第14話「月下の告白と絹の吐息」
泉の浄化を終えた一行は、麓にある小さな離宮で一夜を過ごすことになった。
かつては荒れ果てていたその離宮も、玲玉の霊力によって周囲の植物が活力を取り戻したせいか、見違えるように瑞々しい風情を漂わせていた。
◆ ◆ ◆
夜、玲玉は用意された寝室のテラスに出て、一人で月を眺めていた。
昼間の浄化の余韻がまだ体の中に残っており、少しだけ火照りを感じる。
澄み切った空気の中で輝く月は、まるで自分の心を見透かしているかのように穏やかだった。
「……ここで何をしていた」
背後から、龍帝が近づいてくる。
彼は薄い寝衣を一枚羽織っただけの姿で、その隙間からは鍛え上げられた胸元が覗いていた。
「陛下。……月があまりに綺麗だったので。こうしていると、白家の地下室にいた頃の自分が、別の誰かのことのように思えるのです」
玲玉は少し寂しげに笑った。
龍帝は玲玉を背後から包み込むように抱きしめた。
龍帝の肌の熱さが、薄い絹越しに伝わってくる。
「あの頃のことは、もう忘れろ。お前を閉じ込めていた壁も、凍えるような暗闇も、もうどこにもない。……あるのは、この朕の腕の中だけだ」
「はい……。分かってはいるのですが、時々、急に不安になるのです。こんなに幸せでいいのだろうか、いつかこの夢が醒めてしまうのではないか、と」
玲玉がつぶやくと、龍帝はその首筋に優しく顔を寄せ、小さな吸い跡を残した。
「ひっ……陛下……」
「お前の体に、朕の印を刻んでやる。何度でも、何千回でも。これでお前が朕のものであると、その身に刻み込んでやる。夢などと言わせぬほどにな」
龍帝の手が、玲玉の衣装の帯をゆっくりと解き始めた。
滑らかな絹が床に落ち、玲玉の白い肌が月光に照らされる。
恥ずかしさに震える玲玉を、龍帝は力強く抱き寄せ、そのまま巨大な寝台へと運んでいった。
寝台の帳が下ろされ、二人の世界は白檀の香りと甘い吐息に包まれる。
「玲玉、朕を見ろ。……朕だけを見るのだ」
龍帝の瞳が、暗闇の中で獣のように金の光を放った。
それは純粋な愛情を超えた、圧倒的な征服欲と独占欲の表れだった。
「あ……ああ、陛下……」
玲玉は龍帝の首に腕を回し、その激しい抱擁をすべて受け入れた。
龍帝の熱い肌、力強い脈動、そして自分を求める震えるような愛おしさ。
そのすべてが、玲玉に「自分はここにいていいのだ」という確信を与えてくれた。
龍帝は玲玉の小さな声を啄み、その耳元で熱くささやいた。
「お前を、絶対に離さぬ。誰にも、運命にさえも奪わせぬ。お前は朕の心臓であり、この国の魂なのだから」
その言葉とともに、二人の魂は再び強く結びついていった。
外では風が木々を揺らし、新しく芽吹いた花々が、夜の静寂の中で誇らしげに咲き誇っていた。
明日からはまた、困難な旅が続くかもしれない。
けれど、互いを信じ、深く愛し合う二人にとって、もはや恐れるものなど何一つなかった。




