1 勇者転生
「魔王討伐の任ご苦労であったッッッ!!!」
ばちっ、と目を開くと耳への暴力かと思うような大声が飛び込んできた。何事だ、と思う暇もなくその視界に変わったものが飛び込む。
目の前には王冠被った髭もじゃ親父。その隣はやけに厚化粧の女の人。右向けば兵士、左見れば兵士。やけに豪華なでかい部屋で、周りは全員拍手している。
ぽかん、と口を開けなかったのが幸いだ。
(なんだこの最終回感は)
最初に感じたのはそれだった。ついさっき電車にひかれたというのにどうしてここに? もしや人生のボーナスステージ? そう考える少年は、まだ半分靄がかかっているような寝起きのような頭を必死に回す。
(落ち着け。俺の名前はなんだ、そうだ、俺は──)
「勇者ハイネス=ブレイブの栄光を讃えて、只今より宴を開催する!!」
(誰だそれはーーっっ!!)
すべての思考が吹っ飛んだ。
≪≪≪≪≪
少年は鎌田冬斗。私立高校に通う高校一年生。容姿は中の下くらいで身長だけはやけに高い。勉強は得意じゃない。赤点スレスレくらいだ。運動もそこまでできるわけではなく、運動会の最大の思い出は小学校でぎりぎり選抜リレーの五番目の補欠に選ばれたくらいのこと。なんという人生無気力系なのか。
人のいない教室で眠っていたはずがいつの間にか告白が始まって、起きるに起きれない状況になったこともしばしばある。ファックユー。そういう時は頭の中でリア充が死滅する想像を。
高校では冬斗が何もしたわけでもないのにヤンキーに目をつけられたり、いつの間にか女子のパンツを奪った犯人に仕立てあげられたりと散々な日々を送った。
嫌になる毎日でそれでも学校行こうとしたら突き飛ばされて電車にひかれたのが鎌田冬斗のはずだ。
名前をあげられても「え、誰だっけ?」と笑われて三秒で話題が切り替わる男が鎌田冬斗。そう、彼こそキングオブモブ。モブの王。脇役に与えられる冠をことごとく手にした男。ちなみに図書委員会所属。
そんな冬斗は、どうやら勇者らしい。勇者で、魔王を討伐したらしい。というよりも魔王を倒した勇者に転生したようだ。
「いやまじはぁ? なに? なんで?? え、俺みたいな陰キャに神様は何を求めてるの? 魔王討伐したあとの世界に転生させて何がしたいの? 顔もわからない性格も意味不明な姫と結婚でもさせるの?? 今から宴って何?? え、どうすればいいの?」
髪は茶。目の色は緑。だけど圧倒的顔面偏差値の高さ。そんな容姿になった冬斗は現在頭を抱えていた。というよりも卑屈になっていた。人前に出ることには抵抗はないし、自分が勇者になるのもいい。むしろバッチコイだ。
「どうして急に勇者になってんの? 別に勇者に転生して俺TUEEEやるのは構わないよ。だって誰だってやってみたいじゃん。俺だって世界救ってみたいよこんなクソ陰キャでもさぁ……」
しかし神様よ。せめて転生させるなら終わった後にするべきではないのか? 冒険しながらハーレムってのは、男の夢のはずだ。魔力高いツンデレなお姫様のはじめてを貰ったり、男勝りな女騎士に「くっ殺せ!」と言ってもらったり、幼女な大賢者にピーーーみたいなのをさせるのは夢のはずだ。ロマンのはずだ。
それがどうして全て終わったあとなのか。卑屈な要因はその一点に尽きる。バーサーカーにバフぶっかけて神様に対して「やっちゃえ、バーサーカー!」な気分が否めない。……返り討ちにされそうだ。
「おっまえ、タイミング悪いだろ……」
「うえっ!?」
「は?」
ただ神と己へのタイミングの悪さにため息をついたその時、聞きなれない声がした。
顔をあげれば、この世の終わりを体験していた冬斗の前に一人のメイドが立っていた。目に涙を浮かべて俺を見下ろしている。やってしまった感溢れるキョドったメイドは……なぜかその場で土下座した。
「すみませんごめんなさい私が悪いです勇者様どうかお慈悲をお許しを私にはまだ小さな弟と妹が家で雨風しのいで待ってるんですなんでもします助けてくださいお願いしますぅぅぅ!!」
「いや待て何もしない! 何もしないから!!」
「恥ずかしいことも我慢しますからあああ!! 許してえええ!! まだ初日なんです! 初日でこんな失態やらかして出禁にでもされたら私と家族の運命は終わりです終わってしまいますうぅぅ!!」
ぽかん、とした冬斗の前に現れたメイドは全身全霊で謝罪しながら自虐している。少なくとも冬斗にはそんな風にしか見えない。
そしてそんな存在は冬斗にとって未知の領域だ。何となく手に負えない感じが強い。
さらに、急に異世界へやってきてなんの心構えもなく人の視線に晒され続け、あげくの果てに女の子とのいちゃラブは回収済み、なんていうストレスが多大に重なった結果。
「だぁぁぁもう! なんなんだ一体!!」
冬斗は部屋から脱走した。
「なっ、待ってください勇者様ー!!」
後ろから聞こえる声に耳を傾けず、冬斗は走る。
だが、冬斗は知らなかった。勇者と呼ばれる冬斗、いやハイネス=ブレイブの体はとうに冬斗の常識を遥かに上回っていることを。ハイネスには魔法の才も剣技の才もある。しかし魔王を倒せた最も強い要因は、その速さと体力にあった。
簡単に言えば、音速を超える速さでいつまでもどこへでも走り続けられるということを冬斗は知らなかった。
それが冬斗にもたらしたのは、「迷子」というただひとつの結果だ。
「今度はどこだここ……」
どれだけ走っても汗をかかない冬斗は行き止まりにたどり着いた。絵画の彫ってある天井は遥か上にあり、廊下には巨大な騎士の鎧が飾られている。自分が来た道を背にすれば一軒家と同じほどの高さの扉が目の前にある。
コンコン、と叩いてみるとやけに硬い。撫でてみるとすべすべしている。押してみると勇者の力が強いからか軽く押せた。中には人影がある。バレないように息を殺すと、会話が聞こえる。
「がっはっはっは!! これで今夜勇者を我が血統に取り込みさえすれば全て私のものだ! よくやったガルディア!!」
「……恐悦至極」
(国王と……魔術師か?)
いかにも怪しい。フードつきのマントも口元を覆う赤筋の走ったマスクもどちらも黒い。手に持っているのは杖だろうか? 正直ただの木の根にしか見えない……。国王へ目を向ければ背を向けて大声で笑っている。そして、国王は両手を掲げて己の計画を破滅させる一言を口にした。
「これであの忌々しい勇者は死ぬ!! あとは全て私のものだ!! 私が奴に成り代わりさえすれば!!」
(死ぬ? 誰が? 勇者が? ……俺が?)
喉がひゅっと音を鳴らした。死ぬ。死んでしまうこのままでは。いまだだらだらと話し続けている国王から目を離せずに足が後ろへと下がった。
逃げなければ。
そして冬斗は転がるように駆け出す。王宮を出て、下町を走り、森を抜け、海の上を走った。
走って走って走って走り続けて。勇者としての強靭な体力が尽きるまで。朝も昼も夜も晩も。人目があろうと魔物がいようと。走り続けてどれだけが経ったのか。やがて冬斗は草原でばたりと倒れ込んだ。
「俺は……死なない。生き延びる……」
飲まず食わず、そして寝ずに走り続けること一年余り。もはや人としての体すら失いかけた冬斗がここまで走り抜けた理由は。
「この世界で……まだ俺は何もしてないんだよっ!」
その一言に集約されていた。
読了感謝。他にも連載してるけど、この小説を最優先で進めます。よければこれからもよろしくお願いします。活動報告も結構書いてるので。
ブックマーク、感想、評価、レビューなどなどよければ是非。




