第19話「凱旋の鐘、恋文のような夕暮れ」
浄化を終え、帝都へと戻る行幸の列は、民衆の熱烈な歓迎に包まれていた。
道行く人々は色とりどりの布を振り、花の香りを撒き散らして、救国の英雄である皇帝と皇后を讃えた。
輿の中に座る玲玉は、その熱狂に少しだけ恥ずかしそうに顔を赤らめていたが、その横顔には自信と、得も言われぬ品格が備わっていた。
「驚いたな。これほどまでに民が熱狂するとは」
龍帝がいたずらっぽく笑いながら、玲玉の手を握りしめた。
「陛下……、私には少し荷が重すぎます。私はただ、陛下のおそばにいたいだけなのに」
「それこそが民の望みだ。朕が幸せであり、お前が幸せであること。それが帝国の安寧に直結しているのだからな」
龍帝は玲玉を自分の方へ引き寄せ、その唇に軽い口づけを落とした。
「帝都に戻れば、没収した白家の跡地をどうするか決めておかねばな。あの忌まわしい屋敷はすべて取り払わせた。お前の望む通り、民が憩える美しい庭園にでも作り変えてはどうだ」
「それは素敵な考えですね。かつて私が閉じ込められていた暗い地下室の場所には、光あふれる一番綺麗な蓮の池を作りましょう」
玲玉は穏やかに微笑んだ。
憎しみはもはやなかった。
ただ、過ぎ去った過去を慈しみ、未来へと繋げていく余裕が、彼には生まれていた。
◆ ◆ ◆
その夕暮れ、二人の乗る輿は宮殿の門をくぐった。
夕日に染まった黄金の瓦が、二人を祝福するように輝いている。
龍帝は輿を降りると、自ら手を差し出し、玲玉を地面へとエスコートした。
「玲玉。長い旅だったが、お前がいてくれて本当に良かった。お前がいなければ、朕はただの孤独な王として、いつか瘴気に呑まれて消えていたはずだ」
「……陛下。私こそ、陛下に見つけていただけなければ、あの暗闇の中で独り、誰にも知られずに死んでいきました。私を生かしてくれたのは、陛下の愛です」
二人は沈みゆく太陽を見つめながら、改めて固い約束を交わした。
どんな時も、何があっても、お互いの手だけは決して離さない。
宮殿には、凱旋を告げる鐘の音が、高らかに、そしていつまでも響き渡っていた。




