61話 沙羅家の祖
ビル内エントランス────
地下から階段を伝って上がったハルネ達一向は、警官達が辺りに散らばるガラスの破片に付いている血痕を採取している光景が展開されている、エントランスへとその足を進めていた。
「全く……派手にやってくれたな」
自身の市長就任祝いのパーティーがこここまで派手に崩されるとは、流石のハルネも予想外だったのか少し肩を落としている様子だった。
更には、パーティー開始の前から感じていた『嫌な予感』が洞爺という不気味な男に目をつけられたと言う、最悪な形で答え合わせをさせられてしまった事もハルネが肩を落とした要因の一つだった。
────あれはいつか障害に成りかねないな。
ハルネは今後の事を考えると、洞爺の存在はどうにも無視できない気がしてならず、いつか対策を立てる必要があると心中で呟くいた。
そんな難しい顔をしているハルネの背後から、相手の調子を全く気にも止めていない飄々とした声が響いた。
「まあまあハルネ。もうこの場所から死の匂いはしないからそう難しい顔をしないでよ!」
ハルネは決して誰かが死ぬ事を案じてこの顔をしている訳ではないと心の中で思ったが、フェイルには何を言っても体力を無駄使いするだけだと悟っているのか、適当に「あぁ、わかったよ」と相槌を打った。
「にしてもこのビルの損害は誰が出すんだ?そういえばフェイルはこのビルを壊した張本人でもあるよな?」
ハルネが適当にフェイルをあしらったタイミングで、プラトが辺りを見渡しながらふと、そんな事を呟いた。
するとフェイルは両手を振りながらすぐさま否定に入る。
「いや!あれは僕被害者だよ!?いや……僕が中途半端に殺された結果ああなったから一概に僕が悪くないとはいえない?これはまずい?」
自身の首を勝手に締めて勝手に苦しむフェイルの様を見て、ハルネは呆れたように口を挟んだ。
「被害者って事にしておけばいいじゃないか。このままさっきの大男が見当たらなかったら一先ず国が直してくれるんだからさ」
「いや!僕は死には正直でありたい!ここで彼が選んだ人殺しという死の道を否定しては完璧な死になんて到底辿り着けない気がするんだ!」
「何を言ってるんだ君は……」
「理解しようとするだけ無駄だぜハルネ?」
プラトが肩をわざとらしく上げながら呆れ文句を言うと、フェイルは「君達も不死の端くれなんだから、人間の死とはどうあるべきかを考えるべきさ!」と文句を呈した。
ハルネは完全に興味が消えてしまったのか、その文句には反応を示さない始末であったが、プラトは相変わらずの呆れ口調で答えてあげた。
「俺もハルネがいなきゃとっくの昔に死んでっからな。死に方で言えばそうだな……故郷の土に返してくれるんなら死に方は選ばねえよ」
「故郷を愛するブラトらしい死に選びじゃないか!僕は応援するよ?」
「人の死を応援するな不謹慎だな」
「僕は死を祝福してるんじゃなくて死の行先を祝福してるのさ!」
「違いがわからねえっての」
フェイルとプラトが適当な会話をしている中、ハルネの元には地下からあの男が帰ってきていた。
二人の気配を感じたハルネはフェイルに向けていた呆れ顔を完全に消し、いつもの狐の様な笑みを貼り付けて二人を迎えた。
「やあ、ご苦労様」
篶成と美鈴はハルネの言葉を受け取ると、美鈴だけは軽くお辞儀をしたが、篶成は特に反応も示さずに段々とハルネに近付き、至近距離と言っても過言でない程に近付いた所で話を切り出した。
「さぁ、教えて貰おうか」
「ちょっとお兄ちゃん先走り過ぎですよ」
「ははっ、良いんだよ。これの為にこんな仕事を請け負ったんだから」
篶成が一旦顔を離すと、近くにあった適当な椅子に腰を掛け、ハルネが知っていると言う篶成と美鈴の父に関する話を待った。
美鈴もまた篶成の横に腰を掛け、二人とも話を聞く準備は出来ている。
それを見たハルネは昔の事を思い出しながらある一人の男の会話を切り出す。
「もう君達は言わなくても理解してると思うけど……」
「君達の父親────沙羅 新羅は紛れもない不死者だ」




