38話
「ひ~か、起きてる?」僕がそう言うと、輝は少し潤んだ瞳を僕に向けた。
「ヘルパーさんもうすぐしたら来るからさ、もう仕事行くね」
「やっぱり止める。ヘルパーさんが来るまで行かなーい」僕はそう言いながら、輝の頭をなでた。
ヘルパーさん遅いな…僕遅刻しちゃうよ…そう思っていると、
「すいません~遅くなりました」そう言ってヘルパーさんたちは僕の家に来た。
「じゃあひか、行って来まーす」僕は輝の頭をもう一度なでたあと、家を出た。
「お疲れ様でした。では失礼します」仕事が終わったので、僕が家に帰ろうとすると、院長先生が話しかけてきた。
「八木先生」
「はい。何ですか?」
「今日ちょっと一杯行かない?」
「すいません。弟が家に居るもので…」僕はやんわりと断った。
「弟?あっあの…」あのって…どのだよ!!そう思いながらも、僕は帰る準備を始めた。
「灯~。もう上がり?」
「そうだけど…」
「今日家行っていい?少し飲もうぜ!」
「僕飲めないんだって…」
僕はやっぱりあれがトラウマになって、大人になった今も、お酒は飲めない…
「灯の分は何か買って来てやるから…」
「了解!じゃあ僕先帰ってるから、僕の家来ていいぜ」
「ほーいサンキュー」
「ひ~か、ただいま」僕はそう言って、僕の部屋(今は輝の部屋)に向かった。
「輝くん、お兄ちゃん帰ってきたよ」ってヘルパーさんは輝に話しかけた。
「あっ今日はもう帰っていいですよ。まだ時間ありますけど…」
「あっはーい。じゃあね、輝くん」
「いつもありがとうございます」
僕はヘルパーさんを見送ったあと、輝の頭をなでながら、
「いつもごめんな、ひかを1人にさせて…寂しかったよな」そう言った。
「今日はな、空が夕ご飯食べに来るって。騒がしくなるね…」
「あっご飯作りにリビング行くからひかも行こうな」僕はそう言いながら輝を抱いて、車イスに乗せた。
ご飯を作り終えたときに、家のチャイムが鳴った。
「輝くん、久しぶり!!ってそんなこともないな…」空は来て早々、輝の元に駆け寄って、輝に笑いかけた。
「ほら灯、レモンソーダ」
「おぉありがとっ。ご飯作ったから食べな」僕はソーダを受け取って、料理を取りに行った。
「やばっ超美味そう。輝くんの兄ちゃんは料理上手いな」そう言いながら、お酒を飲み始めた。
「空、送っていけないからあんまり酔うなよ」
「はいはい」そう言って空は僕の料理をつついた。
「うまっ。家じゃ最近コンビニ弁当ばっかりだもんな」空はそう言って笑った。
僕もコンビニ弁当がいいんだけど、輝が1人暮らしし始めたとき、僕が
「コンビニ弁当だけは駄目だよ」そう言ったのを思い出して、毎日ちゃんと自炊している。
夜10時になっても、空は帰る素振りを見せなかった。
「空、もうひかを寝かせるから帰れ」
「灯く~ん、やーだ」空は酔っていた。
「ひかごめんな。眩しいだろ?」僕はそう言って、輝の頭をなでた。
「空、また一緒に飲んでやるから、今日はもう帰れ」
「嫌。灯…聞いてよ」そう言いながら空は僕に抱きついてきた。
「もう空!?」その時、輝が泣き出した。
多分眠たいのに、うるさいし眩しいから眠れなくて…
「ひか、ごめんな…部屋行こうな」そう言って僕は輝を部屋まで連れて行って、ベッドに乗せた。
涙を拭ってあげると、輝はちょっと辛そうに眠りについた。
やっぱり泣くのは体力消耗するからな…
明日具合悪くならなければいいけど…
「ひか…本当ごめんね。おやすみ」僕はそう言って、リビングに向かった。
「空、どうしたんだよ。明日聞くから、今日はもう帰れ」僕はそう言って机の上のゴミを片付け始めた。
片付け終わったころ、空はあろうことか、僕の持っていたゴミ袋を弾き飛ばした。
ガシャンと音がして、僕はちょっと空にイラッとしてしまった。
「空、輝が起きるだろ?やっと寝たんだよ…音たてるな!」僕は空に声を荒げてしまった。
「灯…くん?」空は泣きそうになっていた。
「ごめんごめん。もう今日は泊まれ」そう言って空を今の僕の部屋に案内した。
「灯…あのな…」
「うん。なに?」
空から話を聞くと、副院長先生から、嫌がらせを受けているらしい。
「空、いつでも悩み聞くから…」
「ありがとう…」そう言いながら空は夢の世界に入っていった。




