エストーラ スエーツ地方
スエーツ地方
スエーツ地方は、そのほとんどがスエーツ山脈を中心とする山岳地帯に属し、森林が非常に多い地域である。潤沢な植物に恵まれ、胡桃の群生地もあり、魔物類も虫、哺乳類、鳥類まで非常に多様なものが生息する。
エストーラ、スエーツ地方の森林地帯における魔物の食物連鎖は以下のようである。
・草の葉・マタンゴ→アクトーン・スキオウロス・ムーラン →スエーツラクーン → ラートナー・ベルクート
主な魔物
アクトーン……低木の葉や木の実、草本を主食とする体長100cm-200cmにまで及ぶ大型の草食獣である。高い跳躍力と長く伸ばした角が特徴であり、捕食者に対する対抗手段となっている。
集団で行動することが多く、多くが雌雄同数のグループを作る。このグループはハーレム型とは異なり、子供の保護を重視したものであり、グループの子供を群れの中心にやり、円形の陣形を取って移動する。また、縄張りが大きく、肉食獣との遭遇をしやすいというリスクを含めた適用なのではないかと考えられる。子供は素早く自立行動ができ、餌を求めて森林内の湿地や湖沼地帯を盛んに移動する。
優れた魔術師として有名であり、角に炎を帯びさせて振るうことによって捕食者を追い払い、浮力を操作して水上を器用に歩行する姿が見られる。私見ではあるが、調査結果と照合すると、主に動魔術が得意なようである。
スキオウロス……胡桃や団栗を好む、体長20cm-30cmの小柄な魔物である。その生態は栗鼠に近く、樹上での生活を得意とする。果実などの他の生物では取りづらい食料を主食とすることから、対抗種が少なく、繁殖力も高い種である。冬眠に備えて地面に食料をため込む習性があることから、植物にとっては優れた果実運搬者である。この性質が植物の群生に大きな影響を与えており、スエーツに限らず、多くの地方の山林に見られる。
魔法は使用しないとされているが、植物型の魔物を食するために魔力を保管する器官があるようである。一説では、栄養素の不足する冬季に、冬眠中の捕食に対する対抗策として、静電気を盛んに発生させるのが、魔法ではないかと言われている。長い毛が擦れるために生じる単なる静電気であるのか、魔法によって放電しているのかは定かでないが、いずれにしても、相当に優れた防御手段のようである。
ヒトとのかかわりでは、主に毛皮としての人気がある。肉は硬く小ぶりであるため、棄てられてしまうことが多いようである。
ムーラン……長い歯を持つ体長30cm-50cmの鼠型の魔物である。穴に生息し、樹洞などにも好んで侵入する。
スキオウロス同様に果実を好んで食べるが、穴を掘るために特化した鋭い爪を利用してスキオウロスが貯め込んだ果実を掘り起こして食し、草本を食すことが多い。
一つがいで長期間繁殖を行い、非常に子を大切にする。食事はスキオウロスに任せることが多いため、その分の労力を子の生存率の向上に当てているのではないかと考えられる。
スキオウロスと同様魔法を利用することはないとされているが、発達した魔力の保管器官があることは、同様に確認されている。
スエーツラクーン……体長60cmほどの中型雑食獣であり、小動物や虫を主食とする。器用な前肢が特徴であり、捕食もその前肢を利用して反撃手段に乏しい生物を捕食する。捕食者の残した死肉等も食べ、食欲は旺盛である。
出産は一度に3‐6匹生み、一年以内の死亡率が高い。その代わり、約一年で成熟し、子の巣立ちも速い。ハーレム型のグループを作り、雌が子育てをする。
手先が器用な魔物であり、樹上を器用に行き来し、石などを利用して罠を仕掛けることがある。実際に、単純な法陣を利用した姿を確認しており、魔力の扱いは得意ではないようだが、法陣術を使って狩りをする、非常に優れた知能を持った魔物である。
ラートナー……体長100cm程度と小柄ながら、アクトーンさえ捕食する優れたハンターである。容姿は灰色の狼であり、その雄たけびは林間部の村までよく響き渡った。
集団で生活し、雌雄共同で狩りを行う。茂みに隠れるなどして獲物を待ち、奇襲をかけて捕食する。狩りの最中は妊娠中の雌と一匹の雄が子供の番をする。
一つがいのパートナーと繁殖をする。どのようにパートナーを選択するかは不明だが、世代ごとに他のグループと若い個体の交換を行うことがあり、このような行動は「お見合い交配」と呼ばれる。ラートナーは小集団を交換しながら広範な縄張りを移動するため、常に別のグループと縄張りの隣接する地域が存在し、このような交流が図られるものと思われる。
魔法については、爪とぎや歯研ぎとほぼ同様の理由で、摩耗した部分を治癒する目的で利用することがある。その他、狩りでは炎を噴き、獲物を狩場に誘導する個体が存在する。その点、魔物の中でも最もオーソドックスかつ恐れられる個体である。
ベルクート……体長約80cm-110cmで鷲に似た鳥類である。暗褐色の羽をもち、一羽で狩りをする。鋭い鉤爪と尖り曲がった嘴などが特徴的であり、肉食鳥獣の中でも獰猛である。
卵生であり、子育ては主に雄が行い、雌は抱卵中を除き、特定の雄には依存せず、巣を立って別の雄と交配をする。
狩りは空中からの奇襲であり、空中から獲物を見つけ、急降下で襲い掛かり、虫や小型獣であれば巣に持ち帰り、大型獣であればその場で食す。
前述の生態から分かる通り、雄は特定の巣に留まることが多いが、雌は次々に移動し、好みの雄を見つけて交配する。そのため、雌は狩りをするための鋭い爪は無く、くちばしも丸い。その一方で体長は雌の方が一回り大きく、その代わり、雄は特定の巣に留まることが出来るため、成体となった後の生存率が高い。
魔法であるが、ベルクートは羽ばたかずに上昇気流に乗って飛行する特性があり、温度を上げるために小規模な火を利用することがある。その他、飛行を安易に維持するために風起こす魔法も使っていると考えられ、かなりの頻度で魔法を利用する姿を確認することが出来る。主に動魔法と熱魔法を主として利用するが、その頻度の為か強力な魔法を使う姿はほとんど見られない。
ヒトとのかかわりは、深く、小動物の狩りのために育てる者もいる。また、その凛々しい眼光や体型から貴族に人気があり、狩場で発見すると、直ぐに射落とし、自慢をする者も多い。力や権威の象徴とされる事から、エストーラ皇帝は国旗や紋章にベルクートを描く。