序章
死にかけている。
胸の中で、溶けた鉄が渦巻いている。八十九年分の病んだ肉体が、みすぼらしい部屋に横たわっていた。霞んだ視界の中、《システム》のインターフェースが赤く点滅する。俺の苦しみになど、微塵も関心を払わずに。
**【名前:トマス】**
**【レベル:1】【HP:1/5】**
**【筋力:2】【敏捷:1】【スタミナ:1】**
**【状態:臓器不全(末期)― 残り時間:11分】**
十一分。犬のようにおとなしく死ぬつもりはない。
震える指でインベントリを開く。そこにあった――俺の唯一の宝。最後の崩落の下で死にかけながら、ギルドの監督官から盗んだものだ。**【残留経験値の結晶:災厄級】**。
レベル1でこれを使うのは、胸にダイナマイトを打ち込むのと同じだ。
「弾けるがいい」俺は呟いた。
爪を結晶に食い込ませる。胸骨に押し当てる。
バキッ!!
金色の、濃密で、暴力的なエネルギーが肉に沈み込む。通知が脳内で花火のように弾けた。
**【結晶発動! +2,000EXP読み込み中……】**
**【レベルアップ!2】【レベルアップ!3】【レベルアップ!4】【レベルアップ!5】【レベルアップ!6】**
ぐああああああああっ!!!
骨がきしみ、組み直される。折れた背骨が油圧ピストンの力でマットレスに押し付けられ、まっすぐに伸びる。関節が細胞レベルの速さで癒えていく。乾いた皮膚が張りを取り戻す。白内障が、熱湯に溶ける砂糖のように消えていく。
跳ねるように立ち上がる。木の床が足元でひび割れた。
鏡の中にいたのはもう死体ではない。肩幅の広い、殺気立った目をした男だった。
金色の文字が目の前に浮かぶ。それは同時に、一つの呪いの宣告でもあった。
**【進化完了!】**
**【固有パッシブスキル:『逆さの時計』】**
**【効果:レベルが上がるたびに、肉体は正確に1歳若返る】**
**【固定効果:年齢は《システム》に固定される――もはや時の流れでは老いない。動かせるのはレベルアップのみ、そして常に逆方向へ】**
**【現在の状態:83歳――レベル6】**
**【筋力18|敏捷20|スタミナ22|知恵45】**
**【固有隠しステータス:器質性不妊――レベルでは変更不可】**
三倍速で計算する。血の気が引いた。
他のプレイヤーたちはレベル80、90まで経験値を稼ぎ、伝説になる。彼らはあの階段に憧れる――無限の力、永遠の若さ、決して衰えない肉体。
俺も同じ階段を持っている。だが、逆向きに登っているだけだ。
同じことをすれば、レベル80で俺の肉体と脳は九歳の子供のものになる。最深部のダンジョンに取り残され、子供の背丈で、生き延びる術さえ忘れた頭で。
レベルアップは、もはや褒美ではない。
俺自身が消え去るまでの、カウントダウンだ。
八十三歳。八十三レベル――それが、『トマス』という存在が残っている限界だ。
さらに悪いことがある。俺の肉体は、もう普通の人間のように時間で老いることはない。《システム》がその扉を封じた。自然に歳月が降り積もるのを待つことはできない。立ち止まって、時間が勝手に解決してくれるのを待つこともできない。今や、俺の年齢を決めるのはレベルだけだ。進める方向は、後ろしかない。
地球では、俺は爪弾き者だった。不妊。あの頃の記憶で鮮明に残っているのはただ一つ、古い写真のように縁が焼け焦げた光景――ある女が、音も立てずにそっとドアを閉めていく姿。それが何より、こたえた。「不良品の容れ物」――医者たちはそう言った。工場の故障を告げるのと同じ、抑揚のない声で。妻を持つことも、子を持つことも、誰かの家系図に枝を伸ばすこともなかった。この世界は、ただその呪いをステータスとして刻み直しただけだ。二十九年の坑道労働と老いが、残りの何もかもを空にした。
そして今、《システム》がその仕上げをしようとしている。
「急いで上がれば、無力な子供になる。立ち止まれば、死ぬ」拳を握りしめる。関節が銃声のように鳴った。
採掘用のツルハシを手に取る。片手で軽々と持ち上げる、まるで玩具のように。刃が渇いたように風を切る。
真夜中に外へ出る。迷わず《嘆きの迷宮》へと向かう。
ポータルをくぐる。薄闇。百メートルの沈黙。
そのとき、うめき声が聞こえた。
闇の中から**感染ハンター(レベル9)**が現れる――かつてプレイヤーだった者の、蘇った死体だ。腸を地面に引きずり、膿を垂らしながら。
目もくらむ速さで襲いかかってくる。
知恵45が、その一撃をスローモーションに変える。鉤爪の軌道が正確に見えた。短く、冷たく、処刑人のように横へ一歩。死体は俺の横を通り過ぎていく。
両手でツルハシを振り上げる。
「沈め」
ズシャッ!!
鋼が腐った果実のように頭蓋骨を貫く。頭が弾け飛ぶ。骨片と灰色の脳漿の雨が顔に降りかかる。死体が痙攣しながら崩れ落ちる。
通知が瞬く。また過剰摂取のような感覚が襲う。
**【敵撃破! +220EXP】**
**【レベルアップ!7】**
**筋力:18→20|敏捷:20→22|知恵:45→48**
**自由ステータスポイント:5**
熱が胸を引き裂く。黒い血だまりの上に膝をつく。肋骨が独りでに組み直される。こめかみの白髪が抜け落ち、黒い髪に置き換わっていく。
八十二歳。
より殺傷力を増し、より追い詰められていく。
不妊の刻印は今も消えず、俺が自らの血筋の終わりとして生まれたことを思い出させる――そして今、《システム》は俺を後ろへ、幼年期へと押し戻している。
昨夜眠った家を思い出そうとする。
何も出てこない。
ある名前が、この上なく鮮明に脳裏をよぎる。もう存在しない地球の言語で。顔は思い出せない。声も思い出せない。ただ名前だけが、誰のものでもなくなったまま、宙に浮いている。家までの道を、思い出せない。
「どこ……」心臓が戦太鼓のように胸を打つ。「――どこだった、俺の家は」
闇の奥から、二つ目のうめき声が答える。さっきより近い。そしてその後ろに、三つ目の気配。
このダンジョンに、俺は一人じゃない。
そして、それすらも恐れるべき理由を思い出す時間さえ、もう俺には残されていない。




