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感情が禁じられた世界で、私を殺した怪異となんだかんだで旅してます!  作者: ポルチーニアツオ
3章 巨大樹の共和国

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残響Ⅰ『共鳴』

 誰にも優しくされたことがなかった。


 だから、優しさの意味が分からなかった。


 暗闇の中で繰り返される、終わらない悪夢。


 その世界へ初めて差し込んだ、小さな光。


 ――それは、たった一人の少女の声だった。


 《残響Ⅰ》

 『共鳴』


 よろしくお願いします。

 ――暗い。


 どこまでも暗い場所、床も壁も分からないそこは、ただ黒だけが広がっている。


 その中で、一人貞美は小さく座っていた。


 周囲には、無数の絵達。

 子供が描いたみたいな絵が、壁一面へ描かれている。


 乾いた赤色と、不気味な黒色が、指で無理矢理塗り広げられたみたいに歪んでいた


 「私は絵を描くのが好きだった」


 小さい声で貞美は続ける。


 「友達はいなかったし、家族とも話さなかった、だから、ずっと描いてた、ひたすらに何度も何度も,絵を描き続けていた」


 暗闇の中、幼い貞美が壁へ指を滑らせ始める。

 指先はボロボロで、爪は剥がれ、血が滲んでいる、それでも貞美は笑っていた。

 すごく楽しそうに子供の様なワクワクな顔で、痛みなど微塵もない様に走らせている。


 「鉛筆はなかったから、いつも指で描いてた,最初は痛かったけど、血で描く絵はどこか生き生きとしていて、凄く綺麗だった」


 壁の中の子供達が笑い出す。

 ニコニコと優しく、楽しげに笑っている。


 「描いた子達はいっぱい話してくれた、嫌なこと言わなかったし、怖いこともしなかった、みんなが優しくて、私が心を開ける唯一の子達だった」


 “だから私は、ずっとそこにいたかった“


 その瞬間だった。


 ドンッ!!


 重たい音が響くと、暗闇の奥に現れる一つの扉。

 直後に今度は複数回強い音で響く。


 ドンッドンッドンッ!!

 

 何かが乱暴に開かれると、貞美の肩がビクリと震えた。


 重い足跡が、貞美に向けてゆっくり近づいてくる。


 「また描いてるのか」


 軽蔑するかの様な重い声。


 「相変わらず気持ちが悪い、やめろと言ってるのがわからないのか!」


 その瞬間、ガシッ!!と貞美の長い髪を掴む。


 「痛いっ……!!」


 頭が無理矢理、後ろへ力強く引っ張られる。


 激痛に涙が滲む貞美だが、それ以上に怖いのが襲ってくる言葉だった。


 「何度言えばお前は分かるんだ!そんな気持ち悪いもの描くな!」


 髪を引っ張られて、顔を床へ叩きつけられる。

 絵が滲み、又血が広がる。

 恐怖で貞美は小さく身体を丸めた。


 「やっぱり今日も,いつもの夢だ」


 小さい声が漏れる。


 何回見ても、何回見ても、慣れることはない。

 夢のはずなのに毎回痛くて、怖くて、だけど夢だから逃げる事すらできない、地獄の時間。


 更に声が増え続ける。


 「気持ちの悪い化け物め」


 「いっそお前何か死んでくれ」


 「気持ち悪い」


 「なんで生きてる」


 「そんな恐ろしい目でこっちを見るな」


 耳を塞いでも聞こえる罵詈雑言。


 ずっと。


 ずっと。


 ずっと。


 繰り返している。


 なのに最近、ずっと見てる気がする。

 ずっと繰り返してる。

 薄れていた記憶の断片の夢をひたすらに見続けている気がしていた。


 貞美は小さく震えている、その時だった。


 “あったかい“


 ふと、そんな違和感を自分の手に覚え、貞美はゆっくり自分の手を見る。

 ボロボロだったはずの腕、剥がれていた爪、血だらけだった指、それが、綺麗になっていた。


 白く、小さな光がそこへ重なっている。


 「だいじょうぶ」


 小さな優しい女の子の声。

 罵声の中、貞美の記憶にはないはずだった声が、そこだけがやけに鮮明に聞こえてきた。


 「化け物」


 「近寄らないで」


 「なんでお前は生きてる」


 その中へもう一度


 「だいじょうぶだよ、おねぇちゃん」


 小さい声が響くと、続けて


 「こっちだよ」


 暗闇の中に、貞美の手から一本の光が伸びた。


 貞美はゆっくり顔を上げ、ひたすらに光の方に走った。

 聞こえてくる恐ろしい声の方へ、自分の経験してきた過去の生き地獄だった記憶の方へ向かって、光が差す方に全力で走り続けた。

 

 その声だけを追いかけるように、貞美は必死に走り続けた。

 貞美を襲う声はどんどん聞こえなくなり、やがて光は強く、貞美を包んだ。


 目の前が眩しくなり目を瞑る。

 目を閉じて、光が消えた時に、ゆっくり目を開けた。


 最初に見えたのは、隣で眠る女の子だった。


 小さな身体、安心しきった寝顔、スゥースゥーと鼻息だけが聞こえ、少し下を見ると、その小さな両手は、貞美の手をぎゅっと強く握っている。


 エナだった。


 貞美は静かにその顔を見つめた。


 胸の奥が妙に苦しい、でもその苦しさは嫌な物では無く、温かった。


 “わからない“


 その感情も、温もりも、この気持ちも、全部まだ分からない。


 それでも、貞美はゆっくりとエナを抱き寄せた、まるで離したくないみたいに強く。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ――コンコン。


 扉を叩く音が部屋に響く。


 「エナ?どこ行ったの?」


 リアナの声だった。


 「エナ――」


 部屋に入ってきたリアナはそこで言葉が止まる。


 朝日が差し込む部屋の中、ベッドの上では、エナを包むように抱きしめながら眠る貞美の姿があった。


 リアナは少し目を丸くすると、その後ろからガルドも部屋を覗き込む。


 無言だが、どこか空気が柔らかかった。


 その時、優実もゆっくり目を覚まし、ヨルもまた目を覚ます。


 視界に入った光景に、優実は少しだけ目を見開いた。


 貞美が、エナを抱いて眠っている。


 その顔は、昨夜までより少しだけ穏やかに見えた。


 リアナは小さく息を吐く。


 「はぁ〜やっぱりここにいたのね」


 怒るつもりだったのに、どこか安心したような声だった。


 ガルドはその光景を一度見つめると、静かに口を開く。


 「お前達起きたなら準備しろ」


 低い声が部屋へ響く。


 「今日は調律院へ行く」


 温かな夜は終わりを迎え、そしてまた、現実が始まろうとしていた。

今回も読んでいただきありがとうございます!

ついに見え始めた貞美の過去。

その過去は残響として今も貞美の中に響き続けています。

そんな中一筋の光を差したのはエナというエルフの女の子!!

この二人の展開を今後も見ていただけると嬉しいです!


今回は読んでいただきありがとうございます!

高評価、感想、ブクマ等々お待ちしております!

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