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学芸会当日です。

 学芸会当日、事件は起きた。

「何、これ……」

 シンデレラのドレスがビリビリに破かれていたのだ。




「誰がこんな事をしたんだ⁉︎ 」

 いつもは温和な坂部先生が顔を赤くして怒った。

 ドレスは、下半身を中心にビリビリに破かれている。衣装係の子の一人は、それを見て泣いてしまっていた。他の子も呆然とそのドレスを見ていた。

 誰が犯人かは見当はついてる。皆んなと同じように深妙な顔でドレスを見ているが、彼等の口元は微かに上がっていた。しかし、証拠がない為に何も言えない。

 アダムくんは無表情だった。しかし、きっと自分への嫌がらせだとは気づいているはずだ。彼はどんなに傷ついているのだろうか?




「泣いてる場合じゃないわ。本番の時間までに出来るだけ直しましょう」

 泣いている衣装係の子の肩に手を置きそう言ったのは、なんと白田さんだった。彼女は、衣装係のリーダーなのだ。

「でも、どうやって……」

「確かあのダンボールの中に生地の残りがあったはずだわ。あれを使いましょう」

 彼女達はせっせと直し始めた。もう学芸会は始まっている。本当は体育館に行かなければならないが、私達は教室に留まって、彼女達のサポートをした。私達の番は五番目だ。一つの劇が1時間なので、私達は5時間目にする事になる。結構な時間があるが、ドレスは何とか原型を留めているという状態なので、時間内に修復出来るか微妙である。しかし、何としても直すのだ!




「アダムくん、大丈夫? 」

 私は彼に聞いてみた。彼は何とも思っていない様に振舞っているが、無理をしているんじゃないかと心配になったのだ。

「あぁ、全然平気! それより早くこれ持って行こうぜ! 」

 彼と私の腕の中には、他クラスから貰ってきた生地の山があった。フリルやレースなど少し薄い生地ばかりが集まった。これは役に立つのだろうか?



「どうしよう、スカート部分の生地が足りないわ」

 教室に帰ると、白田さんがそう言っているのが聞こえた。

「ただいま」

「あ! おかえり! どうだった? 」

 私がそう言うと、彼女は聞いてきた。

「うーん、短い布切れやフリルとレースばかり」

「……そう」

 教室の雰囲気が少し暗くなった。やはりドレスを作り直すのは難しいのだろうか?

「そのドレスのスカート、ミニスカっぽくしない? 」

 後ろの方から声がした。三山だ。

「ドレスのスカートは長く無くちゃいけないなんて決まりは無いんだし、なんか斬新な感じで面白いと思う〜」

 三山がそう言うと「確かに」とか「それ良いかも」という声が聞こえてきた。

 …三山、また余計なこと言いやがって。アダムくんがスカートを履くのを苦手としているのを奴は絶対知ってる。知ってて言ったのだ。

「田中くんはそれで良いの? 」

 白田さんはそうアダムくんに聞いた。彼は平気そうな顔をしていたが、背に隠した手が震えているのを私は見逃さなかった。

「……ああ、それで「異議あり‼︎ 」

 アダムくんが肯定する前に、私は某裁判ゲームの様な感じで遮った。皆んなの目線が私に集中する。

「え、えっと。あっ! フリルやレースなんかをミニスカに付ければもっと良いんじゃない? どんどん 繋げていけば薄いけどロングのドレスっぽくなって、それもそれで斬新だと思う! 」

 私はとにかくスカートを長くする為に、思いついたことを口走った。伝われば良いのだが……

「それってレーススカートっぽくなりそう!」

「可愛い!それいいんじゃない⁈ 」

 皆んな肯定的に捉えてくれた。良かった。これで足は見えにくくなるのではないだろうか? アダムくんも少しホッとした様な顔をしている。

 衣装係の子達は早速レーススカートっぽいドレスを作り始めた。




 本番の時間になった。

 レーススカートっぽいドレスは何とか完成したらしい。しかし、それを試着する時間がなかった。サイズは多分合っていると判断し、私達は劇を始めた。



 劇は順調に進んでいった。継母や義姉にいじめられて舞踏会へ行けなくなったシンデレラは、魔法使いのお婆さんに出会い魔法で服とガラスの靴を作ってもらうところまで。遂に舞踏会のシーン、新しいドレスを着たアダムくんが出てくるシーンになった。

「皆の者! よく集まってくれた! 今日は存分に楽しんでいってくれ! 」

 私は王子のセリフを言って、椅子に座る。あとは、アダムくんが出てくるまでじっとしていればいい。

 遂にアダムくんが出てきた。彼が出てきたらセリフを言わなければならない。しかし、その言葉が吹っ飛んだ。綺麗だったからもあるが、それ以上に気になることがあったのだ。


 アダムくんの足がレース越しに透けて結構見えた。


 これではロングにした意味がないじゃないか。アダムくんは大丈夫か顔を見たが、無表情でよく分からなかった。

「舞! セリフ! 」

 隣にいる由美にそう指摘され、やっと我に戻ることが出来た。

「あの人は誰だい? 」

「さあ? 貴族であのような方は見た事は無いので、平民だと思われます」

 私が王子のセリフを言うと、由美はそう言った。私はアダムくんに近づいていった。

「一緒に踊っていただけますか? 」

「はい」

 私の手をアダムくんが取り、ダンスを始めた。アダムくんが足を動かすたびに軽いレースやフリルが浮き、生足が見える。アダムくんが心配で気が気じゃなかった。……でも本当に彼の足は…

「あのお兄ちゃんの足キレー!」

 どこからともなく幼い声が聞こえてきた。アダムくんが少しビクついた。やばいやばい。「こらっ!静かにしなさいっ!」と親の声がしたので、恐らく小学校に入る前の子供のものだろう。幼い子供だから仕方ないかもしれないが今それを言わないで欲しかった。アダムくんの手は震え始めた。

「まるで…」

 まだ言うか、もう黙って……


「シカさんみたーい! 」


 …鹿。確かにあれもしなやかな足だよね。クスクスと小さな笑いが起こる。アダムくんの手は震え続けていたが、さっきとはまた違う意味で震えていた。笑うのを我慢しているのだ。

 私達は何とかその場面も無事に終えることが出来た。



 劇は無事に終わった。大成功だった。

「一時はどうなる事かと思ったけど、無事に終わって良かった〜」

 教室に戻ると、由美は力が抜けたのかグテッとした感じでそう言った。

「シカさんみたーい」

「ちょっ!雄大やめてよ!思い出しちゃうじゃんww」

 由美はあれがツボにはまったようで笑い転げていた。

 私達がそうやって話していると、坂部先生が深妙な顔つきで教室に入って来た。

「三山、所沢、埼玉、前橋」

 先生が三山とその取り巻きの名前を言った。

「前へ来なさい」

 先生は、怖い顔を崩さずに言った。


「ドレスを破ったのはお前達らしいな」


 衝撃的な言葉に教室が騒つく。取り巻きが顔色を悪くする中、三山だけは無表情だった。

お読み頂きありがとうございました。

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