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29話

「あの、山本さんは…?」

「えっ山本さんですか?ちょっと待ってください…」そう言われてしばらく待つと、山本さんが僕の前に現れた。

「灯さん…」

「輝がどんな思いしたと思ってるんだ?輝がお前に何をしたんだよ…」

「ごめんなさい、でも…」

「でもって何だよ。何で輝が辛い思いしないといけないんだよ」

「灯さん…」

「山本さん。もう二度と輝の前に現れないでください。あなたは絶対許しません」僕はそう言って、ナースステーションを後にした。

「灯さん…私は灯さんが好きでした」

「だから?それなら僕が許すとでも?」

「……」

「あなたは輝を傷つけたんだから…苦しめたんだから…許さない」僕はそう言いながら輝の病室に戻った。


「ひ~か、ごめんね、急に居なくなって…心配したかな」

「兄貴…」そう言って輝は泣き出した。

「ごめんな。僕がしっかりしてなかったから…1人で辛かったよな」僕はそう言いながら輝の頭をなでた。

「灯、輝くん泣き止ませて…辛くなっちゃう…」

「あぁ…ひ~か、辛くなっちゃうからさ、ちょっと涙止めて」僕はそう言って輝の涙を拭ってあげた。


輝が疲れて眠った後、空が口を開いた。

「それでどうした?何でさっきナースステーションに?」

「輝のストレスの原因。看護師のやつが、輝に酷いこと言ってたんだよ…」

「誰かは分かったのか?」

「あぁ、ほらよく輝の様子見に来ていた、山本さん…」

「山本さんが?でもこれで輝くんが無駄に苦しむことはないね」

「うん。本当に良かった…でももっと早くに気付ければ…」僕は罪悪感から、涙をこぼした。

「灯のせいじゃないだろ?灯のおかげで輝くんは助かったんだよ?」

「でも、僕は…」輝の辛さに気づいてあげられなかった…

「灯、輝くんは嬉しいんじゃないかな?いつも灯は笑って輝くんのそばに居て…」

「えっ…」

「だから、灯が泣くのは嫌だと思うよ?しかもそれが輝くんのことを想ってのことだって知ったら余計に…」

「空…僕は…」その時、僕を温かいものが包んでくれた。

「灯、俺は輝くんにも、灯にも笑ってほしい…でもね、辛いときには泣いてほしい。俺の前で…」

「もう僕は輝に心配かけたくないんだ。だからさ、輝の前では泣かない…」

「灯…?」

「空の前では泣いていい?僕、お兄ちゃん面したいけど、やっぱり弱いから…」

「当たり前だろ?その時は輝くんには内緒にしといてやるよ!」


僕はいつだって空に頼ってしまう。

昔だって今だって…


それでもいいのかな?

空の優しさに包まれたって…

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