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The Rampage 2021 - Sweet blood death dawn  作者: 冬野 立冬
epilogue
71/72

64話 役者はその役割を終える


 市内某所────



「そろそろ死んだか?」


 明かりが届かない暗い暗い地下の部屋。

 そんな暗い雰囲気に溶け込む様な、陰鬱な言葉が壁を伝って木霊した。

 すると、その言葉に呼応するように今度はジャラジャラと鎖の音が地下に響く。

 その音を聞いた男は口元に残酷な笑みを浮かべ、座っていた椅子から立ち上がると、手元で血塗れのレンチを遊ばせながら歩み寄る。


「お前……絶対に許さないからな!」


「これから死に行く人間に許される必要なんて何処にある?」


 地下の奥には微かなライトが灯されており、そこには三人の男が血塗れの姿で壁に鎖で繋がれていた。

 そのうちの一人が男に喉を潰す勢いで叫ぶが、対する男は特段臆する事もなく肩を透かしただけだった。

 微かなライトによって顔が割れた男の容姿は、パッと見で三十後半から四十前後と言った所だろうか。

 外国人だと一目でわかる顔の輪郭に青い瞳。年相応の精悍な顔立ちから、普通なら役者でもやっていそうな見た目なのだが、顔に付いている返り血が彼を『裏』の世界の人間だと強調させていた。


「頼む……我々の命はどうでもいい……だが!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」


 さらにもう一人の男が嘆願するが、相変わらず男は眉一つ動かさずにレンチを遊ばせるだけだった。

 男の目の前にいる三人は追分元市長と『NOT』の生き残りメンバーの二人だった。

 三人ともかなりレンチで殴られているのか、顔面には見るに耐えない生々しい傷とそこから溢れ出る血が涙のように滴っていた。

 特に追分は年齢の事もあり、他の二人に比べて圧倒的に虫の息である。

 そんな老人を助けてくれとせがまれた男は、首を数回横に振り、わざとらしくレンチを振り(かざ)す。


「お前達は何もわかっていないな。お前達は雇い主のハルネに手を出したんだぜ?それはもう生きて帰るなんて甘い考えは捨てろよ。アイツはそんなに優しくねえんだ」


「……やはり……あの小童の差金か!」


 ハルネという単語に虫の息で反応した追分は、最後の力を振り絞るように叫んだ。


「おぉ、まだそんな力があったのかジジイ」


 しかし男は非情にもその口を黙らせる為に、振り翳していたレンチを下に振り抜いた。

 追分の頭部に見事に当たったレンチは甲高い金属音を地下に響かせる。

 その音を聞いた男はさらにテンションを上げながら言葉を紡いで行く。


「アイツに刃向かって勝てるわけがないだろ!?何でかって!?この俺が直々にアイツの刃として居るんだぜ?喧嘩を売る組織を間違えたなジジイ」


「お前……!」


 自身の上司であり、過去には命の恩人でもある追分を侮辱された『NOT』の部下は歯軋りを立てながらも、何とか男に喰らい付こうとするがその牙は届かない。


「無能だな……悲しい事だ。無能はこの世で一番悲しい事だ。無能な奴のせいで大事な人は死に、挙句の果てには自身も無能な骸を地に晒す事になる。恥を知ったらどうだ?」


 言葉を言い終えると同時に、男は勢いよく歯軋りを立てていた男にレンチを振り抜くと、レンチの当たり所が悪かったのか、男はぐったりとした姿勢になり、意識が途絶えた状態になってしまった。


「脆い……肉壁になる事すら叶わずか。無能は最後までやはり無能なんだな。まぁ、しかし無能も集まれば厄介になるものだぞ追分とやら。それを()()()()()()アンタの無能さも身に染みるぜ」


「言わせておけば!『NOT』は解散をする予定だったんだ!大き過ぎた組織はこれからの事件に不要だと!」


「それが結果として空回ったんじゃ無いか。だから無能だと言っているんだこの蟻野郎」


 『NOT』のもう一人の部下が反抗をしたが、すぐさま男に顔を蹴られてその口を閉じさせられた。


「よし、そろそろしっかりと殺そう。飽きたからな。遺言は残させる義理はないか。よし、そうしよう」


 男は再度レンチを振り翳し、追分の頭部にその標準を定める。


「あばよ、老害」


 大きく振りかぶられたレンチは確かな殺意を持って追分の頭部へと迫る。

 が────


「今ここで俺がお爺ちゃんを完全に助けるってなったら一千万を要求する。乗るかい?」


 突如現れたサングラスをした男に片手で受け止められたレンチは、追分を襲っていた男の力をいくら乗せてもピクリともしない。

 たった一瞬の出来事だったが、男は突如目の前に現れたサングラスの男に力を出すべきだと悟った。

 男はレンチを乱暴に手から振り放すと、再びレンチを振り翳すが、サングラスをした男────乖穢(かいえ)は華麗なステップでレンチを躱した後に、そのまま追分の隣に移動した。


「で、どうする?」


「……仕事も果たさない男にまた金を賭けろと?」


「そう言わないでよ!次回は頑張るからさ!」


 乖穢は金が絡む案件は必ず仕事をやり遂げるという評判はある。

 しかし今この場面で乖穢を完全に信用して良いのか否かは迷い所であった。

 追分の脳内にはある一つの推測があったのだ。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ハルネなら乖穢に手を回すのはやりかねない事だ。

 それは、ハルネのやり口を市長選で嫌と言うほど味わう事となった追分が誰よりも理解している。

 だからこそ乖穢を今ここで信用して金を渡すべきなのかは、判断に迷う所であった。

 しかし現場が考える時間を与えない。


「その老害の味方なら容赦なく殺すが?」


「まだ味方を継続するか話し合ってるから30秒ぐらい待てる?」


「待てんな。俺は女の頼みしか聞かないタチだ」


「女に屈する男なんてダサいだけだよ?」


 乖穢のセリフが気に食わなかったのか、男はピクリと顳顬(こめかみ)を動かして手に持っているレンチを勢いよく投げつけた。

 乖穢は咄嗟に回し蹴りでそのレンチを地面に叩きつけるが、男はその叩きつけられたレンチをすぐさま拾って乖穢に迫る。

 あまりの動きの滑らかさに乖穢は一瞬呆気に取られるが、すぐさま意識を戦闘に向け、勢いのままに振り下ろされたレンチを両の手のひらで止め見せた。

 しかしその威力は先程よりも何倍も力が増幅しており、乖穢の受け止めている手からはミシミシと骨が圧縮される様な音が鳴っていた。


「ほら!早く選んでお爺ちゃん!」


 ここで乖穢を味方につけなければ自分の命はここまでであろう。

 結局ハルネに何の反撃も、妨害も出来なかったのは心残りであるが、生きている意味も正直見当たらない。

 ならここで死んで楽になっても良いのではないか?という考えが頭によぎるが、乖穢の言葉が追分の考えを遮った。


「ハルネを倒したいんなら僕の力が必要でしょう!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 嘘かも知れない。

 金を得るためのその場凌ぎの言葉文句。

 しかし、それでも追分は『ハルネ』という単語に反応せざる終えなかった。


「本当にやれるのか」


「誰に物言ってんの……?僕はこの街で最強の男って呼ばれてるんだよ?」


「じゃあお前は俺の雇い主の敵になったって事で良いな?」


 レンチを挟みながら、男は潰しにかかっている乖穢に語りかけた。

 その言葉に乖穢は口元を僅かに歪ませて答えてみせた。


「勿論!」


「じゃあ生きて帰せねえな!!!!!!」


 男は一度レンチを離し、再びレンチを振り翳す。

 乖穢はすぐさま防御態勢に入るが、それは些か無意味な事になった。

 決して相手の攻撃力が高すぎて防御が無駄に終わった訳ではない。

 防御をする意味が無くなったのだ。


 男はレンチを振りかぶったまま綺麗に停止しており、まるで時を止められたかのように乖穢と追分は錯覚した。

 しかし次の瞬間に男は「そうかい」と口を動かした為、その錯覚は綺麗に消え失せた。

 男は何かと話しているように見えたが、その相手が誰なのかはわからない。

 よく見ると左耳には小型のイヤホンが()められており、恐らくはそこから誰かの通信を受け取ったのだろう。

 男は連絡を受け取った後は完全に戦意が消えたのか、レンチを適当な所に投げ捨てて出口へと足を進めて行く。


「命拾いしたな。とはいえ今度会う時は殺しちまうかもな」


「やれるもんならね」


「減らず口が」


 男は乖穢の煽り言葉を適当に流すと、出口の扉を閉めて自身のアジトへとその足を向ける。

 その最中に男はイヤホンをしている耳に、手を当てながら再び目に見えない相手との会話を始めた。


「どうせ消すなら今ここで消しても問題ないだろ?」


『これは僕の完全な腹いせだよ。邪魔された分、意地悪してやりたくなったのさ』


「後で後悔しても知らねえからな」


『その時はまた君に働いてもらうさ。レクサス』



 ×                        ×


 男が去った後。追分、乖穢サイド────


「このまま放置しても出血多量で死ぬと思うから知り合いの医者の所に行くよお爺ちゃん」


「金の為となればどこまでも貪欲な男だな、相変わらず……」


 追分は頭部に負った打撲によって滴る血液を抑えながら、何とか乖穢の知り合いが勤めていると言う病院まで足を運んでいた。


「金が欲しいならせめて身体を支えるぐらいの事はして欲しいものだな」


「死にかけにしては元気な口だね?俺は基本男には触らない主義なのさ」


「そんな事よりもだ……ハルネを倒せる術というのを教えてくれ。その考え次第で金はさらに考えよう」


「おぉ!太っ腹だねえ」


 乖穢は追分と出会った当初と同じようなわざとらしい笑みを浮かべながら、追分の質問に答えた。


「そうだな……不死者を見た感想なんだけど、アレを殺す術は一つしか無いね」



「それは────」


 ×                         ×

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