残響
第4話「残響」。
ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。
この回は、ただの戦いではなく“その奥にあるもの”を描きたくて書きました。
壊れてしまった感情と、それに触れてしまった優実の選択。
少しでも何か心に残るものがあれば嬉しいです。
そしてここから物語は、新しい世界へと動き出します。
「……終わった……?」
優実の声が静寂に溶ける。
地面に倒れた“それ”は、もう動かないように見えた。歪んでいた輪郭も、さっきまでの暴れ方も嘘みたいに静かで、ただそこに転がっているだけの存在になっている。
けれど。
――ドクン、と。
胸の奥に響くような音がした瞬間、空気が変わる。
「……っ」
“それ”の胸の奥で何かが脈打ち、黒いものが溢れ出しながら体が引き起こされるように持ち上がる。
「――ァァァァァッ!!」
叫びと同時に地面を叩きつけ、見えない波が広がると優実の視界が揺れ、音が遠のき、その代わりに何かが流れ込んでくる。
違う、これは――
「レイン」
優しい声に、手を引かれている。
隣には微笑む女性、その先で小さな手を伸ばす少女が無邪気に笑っている。
暖かいそんなはずなのに、場面が歪む。
少女が何かを落とし、思わず声が出る。
「なんでそんなことを――」
その言葉は途中で途切れ、周囲には変わらない笑顔が並ぶ。
誰も責めない、誰も怒らない、ただ優しく笑っている。
その中で、自分だけが取り残されている。
水面に映る顔へと切り替わり、そこにあるのは笑っていない自分の顔で、疲れ切った目だけが静かに沈んでいる。
「……なんでだ……」
声が滲む。
次の瞬間、手を引かれ、信じていた手が離れ、そのまま別の誰かへと渡される。
逃げようとしても動けない。
そして包むような炎
縛られた体のまま見上げた先で少女が笑っている。
「だいじょうぶだよ」
火が近づく。
「……やめてくれ……やめてくれ……」
――
「……っ!」
意識が引き戻される。
目の前にいるのはレインだったもの。
体のあちこちから炎が滲み出るように揺れ、振り下ろされた腕とともに熱が押し寄せるのを咄嗟に避けるが、炎はすぐ横を掠めて地面を焼きながら広がっていく。
逃げなきゃいけないのに足が動かない。
「……来る」
その声と同時に影が割り込み、歪んだ空間が炎の軌道をわずかに逸らす。
「……遅い」
低く落ちる声。
それでも熱は残り、肌を焼く。
「なんでだ……!」
炎が膨れ上がる。
閉じ込められた感情が、そのまま外へ溢れ出しているみたいに。
「……っ」
震える手を握りしめる。
怖い、苦しい。
でも。
「……まだ、終わってない」
一歩踏み出し、そのまま炎の中へ進み、手を伸ばして触れる。
「――っ!!」
焼けるような熱が腕を走り、皮膚が悲鳴を上げる。
それでも離さない。
その瞬間、流れ込んでいた感情が逆流し、見せられるのではなく思い出している。
「……っ……」
動きが止まり、炎が揺らぐ。
その奥では
「……なんで……」
声が崩れる。
「なんで、なんで……」
怒りだったはずの声が、ただの痛みに変わっていく。
視界が滲み、何かが溢れている。
「……もういい」
静かな声で話す貞美。
「……クル」
貞美がボソッと放つと途端に、空気が変わり井戸が現れる。
今度は揺らがず、確かに確実にそこにある。
引きずられていく体は抵抗せず、ただゆっくりと沈んでいく。
落ちていくその中で炎が消え、歪んでいた形がほんの一瞬だけ元に戻る。
誰かの姿に手を伸ばしているように見えた。
届かないと分かっているのに、それでも何かを掴もうとするように。
「……ありがとう」
かすかな声が残り、そのまま静かに消えた。
何もかもが終わったような静寂が残る。
しばらくの間、誰も動かない。
やがて。
「……終わった……」
優実が小さく呟く。
頬に違和感があり、指先で触れると濡れている。
「……あれ……」
それが何か分かるのに少し時間がかかる。
涙。
自分でも気づかないうちに流れていたそれを、優実はただ静かに見下ろす。
その少し離れた場所で、貞美の視線が止まる。
ほんのわずかな間だけ見つめるようにしてから、何事もなかったかのようにゆっくりと外されるけれど、完全に無関心なわけじゃなく、ほんの少しだけ意識しているような気配が残る。
その時。
――バチンッ。
空気が裂けるような音が唐突に鳴り、足元の空間が何の前触れもなく割れる。
「えーー!!」
優実の声が思わず跳ねる。
次の瞬間、視界が引き剥がされる。
落ちた、はずなのに落ちている感覚がない。
重力が消えたみたいに体がどこにも触れていない。
上下も分からないまま、ただ何かに引きずられるように進んでいる。
「なに……これ……!」
声がどこか遠くに響く。
横を見ると、同じように流されている貞美の姿があった。
髪がゆっくり揺れているのに風はなく、何もないはずの空間で確かにどこかへ向かっている。
その先に光が見える、小さな点だったそれがじわじわと大きくなり、近づいているのか向こうが来ているのかも分からないまま確実に視界を埋めていく。
「――っ」
思わず目を細める。
光は強さを増し、形を失い、すべてを飲み込む。
次に目を開けた時、そこに広がっていたのは、見たことのない風景だった。
遠くに連なる建物に見慣れない構造。
どこか静かで、それでいて確かに“人の気配”がある。
全く知らないはずなのに、ここがどこかへ続いていると、直感だけが告げていた。
第4話まで読んでいただき、本当にありがとうございます。
この回は特に感情を込めて書いた回なので、何か心に残るものがあれば嬉しいです。
ここから物語はさらに広がっていきます。
まだまだここからが本番です。
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これからも全力で書いていきますので、よろしくお願いします。




