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人魚姫の物語が出てきますが、内容が少しエロく変わっているので気を付けてください。
「学芸会の劇を何にするか決めようと思うんだが、皆んなは何がやりたい? 」
5時間目の始まりに、先生はそう聞いてきた。
学芸会といえば、白雪姫、裸の王様、シンデレラ、オズの魔法使などが鉄板だろう。私が予想したこれらは、直ぐに案として出された。
「はいはーい!あたし人魚姫やりたい! 」
クラスでトップの女子が、そう言った。皆んなも「それいいね! 」とか「楽しそう! 」とさっきまでの反応と全く違うので、おそらく人魚姫で決定だろう。
この世界の人魚姫なのだが、前世の話と内容が少し違う。何処が違うのかと言うと、前世では王子様と愛し合えば泡にならないというのが、王子様の……初めてを奪えば泡にならないという少々過激な内容なのだ。もちろん子供向けの本にそんな事は書けないので、王子様のファーストキスを奪えば泡にならないとなっている。しかし心優しい人魚姫、王子様の気持ちを無視してそんな事は出来ないと海の泡になる事を決意する。
いい話だと思い出していると、先生の声が聞こえた。
「水谷! 皆んなお前に人魚姫をやって欲しいそうだが、どうする? 」
……いつの間にその様な話になっているのか。周りを見ると期待に満ちた目が私に集中していた。(特に男子から)この状況で断る事が出来る強い精神を私は持っていない。
「…はい。やります」
こうして私は、一番目立つ人魚姫をやる事になってしまった。
あの後、王子は誰がやるかで揉めたり、夢の国の人魚姫の様にハッピーエンドにするかしないかで揉めたり、配役が少ないので数人は海藻をやらなければならない事になり、また揉めて、全て決まり終わらず、次の機会にまた決める事になった。
とにかく精神的に疲れた。私は主人公などという目立つものにはなりたくないのだ。出来れば海藻になりたかった。自分の意思の弱さに腹が立つ。
家に帰り、お父さんにその事を言うと
「凄いじゃないか! 舞! おじいちゃんもきっと喜ぶよ! 」
と言った。
あれから河内さんに隠し撮りはやめてもらう様にして貰ったが、行事の時は移動が難しいおじいちゃんに変わって彼が来て、撮ることを許した。おじいちゃんはきっと私が人魚姫をやると知ったら凄く喜ぶだろう。そういう面では成れて良かったかもしれない。
全然良くなかった。
「水谷さん! もっと大きい声出して! 」
シナリオ兼監督の子にまた怒られてしまった。
この学校は自主性を重んじる傾向があって、劇のシナリオを作るのも、監督するのも、衣装を作るのも先生は手伝ってもいいが基本的に生徒にやらせなさいというのが暗黙のルールである。それでも、この学校の子達は優秀なのか何処のクラスもちゃんとそれで成り立っている。(親が手伝っている可能性もあるが)
取り敢えず、私は怒られてばかりだ。主人公である為に出る場面が多いので当たり前だが、楽しくない!
「はー、疲れた。やっと休憩だよ」
人魚姫の姉Aをやる事になった由美が、そう言った。彼女も結構怒られていたので、相当疲れただろう。
「監督の光くん、厳しいよね。でも私達にはまだ優しい方だよ。ほら、あれ見て」
由美が指差す方を見ると、「船の上で王子と馬鹿騒ぎをしている乗客達」の場面だった。この場面は男子が多く、女子は殆ど出ていない。
「おい、乗客ABC! もっとバカそうにしろって何度も言ってんだろ! 後、アダム! せっかくクジで王子になれたんだから、もっと気合い入れてやれよ! 」
男子にはもっと厳しかった。容赦がない。初めての学芸会でバカの真似をしろなんてあんまりだ。それとアダムくんも、クジに当たってしまったばっかりに王子なんてやる事に……
遡る事三日前、中々決まらない王子を見て先生が痺れを切らし、「男子全員クジを引けー! 」と言った。確かに男子の殆どが王子をやりたいと言っていたが、中には違う役をしたそうな子もいた。その中の一人はアダムくんだ。そういう子達も含めてクジを引かせた先生は時間が無いと焦って正常な判断が出来なかったのかもしれない。
結果は、アダムくんが当たりを引いて王子になった。王子になりたかった男子達は悔しそうにしていたが、決まってしまったものは仕方ないと渋々諦めていた。しかし、「自分だったらこうする」のにとか「俺の方が演技上手いのに」という気持ちが湧いてきてしまうのか、アダムくんに対する風当たりが厳しい。彼はなりたくてなった訳じゃないのにと何度同情したことか。
その日の帰り、私が一人で家路を歩いていると(由美は最近、自分の家に帰る事が多くなった)アダムくんとばったり会った。帰る方向が途中まで同じ事を知り、一緒に話しながら歩いていると、学芸会の話になった。
「アダムくん、本当は王子じゃなくて違う役をしたかったでしょ。多分、お城の騎士とかやりたそう」
私がそう言うと、彼は「まあね」と言った。
「初めは何で俺がって思ったけど、俺と同じ様に場の流れで人魚姫になった水谷の頑張ってる姿見てると、俺も頑張らねーとって気持ちになってきたんだ。お互い頑張ろうな! 」
アダムくん、君は何て嬉しい事を言ってくれるんだ。そんな事を言われたら張り切ってしまうじゃないか!
それから本番当日まで私は全てのセリフを完璧に暗記し、光くんが満足げな顔をする程にまで演技に力を入れた。人魚姫の衣装を綺麗に着こなす為に少しダイエットもした。ご飯を少なめにして欲しいとお父さんに頼んだ時、「ちょっと頑張り過ぎじゃない? この前も夜遅くまで劇の練習してたし」と言われたが、このくらい大した事は無い。努力は報われるのだと運動会の時学んだ。だからこんな事大した事はないのだ。
劇を成功させる為、努力し続ける私をアダムくんが心配そうに見つめている事を私は遂に気づかなかった。
お読みいただきありがとうございました




