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卒業式です。後、最終回です。
卒業式の日になった。
私は結局今日まで熱が下がらず、学校を休み続けた。しかし、今は全快している。体が羽のように軽い。
私はおじいちゃんから貰った袴を着て学校に登校した。
「舞! 良かった〜治ったんだね! 」
由美は私が教室に入ると、近寄ってきてそう言った。由美も袴を着ていた。赤色がベースの鮮やかな物だった。ちなみな私は黒色に華やかな柄のついた袴を着ている。
「本当に良かったよ。小学校の卒業式は一生に一度しか経験できないからね」
雄大も近づいてきてそう言った。雄大は私達が通う事になる中学の学ランを着ていた。普通に黒に金色のボタンがついてる学ランだ。というのもこの世界、学ランの種類が沢山あるのだ。黒や紺色がメジャーだが、赤色や白、水色などの物もあるのだ。逆にセーラー服の種類は、前世と比べて少ない。基本的に襟は黒か紺で他は白い上半身、下半身も黒か紺。襟も全部白いのとか、その逆の黒いのはコスプレでしかない。何故、このようになったかは分からない。いつか調べてみよう。
三人でペチャクチャ話していたら、アダムくんが教室に入ってきた。
「あ、おはよう! 」
ニカッと笑ってアダムくんは言った。…かっこいい。彼はスーツ姿だった。背もかなりあり、足が長く綺麗なアダムくんはスーツをビシッときこなしていた。
「おぉ……」
「イケメンだ……」
由美と雄大も同じ事を思っていたようだ。アダムくんはイケメンと言われて「いやいや、そんな事ないって」と言いながら照れていた。可愛い。
最後の朝のホームルーム、坂部先生は泣き出した。
「色々あったけど、皆んな無事に今日を迎える事が出来て本当に良かった……! 」
男泣きというやつだ。皆んなは「先生〜泣くの早いよ〜! 」とか「卒業式も始まってないのに……」と先生をからかっていた。坂部先生、今までありがとうございました。
卒業式が始まった。体育館に入ると、もうすでに保護者席はいっぱいになっていた。その中に、カメラを構えたお父さんとおじいちゃん、…そして河内さんがいた。昨日知ったのだが、河内さんは志保さんに溜まっている有休を使わせて、和也くんの面倒を見るように頼んだらしい。
「舞様の晴れ姿をこの目にどうしても焼き付けたいのです」
そう言っていたらしい。いつか和也くんに「僕のお父さんを取るな! 」って怒られるかも……
卒業式はつつがなく進み、無事終了した。
教室に帰ると、卒業証書を入れるための筒が渡された。私は証書を丸めて入れた。証書入りの筒を持つと本当に卒業したのかと実感が湧いてきた。
帰りの会の時も坂部先生は泣いた。
「皆んな〜中学でも元気でな〜! 」
先生は泣き虫だ。でも他の子もつられて泣き出した。鼻をすする音が教室に響き渡る。私もつられて鼻水が出た。ズビッ
校庭に出ると沢山の卒業生達が、泣いたり、写真撮ったり、アルバムにメッセージを書いて貰っていた。桜が舞い散っていて、天気も良く卒業式日和だ。
「これで小学校も終わりか……」
「なんか寂しいわね」
「うわっ! 」
びっくりした。いつのまにか隣には白田さんがいた。水色の袴を着ている。
「ひどいわ、人を幽霊みたいに。貴女とは一年生からの付き合いだったわよね。初めはライバルとしか思っていなかったけれど、今はいい友人だと思ってる」
「私も。白田さんのことは、良きライバルであり友人だと思ってる。これからもよろしく! 」
「ええ! 」
私達は固く握手をした。中学でもよろしくね!
「あ!白田と水谷! 」
そう話しかけてきたのは、光くんだった。彼は白い学ランを着ている。
「それって、私立の? 」
「そう! 俺、私立の聖カナリア学園に進学するんだ」
「へー! 名門校じゃん! 凄いね! 」
「まあな! 」
彼はへへっと照れ臭そうに鼻の下当たりをかいた。光くんは頭が良かったようだ。
二人と一旦別れて、私はアダムくんを探した。どこにいるのだろうか? 校庭を探し回ったが見つからない。なので今度は校舎の裏に行くことにした。
校舎の裏にある大樹に、アダムくんはいた。
「アダムくん! 」
「……水谷」
アダムくんは大樹に触れながらこちらを見た。大樹は桜だ。なので雨のように花弁が落ちてくる。
「良かった、まだ学校にいて」
「母親が車で迎えにくるのを待ってるんだ。来たらこのまま空港に行く」
アダムくんはそう言った。彼が卒業式当日にブラジルへ行くことは知っていた。だから早くこれを渡さなければならないと焦っていたのだ。
「アダムくん!これ、誕生日プレゼント! 」
私は買った時計を渡した。ちゃんとブラジルの時間に直してある。
「本当は当日に渡したかったんだけど……」
私が言いよどんでいると、アダムくんは時計を受け取ってくれ、腕につけた。やっぱり似合っている。銀色のシンプルな時計はアダムくんを際立たせていた。今日は偶然スーツ姿だったから尚更だ。
「ありがとう。水谷」
アダムくんはそう言ってニカッと笑った。やっぱりアダムくんの笑顔は太陽みたいだ。しばらくそうやって見つめ合っていると
「あ」
「あ」
「なんだ?どうしたんだ? 」
アダムくんの向こうで隠れている三山と目があった。
「いや〜ごめんね〜覗き見をするつもりは無かったんだけど……」
三山は頭をかきながら謝って来た。彼女はブレザーを着ていた。スカートはチェックの柄で某アイドルを連想させる。
どうやら彼女は桜の大樹の写真を撮りたかったようだ。しかし、着てみれば私とアダムくんがいい感じ?な雰囲気で居たから、バレないように事が終わるまで隠れるつもりだったようだ。
「いや本当にごめん! 」
「別に謝る必要ないよ。ただプレゼント貰ってただけだし」
「……ごめん」
三山は私の肩に手を置き、そう言った。彼女の目は「その勢いで告白もするつもりだったんでしょう?」と言っている。
「いいって言ってんじゃん」
私は三山の手を肩から外した。
「それより、この大樹の写真撮ったら? 」
私がそう言うと、「あぁ、そうだね」と言って彼女は撮り出した。
「お詫びと言ってはなんだけど、二人を大樹をバックにして撮ってあげるよ」
三山は一通り撮った後そう言った。私とアダムくんはいきなりの事に戸惑っている間に、三山によって並ばされ「さん、にー、いち」と言われ、パシャリと撮られた。
「現像できたら、渡すから〜! 舞ちゃん中学でもよろしくね〜! 」
三山はニコッと笑って走っていった。ニヤニヤと笑わなくなったが、三山はお節介な性格になった。あれが本来の彼女の姿なのかもしれない。というか舞ちゃんと呼んで良いほど仲良くないんだが。
三山が居なくなったことによって、静かになった。その事が、この場にはアダムくんと私しか居ないといやでも感じさせられ、ドキドキと動悸がやばい事になっている。
「アダムくん! 」
「水谷! 」
同時にお互いの名前を呼んでしまった。
「お先にどうぞ」
「いやいや、そちらから先に」
しばらく、どうぞどうぞをやって、最終的にアダムくんが先に話し出した。
「俺は、水谷のおかげで救われた。縦割り活動の時も、修学旅行の時も、夏祭りの時も……あの時は本当に救われた。パニックになった俺を、殻に閉じこもりかけた俺を引っ張り出してくれたのは水谷だ。いつも水谷には助けて貰ってばかりだな。こんなかっこ悪い俺とこれからも友達で居てほしい」
ザーッと風が吹いた。「友達で居てほしい」彼は確かにそう言った。
私は言いたかった事全てが真っ白になり、口をパクパクさせるだけで何も言えなくなった。アダムくんは私のそんな姿を黙って見つめた。しばらくして彼は口を開いた。
「母さん、裏門に来るんだ。だから、そっちに行くな」
そう言ってアダムくんは離れて行く。
言わなくていいの?
だって友達でいようって…
告白してみないとわからないじゃん
気持ち悪いって思われるかもしれない。
それは……
私の中のもう一人の私が黙り込んだ。言わない。このまま友達で居続けよう。そうしよ……
『舞ちゃん、頑張ってね』
「待って‼︎ 」
私は叫んだ。腹の底から声を出した。
「アダムくんはカッコ悪くない‼︎ 人の事よく見てるし、優しいし、輪投げうまいし、トビタくんくれる‼︎ 後‼︎ 笑顔が良い‼︎ スタイルも良くてイケメン‼︎ 」
「み、水谷? 」
アダムくんは顔を真っ赤にしてる。
「辛い時も頑張れる人だし‼︎ 後、後‼︎ 」
頭がぐるぐるしてきた。私も顔が真っ赤だろう。
「とにかく‼︎ 友達ではいられない‼︎ だって」
「アダムくんの事が好きだからー‼︎ 」
私は叫んだ。私の全部をさらけ出した。アダムくんがどう思おうと、これは私の本心だ。ごめんね。友達でいられなくてごめん。
「水谷……」
アダムくんは私に近づいた。
「泣くなよ。泣かないでくれよ」
彼は私の目の前にくると、私の涙を拭ってくれた。
私に触れてくれたのだ。
「……アダムくん? 」
「水谷が泣くのは嫌だ。俺も水谷の笑顔が好きだから」
アダムくんは私を抱きしめた。そして耳元で囁いた。
「ーーーーー……」
「あ! 舞〜アダムくん〜! 皆んなで写真撮ろ〜! 」
校庭の方に出てきた私達に由美は手を振りながら言った。
「行こう、水谷」
「うん」
私はアダムくんと手を繋いで、みんなの元へ走っていった。
私はこれからも走り続ける。
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