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修学旅行の日になった。
家を出る時、お父さんは「忘れ物無い? 酔い止め持った? 」と忙しなく聞いてきた。私が何日も家を離れる事が心配でたまらない様だ。
私はしばしの別れの挨拶をお父さんにして家を出て、現在バスの中にいる。バスの席順は自由だった為、由美の隣に座った。
「アタシたちが泊まるところの近くには、綺麗な海があって観光に来る人も多いんだって! あと自然も豊かで、近くに森もあるんだとか! そこで昔から伝えられている伝説とかもあるらしいし、凄い楽しみ〜! 」
由美は、パンフレットを手に興奮している。横にいる私は、うんうんと首を縦に振り続けている。
私の後ろにはアダムくんと雄大が座っており、彼らも楽しそうに何かを話している。彼らの後ろに光くんがいるようで、彼もたまに会話に参加している。アダムくんと光くんはお互いを呼び捨てにする仲だった。アダムくんが変わって戻ってきた時光くんは戸惑っていたが、今ではすっかり昔の関係に戻っている。
正午を少し過ぎた頃、やっと修学旅行で泊まる場所に着いた。そこはホテルで、窓から海が見える良いところだった。しかし、部屋はシングルな為か狭い。そう、私はこれから数日間一人で寝起きするのだ。うちの学校はどういう訳か、変な所が厳しい。夜に枕投げやカードゲーム、恋バナで夜更かしをしないように皆んな一人部屋にしたのだ。少し寂しいが、気兼ねなく部屋を使えるので良いかもしれない。
少し部屋でのんびりとした後、時間になったので外に出た。今から夕飯まで近くの森を班で散策する事になっているのだ。私は五班の子達と合流し、早速森の中に入っていった。
森の中の散策中、白田さんと光くんとは色々と話したが、三山だけは無言だった。彼女は一体何を考えているのか、全く分からない。いつもはヘラヘラとしているのに今日は怖いくらい無表情だ。「アダムくんに何をするか自分でも分からない」とはどういう事なのだろうか?
「あ、水谷」
「え? ホントだ! 舞〜! 」
アダムくんが私を見つけると、由美も私に気づいて手を振りながら近づいてきた。由美とアダムくんは同じ班なのだ。
「凄い偶然だな。班ごとに違う場所を散策する事になってるのに」
光くんはそう言った。そう、彼の言う通り班ごとに散策する場所を分けられていたのだ。だから、こうして出会うのはおかしい。
「アタシたち、この奥にある「よいこの滝」って所に行こうとしてるんだけど中々たどり着けなくて……」
「こっちにそんなの無いよ」
由美が言うと、光くんはそう返した。
「えっ、そんな……看板の矢印はこっちに行くようになってたのに……」
由美は、そうだったよねとでも言うように周りを見た。由美の班の子達は皆んな首を縦に振った。
私達は、他の看板も壊されてる可能性があると考え、迷う危険性があるため元きた道を引き返し始めた。
「ここ、さっきも通らなかった? 」
私は、意を決して言った。さっきからぐるぐると同じ道を回り続けている気がするのだ。
「私もそう思うわ。後、雲行きが怪しく無い? 」
白田さんの言う通り、ザーッと雨が降り始めた。
私達は、雨宿りをする場所を視界が悪い中懸命に探し、やっと小屋を見つけた。皆んなびしょ濡れだった。そこでアダムくんと三山がいない事に気付いた。
「あれ⁉︎アダムは⁉︎ 」
「三山さんもいない‼︎ 」
「はぐれたのか⁈ 」
皆んなも気づいて、慌てふためき始めた。私は頭の中で三山の「自分でも何をするか分からない」という言葉がふと過ぎった。これはただの偶然じゃない。
「舞⁈ どこ行くの⁈ 」
由美の声が聞こえたが、それに応える事なく私は土砂降りの中を闇雲に走り出した。
闇雲に走り続けていると、小さなトンネルを見つけた。その中から聞き覚えのある声が聞こえた。
「あーあ、もう見つかっちゃった」
三山は残念そうに、アダムくんに覆いかぶさりながら言った。アダムくんは気絶している。
「何してんだ、三山」
自分でも、ここまでドスの効いた声が出るとは思わなかった。怒りで我を忘れそうだ。
「舞ちゃん怖ーい」
「ふざけんなよ。全部お前が仕組んだんだろ」
どんどん口が悪くなって行く。しかし、看板に細工したのにも、アダムくんを襲っている現場にも怒りが湧いて仕方がない。
「……そうだよ。全部あたしが仕組んだんだ。散策の前に少し自由時間あったでしょ。その時にちょちょいとね。ここの看板ボロくて助かったよ。ホント細工しやすかった」
ケラケラと笑いながら三山はアダムくんを見下ろした。
「こいつと二人きりになりたくなったんだよ。こいつが本当に気に入らなくて仕方がないのに、目が気になるんだよ。あの恐怖に満ちた目が。もう、あんな目を見られる事は無いと思ってたのにさ。あたしをバケモノの様に見てくる目が憎たらしくて憎たらしくて、でもずっと見ていたい」
三山は真顔でそう言った。こいつ精神的に大丈夫か?
「でも、すぐに気絶しちゃった。もう見れない」
「もう良いから、早くアダムくんから離れて」
私はアダムくんから三山をひっぺがした。気絶しているアダムくんに触れると、少し熱があった。私は三山を睨む。
「あたしのせいじゃ無いよ〜そいつ元々熱があったんだって」
私は、少し驚いた。確かにバスに乗っていた時も彼は咳をしていた。
「気づいてなかったの〜あたしは一目で分かったよ〜」
何がおかしいのか、ヘラヘラと笑いながら彼女は言う。それに気づいていながら、悪化させる様な状況に追い込む三山は狂っていると思った。
「取り敢えず、雨が止むまでこのトンネルの中で避難する。あんたは、そこから一ミリも動くな」
私は三山を睨んでそう言った。
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