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現在、私は永盛家の屋敷にお邪魔していた。
なぜこの状況になったか、時間は数日前に戻る。
あの後、お父さんと河内さんが私の存在に気付き気不味い空気になったが、それを破ったのはお父さんの言葉だった。
「ここだと人目に付きます。移動しましょう」
という事で、私達は近所の喫茶店へ移動した。
河内さんは、頼んだコーヒーを一口飲むと語り出した。
「私が旦那様のご命令で舞様のお姿を撮り始めたのは、今から二年前の事です」
そんな前からつけられていたのか。全く気づかなかった。
「初めのうちは私も慎重に行動していました。しかし、この頃諸事情で気が抜けてしまう事が多く、遂に先日舞様に姿を見られてしまいました。その為、もう二度とバレない様に今日まで気を引き締めていたのですが、舞様の勇姿を目の当たりにして興奮が抑えられず、茂様にまで見つかってしまいました。後をつけていたのは命令の為とはいえ、誠に申し訳ありませんでした」
河内さんは本当に反省した様子で謝った。
「その事についてはもういいです。しかしお義父さんは何故、その様な命令をしたんですか」
私の気持ちをお父さんはそのまま言葉にしてくれた。
「栄様が家から出て行ってしまわれてから、旦那様は後悔なされ続けておられました。何故あの時、自分は何も言えなかったのかと。栄様が亡くなってからは、それが顕著に表れ始めました。元々、体が強い方では無かったので、日に日におやつれになっていきました。そんな時、忘れ形見である舞様の事をお知りになり、一目でもその姿が見たいと私に命令なさったのが始まりです」
おじいちゃんは、お母さんが死んでしまった悲しみを私を見る事で紛らわしていたのだろう。腹を痛めて産んだ子が自分より早く死んでしまったのだ。そうなってしまうのも仕方ないかもしれない。
「おじいちゃんは、もう元気なんですか? 」
「はい。 舞様の写真や動画を見られてからは、みるみる顔色が良くなっていきました。」
私が聞くと、河内さんは嬉しそうに言った。
「それは良かったです。私も一度でいいので、おじいちゃんに会って見たいです」
「それは本当ですか? 」
河内さんは私の言葉に身を乗り出して、そう言った。
そういうわけで、私はおじいちゃんのいる永盛家の屋敷の客室にいる。
おじいちゃんはまだ来なくて、私は出されたオレンジジュースを一口飲む。
外観もそうだが、さすが金持ちと思わせるほど何もかもが大きく、高そうだった。私の座っているソファーはいくらなのだろう。隣にお父さんが居なければ、緊張でどうにかなってしまいそうだ。お父さんは落ち着いた顔をしながらも、私の手をぎゅっと握りしめて居た。
「お待たせしてすまんね。よく来てくれた。茂さん、舞ちゃん」
そうこう考えていると、おじいちゃんが来た。車椅子に乗っていて、薄幸そうな雰囲気がお母さんと同じだ。
「今日は正子、妻は出張で帰って来ないからゆっくりしていきなさい」
おじいちゃんは優しく微笑んで言った。
「舞ちゃんは本当に栄に似ている。今は六歳かね? 」
「はい」
「本当に大きくなった。茂さん、ここまで立派に育ててくれてありがとう」
おじいちゃんは、お父さんにお礼を言った。お父さんは少し戸惑って「いえ、そんなっ」と焦っていた。
「私は元々体が弱くて、栄を産んでからは体調を崩し、子供も仕事も出来なくなってしまった。栄も私に似たのか昔から体が弱くて、遂には持病まで持ってしまった。私は申し訳無さすぎて、いつしか意見を言えなくなっていた。栄が絶縁すると言った時も……」
おじいちゃんの目には涙が溜まっていた。
「これは言い訳だ。本当に嫌だったら言えたかもしれないんだ。なのに私はあの時何も言わなかった。親失格だ」
涙は遂に目から溢れ落ちていく。
「お義父さん、大丈夫です。栄はお義父さんの事を恨んではいません。お義母さんの事も……いつか仲直りしたいといつも言っていました」
お父さんは慰める様に言うと、おじいちゃんは「そうか……」と言った。
「また会って貰ってもいいかい? 」
帰り際におじいちゃんは私にそう言った。私は「うん」と言った。今度は私達の家に来てもらう様に約束した。
河内さんは、「あんなに嬉しそうな旦那様はここ数年見た事がありませんでした。来てくださった事、感謝します」と言った。
家に帰ってから、お父さんと一緒にお母さんの写真の前で手を合わせた。
(お母さん、今日はおじいちゃんと会ったよ。優しい人だね。今度はおばあちゃんにも会ってみるね)
そう心の中で祈った。心なしか、写真の中のお母さんが嬉しそうに笑みを深めた気がした。
お読み頂きありがとうございました。
舞は、おばあちゃんとも仲良くなれるのか⁈




