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「今日は、清々しい良い天気で、実に運動会日和です。そして……」
校長先生の話を真面目に聞いている様で、私の頭の中は別のことを考えていた。
(遂に今日は本番だ! 今までの努力を無駄にしないように頑張らなければ!)
最初の競技は一年生によるダンスだった。
私は今日まで徒競走の練習を重点的にやっていたが、ダンスも頑張った。悲しいほどになかったリズム感は、微笑される程度には改善した。
特に酷い失敗も起こさず、ダンスを踊り終えてホッとする。次にやる競技、長縄はもう少し後にあるので他の学年のやる競技を観察する事にした。
この学校は基本的にどの競技も男女混合でやる。まだそこまで体力差が無いという理由の他に、男だから女だからと諦めないで同じ土俵に立って勝負をして欲しいという思いもあるらしい。
なので当然、組体操も騎馬戦もリレーも綱引きも全て男女混合だった。
組体操では、男女ペアになって色々なポーズを作っていた。やっていたのは高学年で、異性に興味がある年頃である。中には照れながらやっている人達もいた。最後のピラミッドは中々高さがあり、一番上の人は怖いだろうと思った。
騎馬戦は、迫力があった。赤組と白組の男子が相手の鉢巻を奪おうと騎馬の上で取っ組み合いをして、負けた方は鉢巻を奪われた瞬間崩れたりした。上になっていたのは殆どが男子で、女子は騎馬になっている子が多かった。女子は足が速いので逃げるのに適しているし、男子は腕力があるので必然的にこうなったのかもしれない。私はクラスは赤組なのでそっちを応援した。結果は赤組が勝利した。
綱引きは、白組が勝った。赤組も頑張っていたが勝てなかった。
リレーは六年生の競技で、羽山先輩や船橋先輩が出ていた。どちらも赤組だったので心置きなく応援する事が出来た。
羽山先輩はやはりアンカーだった。その前は船橋先輩で、それまで負けていたのに彼がバトンを受け取った後はあっという間に逆転してしまった。縦割りのリレーで巻き返しただけはある。羽山先輩は船橋先輩からバトンを受け取ると、彼と比べ物にならないほどの速さで走ってぶっちぎりで赤組を一位にした。
改めて先輩はすごいと思った。
「ダンス凄い上手だったよ。長縄も一回引っかかってたけどそれ以降はちゃんと跳べてたし、幼稚園の頃とは全く違って見違えたよ」
お父さんはそう言った。
現在私は、長縄をなんとか無事に終わらせると午前の部は終わったので、お父さんと由美と昼食を摂っていた。由美の両親は今日はどうしても休みが取れなかったらしい。しかし、由美の勇姿は、お父さんがビデオカメラで撮って渡す事になっているので大丈夫だ。
「二人とも可愛く撮れたよ」
お父さんはニコニコしながら言った。
「舞、次は徒競走だけど大丈夫? また転んだりしない? 」
由美は心配そうに私に言った。
しかし、私はもう以前の様な失敗は繰り返さないと心に誓っているし、その為に先輩を巻き込んで練習をしたのだ。成功出来なければ困る。
「大丈夫! 一位になるから見てて! 」
私は自信満々に言った。こんな事を言って失敗したらもの凄く恥ずかしいが、それが狙いだ。自分にプレッシャーを掛ける事で、力を最大限に出す事が出来ると何処かで聞いたことがある。
私の走る番が来た。私と一緒に走る子は練習の時から思っていたが、そこまで足が速くない。それでも初めの頃はダントツでわたしはビリだった。
しかし今はビリでは無いし、もしかしたら本当に一位になれるかもしれない。いやなってみせる。私は体をほぐしながらそう思った。
「位置について、よーい……ドン! 」
私達は走り出した。走り出しは良く、現在私は一位になった。
(よし! このままぶっちぎりで一位になってみせる!)
そう思っていると、後ろから追い上げて来た子がいた。彼女は白組の白田 勝子さん。今までの練習の時から一緒に走る子の中で一番速かった。
ぐんぐんと距離を詰めて来て、同じぐらいまでになった。このままでは負けてしまう。そう思った私は焦ってしまい、前のめりになってしまった。そのまま地面とご対面するかと思った時だった。
(また転んで負けるの? 先輩とあんなに練習したのに……やっぱり私はダメ)
「舞ちゃん! 頑張れ‼︎ 」
先輩の声が聞こえた。
私は足を前に出して踏ん張った。転ぶわけにはいかない。私は一位になるんだ!
踏ん張った反動で勢いがついたのか、白田さんを抜くのに成功した。そのままゴールまで走る。
私は白いテープを切ることに成功した。
「舞〜 ! 一位おめでとー!」
「凄かったよ、舞」
戻ってきた私に、由美と雄大が話しかけてきた。
「でも、転びそうになってた時はヒヤヒヤしたよ」
由美はそう言った。私が転ばなかったのは先輩の応援のおかげだ。先輩の方を見ると、彼女もこちらを見ていて手を振ってくれた。それに私も振り返した。
運動会が終わった。勝ったのは赤組だった。
体育着を脱いで普段着に着替えると、少し先生の話を聞いて解散になった。
門の近くにお父さんを見つけたので、声をかけようとしたが、やめた。
「今日ずっと舞のことを撮っていましたよね。なんなんですか? 」
お父さんは、以前見かけた怪しい人と話していたからだ。
「私は決して怪しい者ではありません。こちらをどうぞ」
そう言いながら彼はお父さんに名刺の様な物を渡した。
「永盛家専属執事長、河内 雄二……」
「はい、私は旦那様に頼まれて舞様の姿をお撮りしていました。」
波乱の予感がした。
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