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遠足〜

 アダムくんと昔程とは言わずとも普通に会話出来るほど仲良くなったある日、私たちは遠足で「にこにこ牧場」に来ていた。牛とか馬とか山羊がいる牧場だ。


「何する? 僕は、山羊に餌やりをしたいんだけど」

「アタシはソフトクリームが食べたい!」

 自由行動で同じ班になった、雄大と由美がそう言った。二人がどちらを先にやるか考えているのを、私とアダムくんは黙ってみている。なんとアダムくんも一緒の班になったのだ。

「初めに山羊の餌やりに行って、その後ソフトクリームを食べることに成ったんだけど、二人はそれでいい? 」

「私は良いよ」

「俺も」

 雄大がそう聞いてきたので、私とアダムくんはそう答えた。アダムくんは雄大とは普通に話せるが、由美とはまだ無理だ。それでも私たちと同じ班になってくれたのは、彼もまた私たちと、昔みたいな関係に戻りたいと思っているからだ。由美はそれをちゃんと理解しているので、自分にだけぎこちなく接しされても気にしないようにしている。



 山羊は目の瞳孔が横線なので、目を開けている筈なのに閉じている様に見える。もぐもぐと餌を食べる様は可愛い。白山羊と黒山羊がいて、白山羊の方はユキちゃん。黒山羊の方はヨルちゃんというらしい。どちらも柵に顔を突っ込んで「エサをくれー」という声が聞こえてきそうなほど食い意地がはっている。

「可愛いな」

 アダムくんがそう言った。彼の方を見ると、少し口角が上がっている。笑っていたのだ。

(アダムくんが笑った……)

 昔の様なハツラツとした笑顔ではないが、ちゃんと笑っている。アダムくんは戻ってきてから、いつも無表情だったので驚いた。

「アダムくん動物好きなの? 」

「うん、まあ基本的に好きかも。俺のじーちゃんとばーちゃん犬飼ってるんだ」

「へー! 名前なんていうの? 」

「ポチ」

 とてもメジャーな名前だった。ポチは柴犬とラブラドールレトリバーのハーフでオスらしい。



 山羊の餌やりを終えて、みんなで濃厚なソフトクリームを食べていると、「牛の乳搾り体験」と書かれた看板を見つけた。やってみたいと思ったが、アダムくんは女性に触れられない。動物も含まれるか分からないが、乳搾りなんて特に女を意識させられる作業ではないか。やめておこうと看板から目を逸らそうとした時、アダムくんが言った。

「俺、あれやってみたいんだけど……」

 彼が控えめに指した先にあったのは「牛の乳搾り体験」の看板だった。




 由美も雄大もアダムくんの案に賛成したので、私達は乳搾り体験をする事になった。アダムくんは、私の心配をよそに普通に乳搾りをしている。

「動物のメスなら触れるんだ」

 私の心を読んだかの様にアダムくんは言った。

「動物はあの女と全く違うから。恐怖を感じる対象にならない」

 あの女とは、アダムくんのお父さんの再婚相手の事か。アダムくんが田中になったのは、アダムくんのお父さんが再婚相手の方の苗字になったからだそうだ。ちなみに息子がこんな目にあっても彼のお父さんはその女と離婚していないらしく、彼は今、祖父母の家に住んでいる。

「うわっ! 凄い出る! 」

「由美、もう少し優しく握ってあげなよ。痛そうだよ」

 由美と雄大が、そう言っているのが聞こえた。

「メスって不思議だよな」

 アダムくんが唐突にそう言った。

「自分が生んだわけでもないのに、本能で自分の子を見つけると乳が出るようになるんだから」

 そうこの世界のメス、女性は自分の子供を第六感的なもので見分ける事が出来るとされている。新生児室で初めて赤ちゃんと対面したお母さんの半分は、名前のプレートを見なくても自分の赤ちゃんがどこにいるか見つけられると言われている。そして赤ちゃんを見ると母性本能が開花し、母乳が出るようになるそうだ。

「本当に不思議だね」

 この世界は本当に不思議だ。




 自由行動の最期の方に、私達はお土産コーナーに行った。そして私は出会ってしまった。「頑張れ! トビタくん! 〜にこにこ牧場とコラボしてみた〜」のストラップと。

(ヤバイ、欲しすぎる。でもお金が足りない……)

 残額200円。トビタくん400円。200円足りない〜

「由美! 200円貸して! 」

「すまん。今ので全額使い切った」

 由美の手の中には、家族へのお土産であろうクッキーが入った袋があった。

「俺が200円貸そうか? 」

 アダムくんが救いの一言をつぶやいた。

「本当に⁉︎ ありがとう! 」

 私は、遠慮もせず200円を借りてトビタくんを買った。買った後に少し申し訳ない気分になってきて、一つに二つ色違いのトビタくんのストラップが入っている事に気付いたので片方をアダムくんにあげる事にした。

「よかったら、どうぞ」

「えっ、いいのか? 」

「色違いなのがもう一つあるから」

 私がそう言って、アダムくんに触れない様ストラップを渡すと、アダムくんは嬉しそうに笑って言った。

「ありがとう。半分もらった事になるから200円返さなくてもいいからな」




 今日の遠足はとても楽しかった。アダムくんともっと仲良くなれた気がする。以前の様な関係に戻れるのは時間の問題かもしれない。アダムくんとお揃いのストラップを「トビタくんコレクション」の中に入れた。この中には、昔アダムくんから誕生日に貰ったトビタくんも入っている。お祭りの時に取って貰ったのも。思えばアダムくんからもらってばかりだ。私も彼に何かプレゼントをしようと決めた。

お読み頂きありがとうございました。

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