27話 不遇者の葛藤
ギャレスと別れてから数分後────
ウィルはビルを後にする為に、逃げ遅れた市民を演じながら警察官の元へと足を進めた。
「悪い、トイレに行ってる間にえらいことになってるな」
「先程からイレギュラーが続いていてね。口調をコロコロと変える意味のわからない侵入者に続いて、こんなにも設備が整っているビルの停電とそれに重なった謎の銃声、それで一旦外に避難という事になりましてね」
「そりゃ警察さん達も気の毒だな。同情するよ」
ウィルは警官の肩に手をポンと置いた後に、再び外へ向かい歩き出す。
────意味のわからない侵入者ねぇ……
警察の言い方的にその人物は恐らくギャレスの事だろう。
ウィルも自分の目でギャレスが侵入した際の混乱は目にしている。
突然に鳴り響いたガラスの割れる音と共に舞い降りた混乱。
確かにその部分だけを見ればギャレスは『意味のわからない侵入者』と言われても仕方が無いだろう。
しかしその言葉は、ウィルの喉には何かが突っかかったような感覚を残らせた。
────好きで意味のわからない侵入者を演じてる訳でもねえのにな。
ウィルはギャレスとその内側に存在する人格と話し、彼らの異常性を感じると同時に憐れみの感情も抱いていた。
自分がもし同じ境遇を辿れるかと聞かれれば迷わず首を横に振るだろう。
それなのに彼らは今を精一杯生きている。
殺人中毒という精神病を抱えた宿主。ただ普通の女の子に生まれたかった少女。そんな妹を思う姉。
そんな彼らを「意味のわからない者』と一括りしてしまうのは、今のウィルには出来なかった。
────いやいや、待て待て。俺はなんで最終的に見捨てた奴の事を案じてんだよ。
ウィルは自分の考えが如何にいい加減な事なのかを理解すると、急いで首を横に振ってその考えを頭の片隅へと閉じ込めた。
────飯はたらふく食べた。次は金稼ぎをしねえと。何でもいい。優先順位を考えろ。
ウィルは自分に後ろは見るなと言い聞かせるようにビルを後にしようと、警官の横を通り過ぎようとする。
しかし────
「なあ、日本のお巡りさん。ついでに聞いておきたいんだが、多重人格者ってのを見た事はあるか?」
突然の質問に警官はしばしば口が開かなかったが、少しすると冷静にその返答をした。
「ありませんね。何でそんな質問を?」
「ふっ、そうだよな。見たこともなけりゃ意味のわからない奴だよな。わかるぜ」
────あ〜あ。馬鹿だなあ。平和な国に来て勘が鈍ったかな。
ウィルは自虐的な笑みを浮かべると、出口に対して踵を返し、再び警官の肩に手を置くと端的に嘘を吐いた後、その場から走り出した。
「トイレに財布忘れた。急いで取りに行ってくるからな。俺の顔覚えておけよ?不審者扱いされたらたまったもんじゃないからな」
ウィルはトイレではなく地下へと駆け出す。
上の階から一先ず避難誘導に従って降りてきた市民達を退けながら一直線に走り出す。
────今、手を貸してやっからな!
斯くして不遇者は地下へと足を向かわせる。
× ×




