おっちょこちょい
魔人の驚異的な適応能力に苦戦する俺たちは、精神的に徐々に追い詰められていた。そこへファウナの余計な一言により火が点き、戦いはまだまだ分からなくなった。
「くそっ! ファウナの奴め! おいカスケード! 次はどうすんだ!」
ゼット世代、ゆとり世代なんて言葉には、俺は全く気にしていない。寧ろそれは、先輩である大人たちが作った時代でそうなっただけで、それをまったく気付かずほざいている大人の方が駄目だと思っていたからだ。
しかし、まるで今の時代は私たちのお陰であるかのようなファウナの言い分には、俺たちの底力を舐めている感があり、一気に闘志に火が点いた。
“まぁ、そう熱を外に出すな大将。こっちだって久しぶりに火が点いた。こんな機会はそうは無い。どうせなら徹底的にやろう”
世代は一つ上のカスケードでも、流石にファウナの言い分にはスイッチが入ったようで、珍しくやる気を見せる。
“いいぜ。やるならとことん付き合う。それで、どうすんだ?”
“奴を見ろ。随分と単純な性格をしているようで、ただひたすら与えられた傷に対して体を進化させている”
カンパネラ姉さんたちと銃弾による攻撃。薬品による攻撃。その二つに対応するために、魔人は体を固くし、遂には皮膚まで黒く染め始めた。
“奴が科学に基づく進化をしているのか、それとも本能的に進化しているのかは分からない。だが、どうやら衝撃と薬品の二つに対応するためには、生物では限界があるようだ。あの黒い皮膚が良い例だ”
“だろうな。さすがに俺でも、全部の薬品に対して進化すれって言われたら、生物を辞める”
皮膚を溶かすものもあれば、呼吸器官を壊すものもある。神経だって狂わせる物もあるだろう。おそらく薬品に対しては生物では対処しきれない。
“それで?”
“これからさらに火力を上げれば奴は固くなり、薬品も効かなくなる。しかしその分生物ではいられなくなる。奴に科学という知識があるかはまだ分からないが、このまま続ければいずれ奴はただ耐えるために行動を捨てるだろう”
“なるほどね。石みたいになっちまえば、そりゃかなりの耐久力を得られる。だけどその後はどうすんだ? 石になっても瘴気はヤバイままだ。姉さんに頼んで宇宙の遥か彼方までぶん投げてもらうのか?”
火山だろうが海だろうが、瘴気がある限り奴は害を振りまく。二度と地球に戻れない所まで運べば、奴を倒せなくても被害は永遠に及ばない。しかしいくら黄泉返りの姉さんでもそんな所まで投げ飛ばせるはずもなく、結局石にしても危険であることに変わりは無かった。
“英雄様が教えてくれただろう? 奴を倒すには傷を与えるのではなく、瘴気を削れと”
“言ってたかそんなこと?”
“言ってたさ。俺たちは傷を与えて、回復に瘴気を使わせることばかりに囚われていた。悪い癖だ”
“確かに……”
ファウナは、俺たちは正解を言っていたと言っていた。俺は全然それが分からなかったが、やっぱりカスケードは頭が良いようで、直ぐに理解できていた。
“パチンコもそうさ。金が欲しくて行くのに、いつの間にか玉やメダルの数ばかり追いかけている。金が欲しいのなら、直接金を取りに行けばいい。ふっ……今更それに気が付くとはな”
それはただの犯罪者。パチンコはあくまで遊びのはず。それを未だに金稼ぎだと思っている辺り、やっぱりカスケードはダメな奴だった。
だけどここに来ていつもの節が出るカスケードは、相当良い精神状態に入ったようで、期待値は高そうだった。
“で、それは分かったけど、どうすんだよ?”
“奴が動けないのなら、こちらは手傷を負うリスクは無くなる。そうなれば、うちのエースの独壇場だ”
“エース……なるほど! そいつは負ける要素が無いな”
“あぁ”
瘴気に対して最も効果があるのは、ラファエル様の聖刻。カスケードはやっぱり凄い奴のようで、ファウナの『誰が最も魔人に対してダメージを与えていたのか』という問いかけまで理解していた。
“んじゃ、後は殴って殴って奴を固くして、引きこもりにするだけだ”
“そういう事だ”
魔人のチート級の能力には、正直ビビった。だけどやっぱり完璧なんて物は存在しないようで、答えが分かれば簡単なパズルだった。
“皆! 聞いてただろう? そうと分かれば一気に行くぞ!”
魔人は既に生物であることを捨て始めている。このまま攻撃を続ければ間もなく奴は地蔵になる。
これならばマリアたちを助けに行く時間も十分出来るはず。
一気に流れは俺たちの味方に付いた……はずだったが、やっぱり世の中そう簡単ではなかった。
“ちょっと待って隊長?”
“どうしたのフォイちゃん?”
“私たちはどうすれば良い?”
“え?”
どうやらフォイちゃんは話を聞いていなかったようで、とんだおっちょこちょいだった。そう思っていたのだが、おっちょこちょいは俺の方だった。
“陛下。今の私たちでは、聖刻無しではもうあの魔人には傷を負わすことが出来ません。
“え?”
“そうだよ隊長。カスケードの攻撃でもカンカンいってたんだよ? なんかしないと、あてぃしたちじゃ無理だよ?”
“あ……”
もう今の魔人には、アサルトライフルの弾でさえ弾かれる。あれ以上奴にダメージを与えて固くするには、既に固すぎた。
“おいどうすんだカスケード?”
もう俺には、課金してもクリアするには難しすぎるパズルだった。やっぱりここは、ハーバード大学出身のカスケードに頼るしかなかった。
“これを使う”
そう言うと、カスケードは観客席の塀を巨大なライフルに変えた。
“初めて作るから、どこまで持つかは分からない。だが、威力だけは保証する”
あれは、ゲームとかで見た事がある対物ライフル銃。あんなものまで作れるとは、奴の趣味が何なのか不明だった。
“先ずはこいつを覚えさせる。それが終われば、次はさらに威力のある物で傷を与える。さすがにそれくらいやれば、限界が来るだろう”
あのさらに上があるとは、奴はもう……一人メタルギアソリッドだった。
だけどここにはもう一人ゲームの世界の住民がいたようで、カンパネラ姉さんが注文する。
“おい。ハンマーは作れるか?”
ハンマー⁉
“出来るだけ頑丈で、先の尖ったやつが良い。もし取って置きでも駄目だった時、私が全力で打ち込む。黄泉返りの力にルキフェル様の聖刻を乗せれば、銃火器などおもちゃだ”
物凄い自信。対物ライフルをさらに超える兵器でも、まだ勝てる自信があるらしい。だけどそれは嫌味ではなく、誇り高い黄泉返りの聖刻者の風格が溢れ、格好良かった。
そんな逞しい姿を見せられれば、応えてしまうのがハードボイルドだった。
「生憎、金属は俺の得意分野だ。期待に応えらえるような脆い物なんて作れない。もし壊れる事があったら、代金は要らない」
「十分だ」
無駄にハードボイルド。確かにカスケードは鉄を作り出すことが得意だが、あの黄泉返りプラスルキフェル様の聖刻者相手には無謀過ぎ。
なまら格好付けているようだが、多分一撃で粉砕されるのが落ちだった。
それでも今はハードボイルドタイムのようで、カスケードは命一杯聖刻を振り絞ってハンマーを作り出しても余裕の表情を見せ、注文通りの大ハンマーを落とした。
するとそのハンマーは、マジで壊されたくない意地が籠っていたようで、地面に着くと抉り込み、足の裏に地響きが届くほど無駄に重かった。
それをカンパネラの姉さんは軽々拾う。
「柄まで鋼鉄とは、悪くない。だが、高く付いたな? 支払いはしなくて済みそうだ」
「ふっ。そいつは良い余興だ。期待してるぜ」
意味分からんハードボイルドタイム。絶対結果は分かり切っているのに、二人してニヒルな笑みを浮かべる。そんでカマボコもちょっとは手伝ってやればいいのになんもしないで、頼れる相棒みたいな雰囲気出して、もうハンマーなんて振り上げた時点でぶっ壊れれば良いと思った。
まぁそれでも、これで準備完了。
ここからやっと、勝利に向けた攻撃が始まる。
当然ですが、カスケードは全くハーバード大学とは関係がありません。しがない田舎の高卒です。




