表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
第八章
205/209

子守り力

「さて、どうしたもんか……」


 父さんが造り出した疑似魔人。その力は魔人に匹敵するほど酷似しており、今ここで俺たちが何とかしなければ、イタリア全土が崩壊する。

 そもそもこの魔人の発生は俺たちにも原因があり、マリアたちもピンチだが俺たちが終息させなければならなかった。


 チンパン、ゼロワンが、俺たちと魔人をコロッセオに閉じ込め、俺、フォイちゃん、ルーベルト、ブラックチョコレートが前衛。カスケード、カマボコ、カンパネラの姉さんが援護。そして、ファウナ、苦労が後衛を務める布陣。


 相手はたった一人の魔人だが、これほどの戦力を以てしても強敵。いざ颯爽と戦場に降り立っても迂闊には近づけず、前衛四人は魔人と一定の距離を保って睨み合うことしかできなかった。


 魔人に動きは未だ無し。肩を落とし、下を向いたまま瘴気だけを膨らまし続ける。それはまだ戦闘態勢への準備中なのか、それともただ動けないだけの失敗作なのかは分からない。

 だけど放たれる瘴気は凶悪さを秘めており、戦いは静かな立ち上がりだった。


“どうする皆? 俺はこういう相手とは戦ったことが無いから、どうすれば良いか分からん”

“相手の出方を見るしかありません、陛下。特に陛下はお気を付けください。動きはなくとも、彼は陛下を見ています”

“分かった”


 俯いたまま動かない魔人だが、視線のような意思は感じていた。それは全員に対して送られている、観察や警戒という情報収集なのだろうが、ルーベルトの助言からどうやら俺に対しては特に熱視線らしい。

 

 おそらくそれは、前衛の中で最も位の高い、神の聖刻を持つ事や、アズ様の聖刻と魔人の力が似ている事が関係しているのだろう。いや、もしかすると父さんが造り出した人形に遺伝子が含まれているかもしれないし、それ以外の何かが関係しているのかもしれない。


 とにかく理由は分からないが、最も生存確率の高い俺が先陣を切ることが出来ないというのは、よりファーストコンタクトを難しくさせていた。


“フォイちゃん、何か分かった?”


 会場に降り立つと、フォイちゃんは直ぐに魔人を中心に円を描き始めた。おそらくそれはスズメバチが持つ習性から来る動きなのだろうが、今の俺たちにとっては非常に心強い偵察力だった。


“見た目は普通の人間みたいだけど、それ以外は分からない”

“そうか……”

“だけど、こいつ意思があるよ”

“意思?”

“全然動かないけど、私がこれ以上少しでも近づこうとすれば直ぐに攻撃してくる。目では見てはいないけど、全部視てるから気を付けてよ皆”

“分かった”


 フォイちゃんが言う意思とは、多分自我の事。フォイちゃんに対してもきちんとテリトリーを主張している辺り、戦う意思はある。

 相手の知能が分からない以上、さらに厄介な情報だった。


“おいカスケード。そこから数発こいつに撃ってみてくれ。相手も待ちなら、こっちもなんにも出来ねぇ”

“それはやめておいた方が良い、大将”

“なんで?”

“まるで爆弾だ。撃てば一気に動き出すかもしれない。撃っても良いが、大将たちは大丈夫か?”

“……いや、ちょっと待ってくれ”

“分かった”


 俺たち前衛が何もできない理由が正にそれ。静かすぎる魔人は、文字通り一触即発という気配がビンビンしており、何をしてくるかも分からないからこうなっている。


“おい、誰かこういう戦い得意な奴いないのか?”

“…………”


 実践経験が凄そうなのは、ファウナ、カンパネラ姉さん、カスケード、ルーベルト、カマボコくらい。その中で、こういう戦いを経験していそうなのは……ファウナくらい。だけどそのファウナも口を開かない所を見るとあまり自信が無いようで、お手上げ状態だった。


“くそ……仕方ねぇ。先ずは俺が先陣を切る。何あるか分かんねぇから、皆援護してくれ”

“分かった隊長”

“畏まりました陛下”

“ブラックチョコレートも頼むぞ?”

“出来る事はします”

“頼んだ。おいカスケード! 特にお前を一番当てにしてるからな! 頼んだぞ!”

“安心しろ大将。もし大将が”吸収“されるような事があったら、直ぐに頭を撃ち抜く。安心して死んでくれ”

“流石だ。しっかり殺せよ”

“了解”


 ここに来てのブラックジョークは、良いセンスだった。何よりも、きちんと取り込まれる可能性まで注意してくれるカスケードは、やっぱり頼れる男だった。


“んじゃ、皆準備してくれ。行くぞ”

“……陛下! 何を⁉”

“え?”


 作戦が決まり、いざ突入のために両手に魂のグローブを作った。すると突然ルーベルトが叫んだ。そんでなんだとルーベルトを見ると、もう既にエライ事態が発生していた。


“隊長行ったよ!”


「えっ⁉」


 俺が攻撃態勢に入ったのがいけなかったのか、それが引き金となり、フォイちゃんの声で気が付いた時には、もう魔人は俺目掛け走り出していた。


「うおっ!」


 短距離選手並みのスタートダッシュ。それも相当必死なのか、視線は定まらず、口を開けて涎を垂れ流す。

 そんな魔人が俺をロックオンして猛ダッシュして来る姿には、思わず恐怖の声が漏れてしまった。


「陛下! 早くその魔具を仕舞って下さい!」

「えっ⁉」

「おそらく魔人は、アズ神様の力に反応しています!」

「ええっ⁉」


 そう言えば、ファウナはアズ様と魔人の力は似ているから、聖刻は使わず、物理攻撃に専念しろと言っていた……気がする。だけどそれを思い出した時にはもう遅く、力を引っ込める時間も、回避する時間も無かった。


 こいつは……吸収されると思った。


 おそらく魔人は、似た性質を持つアズ様の力を奪うために俺を狙った。魔人は本来単体では戦わず、ホロウ集め、そこからエネルギーを吸収して戦う。それが今は丸裸同然だし、チンパンたちのバリアによってエネルギーを集められない。そうなれば当然魔人はエネルギー確保を優先し、最も性質の近いアズ様の力を狙う。何故なら、俺も絶対そうするから。

 魔人がずっと動かないでいたのは、作戦を考えていたか、ターゲットを探っていたか、エネルギーを吸収するタイミングを伺っていたから。


 このピンチで、一瞬でこれだけの事を考えられるのは、間違いなく吸収されるフラグだった。

 そんでもただでやられるのは癪に合わず、吸収されると分かっていても、一発だけでも殴り返す覚悟で挑んだ。


「クソッたれ!」


 もうマジでビビった。なんか、こんだけ聖刻者がいてリーダー的に振舞って、そんで格好付けて一番に飛び込むみたいな事を言って、一番最初に脱落する。それも開始僅か数秒でリタイアして、魔人をパワーアップさせる。

 セル編の悟飯やベジータを散々戦犯だと馬鹿にして来た俺なのに、まさか自分がそれ以上の役立たずの戦犯になってしまうなんて、もう怒りの鉄拳しか出すものが残っていなかった。


「コナクソ! 皆あとは任した!」


 例え役立たずの戦犯でも、このタイミングなら相打ちで魔人に一発入れられる。例え俺が吸収されてマイナス百以上になっても、ここが俺の最初で最後の見せ場だった。


「うおおおぉぉぉ!」

 

 全ての動きが遅くなる。全ての音が消え去る。人間が見せる極限状態のスロー。もう完全に吸収確定だった。


 だけど、俺には仲間がいた。


 あ、もう駄目だ。と諦めた瞬間、小さな黒い点が魔人の顔に当たり、魔人は視界の外へとぶっ飛んでいった。


「大将! 直ぐに力を解除して離れろ!」


 頼れる男カスケード。マジできちんと言ったことを守り、極限のピンチで魔人の頭を撃ち抜いた。

 その精度、威力、タイミングは完璧。


 それに、きちんとサポートする体制を取っていたフォイちゃんが魔人を追いかけており、魔人が吹き飛ぶと直ぐに姿を現し、猛スピードで俺の顔を横切って行った。


 この圧倒的な子守り力。もうこんな俺なんてチームには必要無いんじゃないかと思ってしまうほど完璧なチームワークだった。


「フォイちゃん! カスケード!」

「良いから早く聖刻を仕舞うんだ大将!」


“とにかく一回離れて隊長!”


 ただでさえ強力なアズ様の再生力に加え、天使様の加護を得た仲間による子守り。我は最強だった。そして、足手まといだった。


「くそっ!」


 とにかく一回離れた。多分あのまま居ても絶対皆の邪魔になるから、思いっきり後ろを向いて走って離れて、カスケードたちがいる下まで離れた。


「おい! なんか武器くれよ! 俺聖刻使えねぇんだよ!」


 どうやら魔人は、マジでアズ様の力だけを求めているようで、聖刻を解いた俺が後ろを向いて走って逃げても追いかけて来ず、まだゆっくりと立ち上がっている最中だった。

 その遅い動作のお陰で、これだけパニックを起こしても十分に余裕があった。


 だけど十分カスケードたちの信頼は失ったようで、俺が武器をくれと言ってもカスケードは狙撃体制を崩さないし、武器もカマボコに作らせるし、作ろうとすると俺に聞こえない声でカマボコに何か面倒くさそうに注文するし、出来たら出来たで剣をそのまま地上に落とすしで、俺に対する扱いはかなりぞんざいだった。


 まぁそれでも、これで俺はカマボコが作ってくれた、両手持ちの勇者とかが使うような剣を手に入れることが出来た。


“大将、分かっていると思うが、下手に聖刻は使うな。狙われるぞ”

“分かってる。多分あいつはアズ様の聖刻が欲しいんだ。もう聖刻は使わねぇ。こいつがあれば十分だ”

“分かっているのなら良いが、それでも魔人には近づくな。聖刻は使わなくても、誰が欲しい力を持っているのかは覚えたはずだ”

“分かってるよ。だけど、カスケードがいれば安心だ。信用してるぜ”

“今のは運が良かっただけだ大将。次同じことが起きれば、当てる自信は無いぞ?”

“えっ⁉”


 てっきり今の狙撃は狙ってやったものだと思っていた。だがどうやら違うようで、まさかの運頼みだったとは驚きだった。


“俺たちの命中率は、六十パーセントも無いと思っていてくれ”

“わ、分かった……気を付ける”


 まさかの俺たち。多分俺に当てろと言ったら百パーセントのくせに、こんな時だけリアルな数字を言うカスケードは、いや、カスケードとカマボコは、降りて一緒に戦わせた方が戦力になりそうだった。


“とにかく大将はフォイたちのサポートに回ってくれ。あの三人なら瘴気に対処できるはずだ”

“……そ、そうだな”


 瘴気に対して最も耐性があると云われるラファエル様の聖刻。瘴気に対して最も抵抗力があると云われるルキフェル様の聖刻。そして、魔人が最も欲しがる近い性質を持った聖刻を持つ俺。

 もうはっきりと邪魔だと言ってくれた方がマシだった。


 最前線にいるはずの俺だったが、ここから見える景色は観客席にいるはずのカスケードたちよりも、観客席。


 …………煙草という物を初めて吸いたいと思った今日この頃だった。


 続く!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ