番外編 三山の誕生日
明けましておめでとうございます。
私は生まれた時からずっと親父と一緒だった。どんな時も二人だった。だからこれからもずっとそうなんだと思っていた。
「百合」
親父の姉、おばさんが私を呼んだ。
「何? 」
「いや、ね。今日は貴女の誕生日でしょ。何か欲しいものでもあるのかと思って……」
おばさんは言い澱みながらそう言った。欲しいものなんて無い。
「無いよ〜大丈夫〜」
私はヘラヘラと笑って言った。「……そう」と残念そうにおばさんは言った。私が欲しいものは永遠に手に入らない。
親父は、私の誕生日を毎回祝ってくれた。しかし、彼の口から「誕生日おめでとう」という言葉は聞いたことがなかった。ただ
「ハッピバースデートゥーユー ハッピバースデートゥーユー ハッピバースデー ディア 百合〜 ハッピバースデートゥーユー」
この歌は唄ってくれた。英語では言ってくれたのだ。ちなみに結構音痴だった。
けれど、この歌がどんなプレゼントよりも嬉しかった。
今日は大晦日、おじさんもおばさんも仕事が休みで、家にいる。
おばさんは朝からご馳走を作っていて、なんとケーキまで作ってくれるそうだった。あんなに迷惑をかけてきたのに祝ってくれるとは、彼女は相当なお人好しだと思った。
おじさんと二人でテーブルに向かい合わせで座り、テレビを観る。すると「なぁ」とおじさんが話しかけてきた。
「何か欲しいものはないか? 」
私はやはり何もいらないと、おじさんに返した。問題ばかり起こしている私を置いてもらってるだけで有難いのだ。
私がヘラヘラと笑うと、おじさんも残念そうな顔をした。気を使ってはいるが、本当に欲しいものが無いのだ。
前までは欲しいものがあった。親父と同じ、いや似た目をしていた男子。私だけしか見れないようにしてやりたかった。だから色々と嫌がらせをした。好きな子には意地悪したくなるアレみたいな感じかもしれない。度は過ぎていたけれど。
しかし、ことごとく邪魔をされた。私がどんなに彼を苦しめようとしても、あの女が邪魔をしてくる。繊細な人形のような顔をして気の強い彼女は、どうやら彼の事が好きならしい。私は彼女にお灸を据えた。あの時の彼女は如何にも傷ついたという顔をしていた。
「なんか、田中ってエロいよね」
そう言ったのは、所沢だったか前橋だったか? どちらか忘れたが、とにかくそんな話題が学芸会前日に上がった。
田中は外人とのハーフのためか背が高く、顔も垢抜けていた。最初は恐怖で縮こまっていたが、最近は水谷や周りのお陰なのか笑うようになった。その顔がカッコイイという者もいれば、こいつらのようにエロいと言う奴らもいる。
「今日のドレスを着た姿なんてさー…うち、新しい扉開きそう」
「特に、たまにチラリと見える足がたまんないよね〜」
「じゃあ、もっと見えるようにしない? 」
私は、ハサミを持って言った。
悪事は全部バレた。バレるとは分かっていた。最初から最後まで藤井に見られていたのだから。藤井が学校に来るように仕向けたのは私だ。暴走する自分を心の何処かで止めたかったのだろう。
藤井は五年の時、同じクラスだった。そしてイジメの標的だった。掃除を押し付けられたり、教科書を奪われたりしていた。
私は本当に最低な奴だ。だから最低な奴としかつるめなかった。いつものように、掃除を藤井に押し付けて私は帰ろうとした。すると、つるんでた奴の一人が藤井に「その服ないわ〜やっぱ母子家庭だから金が無いんだね〜可愛そう〜」と言った。
「私はあんたのピンクのリボンが無いと思うわ〜自分に似合ってると思ってんの? 」
私はそう言った。そいつは固まっていた。次の日からイジメのターゲットは藤井からそいつになった。
まぁ、私が藤井をいじめから救ったようなもんだが、私だったらこんな奴とどんな事があっても仲良くなりたく無い。しかし、藤井は何を思ったのか、ある日お礼を言ってきた。
「あの時助けてくれてありがとう。」
彼女は変わった子だった。今もあの時も。
「百合、誕生日おめでとう! 」
おばさんとおじさんはそう言った。テーブルにはご馳走が並んでいる。私の大好きなものばかりだ。その中にはちらし寿司もあった…
親父が誕生日にはいつも作ってくれていた物と全く同じだった。味も見た目も。
私が懐かしく思っていると、おじさんが言った。
「百合はいらないと言ったが、どうしても何かプレゼントしたくてね。しかし、今時の子の好きなものがわからなくて……二人で考えて手紙を書いたんだ」
よかったら読んでくれと、おじさんとおばさんは言った。
自分の部屋で私は手紙を開いた。
『百合へ
慶太君が亡くなって、私達がお前を引き取ってから今日で一年だ。
今日まで色々な事があった。大変じゃ無かったと言ったら嘘になる。
しかし、お前の親になれて私達はとても幸福だ。
お前は優しい子だ。人の痛みが分かる。人を傷つけるとお前は苦しそうにする。気づいていないだろうが、お前は悲しい時や暗い気持ちの時に笑う癖がある。その笑顔を見ると、私達は辛くなる。本物の笑顔とあまりにも異なるから。
これ以上、苦しそうなお前は見たくない。私達を気遣ってくれる優しいお前を私達は愛している。
暗くなってしまった。もっと楽しい事を書こう。
お前の親父さん、慶太君は料理が下手だった。しかし、お前には良いものを食べさせてやりたいと、お前がお腹にいる時から家に料理を習いにきていたんだ。最初は失敗ばかりだった。黒焦げな物体をよく作っていた。でも、お前が離乳食を食べ始める頃には全てをマスターしたよ。離乳食を口にするお前を嬉しそうに見ていた。
慶太君は、確かにお前を愛していたよ。「上手く愛せない」と私達に相談してきたが、愛していなければそんな相談はして来ない。
また暗くなってしまった。とにかく私が言いたいのは、慶太君はお前を愛していた。きっと今でも。愛の形は決まっていない。色々なものがある。しかし、私達はお前を傷つけない愛しかたをしたい。慶太君の分まで。
百合、一年間ありがとう。そして、これからもよろしく。
おじさんとおばさんより』
……親父は私を愛していた。そう書かれているのを見て私は嘘だと思った。最初はそうだったかもしれない。でも私が成長して、生物学上の母親に似てくるうちにそんな気持ちはどこかに言ったはずだ。じゃなきゃあんな事にはならなかったはずだ。
私は、机の引き出しの奥にしまっている親父の残した遺書を出した。
……読もう。愛されていたと勘違いしないうちに。きっと恨み言がたくさん書かれているはずだ。私が親父に愛されるわけがない。そんな自分に都合の良い展開になるわけが無い。
私は意を決して手紙を開いて見た。
『誕生日おめでとう、百合』
泣いた。
凄く凄く凄く、欲しかった言葉がそこには書かれていた。だめだ。これじゃあ愛されていたと勘違いしてしまうじゃないか親父のバカ。
泣いていたら、時計は0時を回った。新年だ。おじさんとおばさんに挨拶しよう。
「明けましておめでとう。今年もよろしく」
お読み頂きありがとうございました。
これからも、こんな感じで更新するかもしれません。よろしくお願いします。




