理想郷(アーカディア)
ここから第二章スタートです。
舞台は新たな世界「ネメシア」へ。
優しさしかない世界。
争いもなく、穏やかで、美しい場所。
――でも、どこかおかしい。
そんな違和感を少しずつ感じてもらえたら嬉しいです。
ここから物語は大きく動いていきます。
ぜひ楽しんでください。
視界が開けた瞬間、優実はその場に立ち尽くした。
どこまでも続く草原。空は澄みきっていて、雲一つない。風が頬を撫でているのに、不思議と音がほとんどしなかった。
「……え」
思わず、間の抜けた声が漏れる。
さっきまでいた場所とは、あまりにも違いすぎる。
焼ける匂いも、あの叫びも、胸を締め付けていた感情も、何もかもが綺麗に消えていた。
レイン。
最後に見たあの顔が、ふっと頭に浮かぶ。
一瞬だけ胸の奥が重くなるが、それ以上に目の前の光景が強すぎた。
「……なにここ」
ゆっくりと周りを見渡すと、草は均一に揃い踏み荒らされた跡もない。まるで最初から誰も踏み入れていない場所みたいに整っている。
空気も澄んでいる、澄みすぎている。
「……天国、とか?」
ぽつりと呟いて、自分で少し笑ってしまう。
「いや、さすがにそれはないか……でも、なんかそんな感じする」
ふわっとした感覚のまま隣を見ると、そこで動きが止まった。
「……え」
さっきまでそこにいたはずの“それ”とは、あまりにも違う貞美の姿。
長く伸びた黒髪は艶やかで乱れ一つなく背に流れ、顔もはっきりと見える。白い肌に影が落ち、その輪郭が静かに浮かび上がっていた。
まるで、呪いに侵される前の綺麗な姿に戻ったみたいに。
「……戻ってる?」
思わず一歩近づく。
「ちょ、ちょっと待って……ほんとに誰?」
顔を覗き込みながら、思わず息を呑む。
「え、やば……普通に綺麗なんだけど……」
本音がそのまま漏れるが、貞美は何も答えない。ただほんのわずかに視線が揺れ、周囲を一瞬だけ見渡した。
その動きに引っかかりを覚えながらも、優実は軽く頭をかく。
「……まあ、いっか」
分からないことだらけでも、止まってはいられない。
「とりあえずさ、ここどこなのか見ない?こんな綺麗なとこ初めて見たし」
もう一度周囲を見ると、やっぱり静かだった。風はあるのに音がなく、草も揺れているのに擦れる気配がほとんどない。
「……なんか、不思議なとこだね」
その時、遠くに何かが見えた。
「あれ……?」
目を細めると、草原の先に建物のようなものが並んでいる。
「村……かな?」
少しだけ声が明るくなる。
「よかった、人いそう」
振り返って貞美を見ると返事はないが、そのまま優実は歩き出した。
足元の草はやはり音を立てず、違和感を残したままでもその場所はどこか安心できるように見えた。
近づくにつれて村の形がはっきりしてくる。木造の家が円形に並び中央には広場、屋根や壁の色も統一されていて、どの家も新しく汚れ一つない。
「……すご、めっちゃ整ってる……」
思わずそう呟きながら入口に差し掛かった瞬間、住人の姿が目に入る。
耳と尻尾を持つ、人のようで人ではない存在。
その瞬間、優実の思考が一気にぐちゃぐちゃになる。
(え、なに、え!?オオカミ……?いや人!?え、何これ!?)
視線が勝手に追いかける。
(待って待って、これ聞いたことあるやつ……えっと……じゅ、じゅうじん?獣人!?)
頭の中でようやく言葉が繋がるが、混乱は収まらない。
(なんでいるの!?いやなんで普通にいるの!?)
さらに周囲を見ると、狼のような耳、猫のような動き、それぞれ違うはずなのにどこか似ている違和感がじわじわ広がる。
(無理無理無理、何ここほんとに……)
思考が追いつかないまま視線を戻した瞬間、目が合った。
「あ」
思わず漏れた声に、向こうはにこやかに微笑んだ。
「こんにちは」
柔らかい声で返され、優実も慌てて「こ、こんにちはっ!!」と返す。
けれどその直後、違和感がゆっくりと広がっていく。声は軽く、表情も同じで、周囲の住人たちもこちらを見て全員が同じように穏やかな笑顔で、同じ角度で笑っている。
優しいはずなのに、なぜか落ち着かない。
「……えっと」
言葉が少し詰まり、何かを聞こうとしてやめる。
何かがおかしい。でも、それが何か分からない。
「……ねえ」
小さく隣に声をかけるが、貞美は何も答えない。
それでも優実は、戸惑いを隠しきれないまま呟いた。
「……なんかさ、ここ……変な感じしない?」
今回も読んでいただきありがとうございます!!
第二章[静寂の楽園]編スタートです!
ここが一体どこなのか?次に優実と貞美の奇妙な関係はどんな展開を迎えるのか!
是非楽しみに読んでいただけたら幸いです!
高評価ブックマーク感想等々、随時お待ちしております!!
改めて今回も読んでいただきありがとうございました!




