長として
環境が激変した清美の周囲。
だが、あの敗北で変化したのは両親のみでは無い。
「清美、怪我は落ち着いたか?」
「はん、あの程度大した事無いわ」
あの死闘を共に経験したからなのだろう。
普段から清美を嫌っていた総一郎の態度が軟化した。
わざわざ彼が1人で会いに来たのは初めての事だ。
「で? 何でここにきた訳? 嫌味言いに来たの?」
「嫌味を言いに来た奴が、
最初に怪我の具合を確認する訳ないだろうに」
「あっそ、じゃあ何よ」
かなりツンツンとした態度で清美は総一郎と会話をする。
だが、普段の彼女よりは軟化した態度でもあった。
他の陰陽師達はそんな清美を見て少し違和感を感じる。
しかし、それを指摘すれば機嫌を損ねるだろう。
それを察してる彼らは指摘などはしなかった。
「剣の稽古に付き合って欲しい」
「はぁ? 何であんたが私にそんな事を?」
「前回の戦いで感じた事なんだが、俺は今まで
対人の訓練しかしてなかった。
それでは駄目だ、妖怪を想定した訓練も必要だ。
しかし、あやかしの方たちに迷惑は掛けれない。
だから、お前に付き合って貰いたいんだ」
「なんでよ」
「お前は結界術による防御や霊力による攻撃がある。
妖術程攻撃的では無いが、十分訓練出来る」
「あたしがあんたに付き合う理由が無いわ」
あまりに唐突な申し出に対し、清美は不機嫌に答える。
総一郎は無論、この態度になるとは理解していた。
「お前にも利はある。剣技の訓練だ」
「はぁ? 何であたしがあんたに」
「清美、お前の剣技は我流だろう? 見れば分かる」
「そうよ、我流。誰かに教わる必要は無い」
「無論、我流には我流の強みがあるだろう。
型が無いのだから。しかし、基礎が出来て無ければ
それは、ただ刀を適当に振り回してるだけだ」
「挑発してるの?」
自分の戦い方を馬鹿にされてると感じた清美は
総一郎を睨みつけながら答えた。
自分が正しいと思っている戦い方を適当に振り回してるだけ等と言われれば挑発と受け取るのは自然だ。
ましてや相手は今まで自分を馬鹿にしていた相手ならば当然の反応だろう。
「お前は今、陰陽師候補の子を教えてるんだろう?」
「そうよ、それがどうしたの?」
「新人に戦い方を教える際、お前は刀も教えてる。
その戦い方が正しいと思ってるからだ」
「当然よ」
「だが、お前の戦い方はお前が天才だから成立する。
お前の教え方ではその子に基礎を教えられない。
そのままでは、お前が教えてる子が基礎を学べず
不完全な剣技で戦い命を落とすかもしれない」
総一郎に指摘された事は彼女が感じていた事だ。
剣技を指導しても、自分では剣技の基礎を教えられない。
同時に何故部下である陰陽師達が最初に刀を抜かず
式神の召喚をしようとするのかの理由にも気付いた。
「お前と共闘して気付いたんだ。
そして陰陽師達の動きを考えて分かった。
陰陽師達は刀を優先的に使わない。それは何故か。
基礎が学べていないからじゃないか?
基礎が学べていないから、自信が無い剣技ではなく
基礎をしっかりと理解した陰陽師の戦い方をする。
陰陽師達が刀を使う様になったのはお前の指示だ。
だが、肝心なお前が剣技を我流で覚えてしまった。
お前が天才だから。
しかし、それでは部下の成長には繋がらない。
新しい子を鍛えても、
今のお前では剣技は教えられず、浸透しない。
だから、今一度、基礎を覚えるべきだ」
「長い! 要はお前は基礎できてないから
部下には教えられないだろって事でしょ!?
結局、嫌味じゃないの!」
総一郎の言葉を聞いて、彼女は怒りを感じた。
だが、総一郎の言葉にも一理あるとも感じる。
事実、基礎を習得出来ていない彼女の剣技だが
その剣技は総一郎以外には勝てる程だ。
御剣部隊は剣技でも彼女には勝てない。
まさに清美は天才だった。
しかし、それゆえに彼女は他者に教えるのが苦手だ。
「嫌味では無い、分かった筈だ、あの戦いで。
俺達は確かに天才だ、周囲は皆、そう言ってる。
俺だってあの戦いまではそうだと疑わなかった。
今でも俺は自身の強さには自信がある。
だが、俺達は所詮、人間の中では天才でしか無い。
あやかしや悪鬼からすれば、
ちょっと強いだけの人間でしか無いんだ!」
「私は河童の長を倒してんのよ!
大軒の奴にやられただけで、長には!」
「あぁ! そうだろう! だが、大軒よりも強い
強力な悪鬼だって居るはずだ!
このまま、そんな強い悪鬼にはあやかしに頼り
自分達は弱い悪鬼を倒すだけで良いはずがない!
少しでも自力を上げて実力を付けなければ!
俺達は守護者では無く、ただの守護対象のまま!
あやかし達の仲間では無い!」
「あいつらは妖怪! 仲間じゃないのよ!」
「……」
清美の言葉を聞き、総一郎は怒りを強く覚えた。
拳を握り締めて、清美を睨みつける。
しかし、怒りを抑えるために彼は呼吸を整えた。
「なら、負けっぱなしで良いのか?」
「はぁ!?」
「勝てない悪鬼には負けるのは仕方ないと?」
「馬鹿にしてんの!?」
「強くなるにはやり方を変えるしかない。
同じ事を繰り返すだけでは、
俺達人間は劇的な成長なんて出来ないはずだ!
敗北したのに、努力の方向性を変えない人間は
勝つ事を諦めてるのと同義だ!」
「言わせておけば!」
総一郎の言葉を聞いて清美は刀に手を伸ばす。
だが、総一郎は刀に手は添えない。
真っ直ぐ清美を見ていた。
「清美、俺達は強くならなければならない。
幼稚に喧嘩をする訳には行かない。
俺達は長だ、好き嫌いで行動しては駄目なんだ。
組織の長として、部下を少しでも守る為にも」
「……」
総一郎の言葉を聞いて、
自分が幸子に剣技を教えてる様を思い出す。
自分は彼女に何を教えられていたか。
ただ、刀を振らせていただけではないか。
技術では無く、知ってる事を教えただけ。
具体的に何か指導をしたのかと。
そして、不安そうに自分を見てる幸子と桐絵を見て
刀に伸ばしていた手をどかした。
「……御剣部隊と陰陽師の合同訓練って事?」
「あ、あぁ! まずは長である俺達で訓練して
その後、陰陽師と御剣部隊で訓練をしたいんだ!」
清美が了承してくれたと感じ、総一郎は笑顔を見せた。
清美は変わらず悔しそうな表情を見せているが
彼女は行動する事を選んだ。
清美が他者に言われて意見を変えた様子を見て
陰陽師達は驚きの表情を見せる。
「分かった、すぐ覚えてやる」
悔しそうな表情はそのままだが
彼女の瞳には確かな決意が見えた。




