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守護狐の千年物語  作者: オリオン
第2章、都の騒動
22/41

気まぐれの優しさ

不機嫌な態度を崩さないまま

彼女は都を徘徊することにした。

特に理由がある訳でも無い。

ただ、あの後に戻るのが嫌だと感じるのだ。


何故、周囲は忌々しい妖狐を擁護するのか。

妖怪に対し、かなりの嫌悪を持つ彼女は

その事がどうしても気に入らなかった。

唯一対等なはずの親友さえもだ。

まるで、洗脳を受けてるようだ。


自らだって、あの妖狐の事は理解してる。

千年近く前、玉緒の前が封印された後に生じた

三大悪鬼の力の破片である筈なのに

唯一人に味方した、謎の妖狐。


「ったく、あいつ何なのよ!」


宝龍達、崎神族が彼女を監視して

警戒する必要は無いと判断した。

それは分かっているのだが、気に入らない。

優しいから無警戒なのは納得が出来なかった。

あやかしのふりをして霊力を奪う悪鬼も存在すし

それによって、犠牲になった子供達も多い。

だが、そんな事は彼女にはどうでも良かった。


彼女からしてみれば、妖怪は駆除対象であり

わかり合う必要も無い。

そもそも、自分が敬われれば良いのだ。

天才である自分よりも強いと称されている相手が

どうしても気に入らないのだ……いや、違う。


「……クソ」


分かってる筈だ、何が気に入らないか。

他の連中があの妖怪をどう思おうと知ったことか。

連中に寄り添うつもりも無いし

そいつらが何かを敬おうと関係無い。

だが……親友である亜希子が自分よりもその妖狐に対し

明らかに敬意を持って居るのが気に入らないのだ。

自らが1番では無く、そんな話でしか聞かない様な

どこぞの妖怪なんかを大事にしてるのが嫌だった。


「あぁ?」


不機嫌そうに都を徘徊していると

不自然な妖力を彼女は感知した。

僅かではあるが、何かあっても面倒だと感じた彼女は

少し怠そうにその妖力を感じた場所へ足を進める。


「ひ、ひぅ……」


そこには潜伏型に襲われてる子供が居た。

大人に擬態して、子供を押さえつけてるようだ。

普通の人でも止めそうな状況ではあるのだが

子供の衣服はボロボロで売られたのかも知れないと

そう感じる人が居るかも知れない。


あの少女が売られて、あの男が買ったのであれば

この路地裏で襲われそうになっても誰も手は貸すまい。

当然、身売りという物もあるのだから。

だが、妖力が漏れているのが分かる。

相手が悪鬼ならば自らはそれを排除する必要がある。

まぁ、例え人間だろうと容赦はしなかっただろうが

悪鬼であるならば完全に容赦の必要は無いから楽だ。


「……はぁ」

「ぎ」

「ふぇ!?」


清美は面倒くさそうにしながらも

その潜伏型の悪鬼を一瞬で祓った。

そして、不機嫌そうな瞳を少女に向ける。


「路地裏は危ないって親から聞いてるでしょ?

 潜伏型の悪鬼が居るかも知れないんだから

 子供は人目に付かない所に寄り付かない」

「ごめんなさい……で、でも私、売られて」

「あっそ、そりゃ災難ね。

 ま、あんたの事情にはあまり興味は無いけど

 悪鬼に狙われたら流石により面倒だからね。

 ほら、私に付いてきなさい」

「う、うん、お姉さん……」


少女は清美の左手を掴んだ。

自らは彼女に手を差し伸べたわけでは無いのだが。


「……はぁ、転けないでよ。ま、あんたが転けても

 もう服はボロボロなんだし、変わらないだろうけど」

「う、うん」


利手を掴まれて、少し不服な態度を取る。

まぁ、両手利きに矯正している訳であるから

左手を掴まれても問題は無いだろう。

そう考え、彼女は少女を連れて通りに出る。


「あ、ありがとう、お姉さん」

「……」


涙ぐんだ瞳を、彼女は自らに向けてお礼をした。

結構小さな子供は生意気な態度を取ることが多いが

どうやら、彼女は中々に育ちが良いらしい。

身なりにしては、中々。


「……あんた、名前は?」

「あ、えっと幸子さちこ

「幸子ねぇ、ありきたりな名前ね」

「あの、お、お姉さんのお名前は……」

「あー? まぁ、別にどっかで聞くだろうけど

 私の名前は清美よ」

「き、清美お姉さん……あ、ありがとう!」


自分の名前を誰かに告げたのは久し振りだった。

この都では彼女の名を知らぬ者は殆ど居ない。

その為、この自己紹介は少し新鮮だと感じた。


「幸子、あんたに服を買ってやるわ」

「え!? ど、どうして!?」

「汚らしいのよ、そんな身なりで都を歩き回られたら

 また路地に連れ込まれるわ。それは面倒よ。

 折角助けたのにどっかでのたれ死にじゃ

 無駄な事したような気分になるのよ」

「で、でも、た、助けて貰ったのに、そ、そんな」

「あんたの為じゃないわ、私の気分の問題なのよ。

 ほら、グダグダ言わずに付いてきなさい」

「う、うん!」


再び彼女は清美の左手を掴んできた。

やはり利手を掴まれて、少し不機嫌になるが

子供相手に自棄になるのもと感じた彼女は

再びため息交じりに彼女を呉服屋へ連れて行く。

呉服屋の店員達は彼女の来店に驚く。


基本的に自身の身なりに興味を持たない彼女が

呉服店に来ることなど、殆どないからだ。

彼女の判断基準は強さのみであり

衣服に興味などを割いたことは無い。

幼いときから、ただ悪鬼を倒すことだけを考える。

悪鬼に憎しみが合った訳ではないのだが

やはり家柄、親からは常に鍛錬を怠るなと

そう教わって努力をしてきたのだから。


「き、清美様が……何故」

「何よ、私がここに来たら不服だっての?」

「い、いえ、驚いただけで……そ、その。

 そちらのお子様は……」

「悪鬼に狙われてた売られた子供よ。

 こんなボロボロの服で歩かれたら

 こっちも迷惑だから服を買ってやろうとしたの。

 ほら、さっさと子供用の服を出しなさい」

「は、はい、ただいま!」


呉服店の店員は急いで子供用の衣服を持ってきた。

かなりの高級感がある服だ。


「わぁ! き、綺麗!」

「最高級の和服です。材料は麻となってます。

 更に独自製法により、汚れにくく

 シワなども発生しにくいのです」

「ふーん、独自製法なのね」

「はい、錫音様が編み出した独自製法を

 更に我々が改良して生み出しました」

「……またその名前か」


錫音の名が出て来て、やはり不服な思いが出た。

だが、幸子が嬉しそうに手に取ってるのを見たため

それを奪い取ると言う事は出来なかった。


「こ、これ!」

「桜の模様が入ってるわね」


彼女が選んだ服は

黄色い生地に桜の花が描かれていた。

子供っぽい雰囲気はしっかりとあるのだが

桜の花というのが、中々に渋いセンスだと感じる。


「あんた、桜が好きなの?」

「うん! 私、桜の花が大好きなんだ」

「どうしてよ」

「えへへ、家にね、桜の木があってね。

 お母さんとお父さんが死んじゃう前は

 いつも春に桜の花を見ていたんだ。

 すぐに散っちゃって、凄く寂しいけど

 また1年経ったら綺麗な花が咲いて

 私は毎日毎日楽しみで、大好きで」

「……そ」

「……」


桜の絵を見て、彼女は初めて涙を流した。

襲われそうになってたときも怯えては居たが

涙までは流してなかった様だが

どうも、昔を思い出して涙が出たらしい。


「……で、いくら?」

「あ、その……」

「何? 聞えないの? いくらよ」

「これを、か、買われるのですか?」

「何よ、非売品を出したわけ?」

「い、いえ、ただ……」

「この子がこれが良いって選んだんだから

 何を迷ってんのよ、早く言いなさい。

 金はあるわよ、どうせ使わないしね」

「10万銭です」

「じゃ、これで」


清美は即座に懐から10万銭の価値がある大判を出す。

金で出来た、かなり大きな金銭である。

この世界の銭とは、現代の円相応であるといえる。


金銭には小型の円形で中に四角い穴がある小銭。

中くらいのサイズに中央に丸い穴がある中銭

大きなサイズで、中央に穴も開いてない大銭。

小型の金で出来た平たい金銭、小判。

中型で縦に僅かな溝がいくつか出来た中判。

大型で横にシマシマの溝が出来ている大判がある。


それぞれ、小銭は1か5の数字が掘られており

文面がいくらか変化している。

これは、他の中銭、大銭も同じである。

中銭には10か50の数字が掘られ

大銭には100、500、1000の数字が掘られている。

数字はそのまま、その銭の価値を表わしている。


小判には1万銭の価値があり

中判には5万銭の価値があり

大判には10万銭の価値がある。

これが、この日の国における通貨であった。


「ありがとうございます」


呉服店の店員は清美が出した大判を受け取った。


「で、この子の着付けは出来るの?」

「はい、お任せください」


店員は彼女を店の奥へと連れて行く。

その間、清美は少し気怠そうに店を回った。


「はぁ、何が良いんだか」


戦う事しか知らない彼女からしてみれば

衣服の類いなどには何の興味も惹かれなかった。

少し見て回ろうとも、価値があるようには見えない。

彼女の目には、衣服の価値等は動きやすいか否か。

それ位にしか興味は惹かれなかった。


和服の一部を開いて、中を見て見ても

収納する為のスペース等が殆どないのを見て

当然、かなり不服そうな表情を見せる。

動きにくそうだし、武器を潜める場所も少ない。

これでは式紙、符、針を十分に持ち運べない。

あまりにも連戦に向かない設計を見て

こんなの使い物にならないと感じていた。


「……私にはやっぱり分からないわね」


都の人々が色々な衣服を着ているのを見ているが

明らかに戦えそうにない衣服を身に纏い

歩き回ってる同世代の女性を見ても

羨ましいという感情は決して浮かぶこともなく

あんなんじゃ、動け無いと言う感情しか出て来ない。

これが変だというのを、亜希子に言われた事がある。


色々な服があった方が良いと言われたから

何度か服を見て見たが、一切魅力を感じなかった。

……いっその事、自分は男として産まれたかった。

心の何処かで、彼女はいつもそう思っている。

その方が、自らは強くなれたんじゃ無いかと

どうしても、そう思ってしまうから。


「……はぁ」


この亜麟錫華史も自らが男であれば

もっとしっかりと扱う事が出来たんじゃないかと。

そう、彼女の心には常に戦いに支配されていた。


「清美お姉さん!」

「あぁ?」


服を適当に眺めていると楽しそうな声が聞え

彼女は幸子の姿を見た。


「どうかな!? 似合ってるかな!?」


幸子が自分の前に来て、嬉しそうに回ってる。


「まぁ……」


最初と比べればマシね。彼女はそう言おうとした。

だが、目の前のあまりにも嬉しそうな少女を見て

その言葉を吐き出すことはなく、一旦呑み込む。

そして、少しの間だ考えて、再び口を開いた。


「そうね、似合ってるんじゃない?」

「えへへ! ありがとう!」


自分の言葉を聞いて、再び嬉しそうに笑う彼女を見て

少しだけ、嬉しいという気持ちが生まれた。

亜希子と話してる時程じゃないにせよ

少しだけ楽しいと感じた。


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