古城に隠すもの
シルキーの頼みを受けて、ルーティスは古城の中を向かいます。
「なるほど、お姉さんは領主の娘さんだったんだね」
ルーティスはシルキー尋ねた。
そして当のシルキーは激しく首を振って肯定する。とても嬉しそうだが、どうしてなのかルーティスには判らなかった。
まぁいいや。ルーティスは自分に言い聞かせると、
「……それで? 貴女はこの城に何か未練でもあるんですか?」
もう一度、尋ねた。
『ゴースト』とは残留思念に魔力が融合して生まれる存在だ、霊魂等ではない。一応言えば魔法で強制的に消去しても良いのだが……。
(この手の自我のあるタイプは厄介なんだよね……)
消去しようとすれば制御無しの魔力をぶつけてくるし、他の人間を道連れにしようとする。事実怨念に魔力が融合したゴーストなど凶悪極まりない。道行く者達を片っ端から引きずり込むし、もっと酷ければ自分から相手の精神を衰弱させて殺すのだし。
シルキーもそれに近い処があるが……。
(このシルキーは少し違うね? 普通に人を殺すタイプのシルキーじゃない)
ルーティスは確信をもっていた。判断するに、彼女は生まれてきた背景が違うからだ。多分きっと……何らかの未練を解消したかったからに違いない。
ルーティスは静かに集中すると。
「異なる世界、異なる者。互いの意志を互いの内に。開け扉よ」
得意魔法の一つである、『魔力と会話する魔法』を創り上げた。
『……実は、壊して欲しい物があるの』
さすが魔力の塊、一瞬で感応した。
「壊して欲しい物ですか?」
ルーティスの質問に、こくんと赤面しながらシルキーが頷く。領主の娘さんの割には幼く見える動作ではある。でも、よくよく考えてみれば隠していた部分が出てきているのかもしれない。残留思念ってだいたいそんなものだから。
『……この城の地下に、隠し財宝があるらしいのです。それを壊して欲しいのです』
「……壊して欲しい物、が?」
ルーティスは眉根を寄せる。
『はい、この地下にあります』
シルキーはふわりと浮かぶ。
ルーティスもそれを追って、進む。
「まずは地下道に向かう階段のある部屋に行くんだね」
盗賊対策に複雑化した通路をルーティスはシルキーに道案内してもらい。先を目指す。
『はい、そうなのです』
シルキーはどうやらおてんばさんらしく。宙で脚を組んでふわふわ浮かんでいたかと思えば、ゆっくりと円を描いて飛んだりと中々じっとしていない。かと思えばルーティスの顔を覗き込んでは赤面する始末……。
「わけがわからないよ」
ルーティスは嘆息しきりだ。
厚く積もった石埃をブーツの先端で散らしながら、ルーティスは先に向かう。篝火を乗せていた燭台が落ちていて、巨大な石の塊が道を半分塞いでいる。
ルーティスはそれらを避けて進む。
「……ところで地下道に向かう階段というのは寝室にあるのかな? それとも玉座の間とか」
『どうして判ったの?』
何気ないルーティスの呟きに、シルキーは振り返る。
「だいたい隠し階段を付ける部屋なんてそんなものさ」
『その階段は玉座の間から降りて、さらに下にあるの。脱出用地下道の下に……ね?』
「うん、良く解ったよ」
右に折れて、先に進む二人。
「ところで何が眠っているんだい?」
ルーティスは尋ねる。
『……判らないです。入ろうとしたら弾かれたから』
(魔力体のシルキーが進入出来ない? ……なら、強固な魔法結界が施されているんだね)
ルーティスは当たりを付けると、
「領主様はご存知だったのですか?」
と、水を向けてみた。
『知ってはいたみたいなのです。事実、私の兄上は力ある魔術師でしたが……破壊する事が出来ませんでしたから……』
魔術師が破壊出来ない? ルーティスは眉根を寄せた。その人はとても高位の魔術師だったのだろう。城に張り巡らしていたであろう結界の跡を見て、ルーティスは感じとる。
「とにかく急ごうか」
『はい』
ルーティスが玉座の間へと辿り着いたその時。
室内に、魔力の流れを感じた。
「……あの玉座の下に階段があるね。そして――」
ルーティスは迷いなく、傍の燭台の一つに魔力を集めた。部屋を流れる魔力は、あの一点に集中していたのを知ったからだ。魔力と対話する魔法を持って、さらに探る。
やがて魔力が溜まって仕掛けが動く。
玉座が横に動いて、階段が現れる。
「……かなり暗いね? 下が見えないや」
ルーティスは顔をしかめて、
「光よ集え、灯火となれ。暗闇を照らす輝きを我が手に」
呪文を唱え。光の玉を滞空させる。淡く冷たい輝きは闇をささやかに退けて。先へと進む。
階段を下りながら、ルーティスはねっとりと絡みつく毒沼のような空気が満ちていた事を感じた。
魔力が淀むように、渦巻いていて。人を不安にさせるようになっている。なるほど、人払いの魔法が張り巡らしてあるんだね? 辺りを調べながら。ルーティスはマントの襟を絞めて、先に進む。罠や、迎撃の魔法もあるだろうから。ここから先はもっと気を付けないといけない。
「異なる世界、異なる者。互いの意志を互いの内に。開け扉よ」
ルーティスはまた、魔力と対話する魔法を使い辺りの魔力と会話した。
眸を閉じて、魔力の意思を体感する。魔力達はルーティスを仲間と認めて色々な事を語る。この場所に張り巡らしてある罠の魔法や、純粋な賊避けのトラップ……。さらには封印されているものの事も――。
「……なるほど、精霊が一体封印されているんだね」
『そうなのですか?』
シルキーが尋ねてきた。
ルーティスはうんと頷くと、
「かなり高位の精霊だよ。多分初代領主が封印したものらしいね。当時戦争に勝利するために召喚したけど還し方を知らなかったから。それでやむなく封印を施したらしいね」
歩きながら、罠を解除して先に行く。
『……どんな精霊か、判る?』
シルキーが不安げに顔を見上げてきた。ルーティスは腕を組む。付近に満ちた氷とは違う冷たい空気と引きずり込むような、それから透き通った泉のような気配から。
「……闇属性の、精霊だね」
ルーティスは壁の穴から飛んでくる矢を叩き落としながら推理した。
闇属性――。それも……かなり強い精霊だねと、ルーティスは精悍な顔立ちで先を進む。覚悟は必要だ。闇属性は全ての属性を半減させる効果があるのだから。
やがて三重の強固な封鎖魔法で閉ざした扉が現れた……。
今回は比較的平和です。




