39話 殺意再開花
洞爺が自身の目的を語ろうとした瞬間────
「ちょっと!君!後ろ!」
二人の会話に、突如として一つの声が入り込んだ。
それと同時に裕斗との会話も途切れ、即座に洞爺は言われた通り背後に意識を向ける。
すると洞爺は背後に右手を回し、後頭部付近で振り返らないまま強い衝撃を受け止めた。
息をする様に人間離れした行動をする洞爺に思わず裕斗や、声を掛けた男────フェイルは驚きの表情を露わにするが、攻撃を仕掛けたギャレスはそのまま力を込めて行く。
「殺す!絶対に!」
フェイルを殺した後、全くと言っていい程に殺人衝動が止まらないギャレスは、裕斗に牙を向けようとした結果、篶成に吹き飛ばされた。
その後、洞爺が放つ圧と存在感に暫く息を潜めていたが、殺人衝動がじわじわと込み上げ、結果として再びこの場にいる人に対して牙を立てた。
「おいおい、随分な狂犬が眠っていたもんだな」
洞爺は空いている腕の肘を背後のギャレスの腹部に撃ち込むと、微かに身体から力が抜けた瞬間を見逃さず、即座に反転してギャレスの身体に強烈な蹴りを捩じ込んだ。
あまりの衝撃にギャレスは蹴られた部位を抑えながら後退するも、その眼はまだ殺意を帯びた狂犬の目をしている。
しかし、そんなギャレスを抑える様に他の人格が阻止を図る。
{おい、クソ野郎聞いてのか。いつまで狂った状態でいるつもりだ!目の前の奴にお前は勝てねえよ!さっさとこの場から退散しやがれ!}
[アタシも今回はヴァイラの意見に賛成だねぇ……とてもじゃ無いけど目の前の男には勝てないよ。放ってるオーラって奴が違う]
「何だ?口調をころころ変えて」
ギャレスの身体に起きている不可思議な現象を、洞爺は興味深く見つめた。
「口調と雰囲気がガラッと変わる……多重人格者って奴か?初めて見たぜ」
《ギャレス!いい加減にしろ!メイナやフリラおじさんを危険に晒すな!》
洞爺の底知れない圧力に嫌な予感を感じたのか、マガトも人格を表に出し、何とかギャレスの殺人衝動を抑えようとするが────
「黙れ!!!黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!!」
ギャレスは頭を掻きむしりながら、他の人格の声を否定する。
「俺にとって殺しが全てだ!殺しをしなきゃ俺のいる意味が消えるんだよ!!!!!!」
〈不味いの〉
ギャレスの反応を見たフリラはギャレスの顎をさすりながら呟く。
これまでに無かった程の錯乱状態に陥っている。
たったこれだけで、他の人格達の不安が揺れるには充分であった。
何故なら────
【このままだと……『あの人』が起きちゃいそう?】
〈そうじゃの。早いところギャレスを抑えるしか無い〉
メイナの言葉にフリラは軽く頷き、目の前の洞爺に一か八かの交渉を持ちかけようとするが────
〈すまない。これは頼みなんじゃが────〉
「消えろ!!!!!!」
ギャレスの人格が再度前に出た事により、その交渉は強引に打ち切られた。
無理矢理人格の前に出たギャレスは、足を重々しく前に出しながら、再び殺人衝動を限界まで高めて行く。
「殺す────殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺────」
「さながら呪術師だな」
洞爺はギャレスの殺意を真っ向から受けても全く動じず、何なら口元に余裕の笑みを浮かべながら戦闘体勢を取る。
「蒼矢。やっぱり俺はここに残る。先に行ってくれ」
「洞爺!!!」
「そう、怒るなよ。立場は弁えてる。というか何だ?俺がこんな所で終わる野郎とでも思ってるのか?」
「……思っては無いが、万が一ってのがあるだろう」
「おいおい万が一なんて言葉使うなよ。俺が今までどうやってこの道を歩いて来たと思ってる?俺にあるのは万だけだ。俺がそれを引き寄せる要因なんだからな」
────その自信は本当に何処から来てんだよ……
洞爺の意見に蒼矢は軽く溜息を吐くと、諦めた様な顔をしながら洞爺に対して踵を返した。
「上で道を確保して待ってるぞ」
「あぁ、頼んだ」
蒼矢は軽く頷くと、そのまま裏口の階段から地上へと向かって走り出した。
蒼矢の足音が遠くなっていくのを聞きながら、洞爺は目の前の殺人中毒者に意識を向け始める。
「いつでも来い。遇ってやるよ」
────これは些か不味いな。
────最悪、ワシの人格はここで……
フリラはこれから始まる戦いに対して、一つの覚悟を決める。
自身がギャレスの人格の一つになった時に、ギャレスの母と交わした約束を守る為に────
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