、怒ってます!」
(……ビッ、ビビったあああ……!!)
やばい。
今、すっごい、心臓がバクバクしてる。
だって、王妃様に向かっていくのかと思えば、転移したのか何なのか知らないけど急にこっち来たし。
王妃様を守れるように防御結界張ってたら急に目の前に現れたから、びっくりして結構強く蹴り返しちゃったし。
……これ、バグなのかなあ?
敵さんは、私が蹴飛ばした瞬間に透明じゃなくなった。
今は黒いモヤモヤで覆われたみたいに見える。
人型の黒いモヤモヤ。
……一度息を吐いて、視線をあげて。
既にモヤモヤ星人は構え直しており、こっちを警戒しているように思われた。
そして、それに混じって……、恐怖かな?
急に出てきた私に向こうも驚いてるのかもしれない。
ちょっと親近感が湧いた。
「……ねえ、君、私の下に来ない?」
「…………」
モヤモヤさんは答えない。
感想としては、まあ、だろうな、と思った。
一応私たち敵なので、ね。
「ん-、答えないかあ……」
仮にこれがバグじゃないとしたら、どの属性のどんな魔法なんだろうか。
聞いた場合、私が似たような魔法を使えなくなる可能性大だから絶対に聞かないけど。
とりあえずくるっと後ろを振り向いて、王妃様を見て。
「……王妃様、無事~?」
「ぁ、え……?」
ふりふりと手を振ってみたところ、王妃様に疑問符で返された。
そりゃあ、急に知人が現れて攻撃されてるとか、意味分からん光景を見せられたらなあ。
しかも、攻撃しているのは他人、つまり不法侵入者なのである。
……いや待て、私そういえば不法侵入者側だ。やっべ、今気づいた。
「カ、カヴィナ、なんですか……?」
「……はえ?」
どうやら、困惑しているのは間違いなさそうなのだけど、なんだか妙な雰囲気になってきた。
「カヴィナ・テディ―だけど、もしかして、それ以外の何かに見える?」
「え、あ、はい。黒い、塊みたいな……あとあの、そちらの方がカヴィナに見え、ます」
「「――へ?」」
モヤさんと、不法侵入者同士、気が合うようで、同時に声を漏らした。
……これって、このモヤさんにとっても想定外の状況だったりするんだろうか。
だったら不憫すぎる。
計画立てて王妃様の暗殺に来ただろうに、全部台無しになってしまったのだから。
「うーん、私がカヴィナだって証明させてもらうと……、王妃様は紅茶にレモンを入れてちょっと冷めたくらいに呑むのが好き。けど甘い物が嫌いなわけじゃなくて、砂糖の塊みたいな飴とか琥珀糖とかも全然好き。なんならあったかい紅茶に砂糖ドバドバ入れたやつでも美味しいって言って飲める。お気に入りのカップは紺色の一本線が入ってるやつで、愛しの王様に貰ったっていうので一回も使ってない。なのにお気に入り。時々箱から出して眺めてる。最近王様と話せてるって喜んでるけどその割に本人がいるとたじたじになる。それがこう、なんというか、イラアッとする。王妃様は王様のことが好きだけど、王様も王妃様のことが好きだけど、本人たちが貴族に公爵家の一人娘っていう簡単に恋愛できない家に生まれたせいで人との関わり方が不器用すぎて、結果全然一緒に話したりお茶したりしなくなった。王妃様も王様もお互いに嫌われてるって思っていたけど、そうじゃないって分かってからというものっ、白昼堂々、いちゃいちゃするようになってっ!!つまり私は、とてもっ、怒ってます!!!」
はあ、はあ。
……なんか、論点ずれてたかも知れない。
最初は王妃様のことを述べてたはずなのに、気付けばただの愚痴である。
「まあ、王妃様が幸せそうなのは良いんだけどさあ……」
「……カヴィナですね、これは」
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