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化け物と呼ばれた少女は、殺した少女と愛を知るお話!!  作者: ポルチーニアツオ
3章 巨大樹の共和国

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知らない家の、温かい匂い

 知らない天井。


 知らない家。


 知らない人達。


 それなのに、そこには確かに“暖かさ”があった。


 逃げ続けた先で優実達が出会う、初めての温度。


 第三章第二話

『知らない家の、暖かい匂い』


 今回もよろしくお願いします!

 ――暖かい。


 最初に優実が感じたのは、それだった。


 ぼんやりした意識の中、パチパチと何かが燃える音が聞こえる。


 木が軋む音に、鍋の中で何かが煮える音が心地よく聞こえてきて、鼻をくすぐる、優しい匂いがした。


 優実はゆっくりと目を開けると、見知らぬ天井が広がっていた。


 木で出来た部屋、柔らかな灯り、窓から入ってくる涼しい風。

 村を逃げ出してからずっと雨と泥の中にいたせいか、その空間だけやけに現実感が薄く感じる。


 「てかここ、どこ?」


 掠れた声が漏れた瞬間、視界の目の前に、突然可愛らしい顔が現れた。


 「起きた!!」


 「うわっ!?」


 思わず優実が身体を起こすと、目の前にいた少女も同じように驚いて、ぴょこんと後ろへ下がった。


 長い金色の髪がふわりと揺れる。


 年齢は優実達よりかなり下くらいだろうか、小柄な身体に、大きな翡翠色の瞳で少し尖った耳が印象的だった。


 その顔には、警戒も恐怖もなく、クリクリなお目目で優実を見つめる、ただ純粋な好奇心だけが浮かんでいた。


 「起きた!ずっと寝てたお姉ちゃん起きた!!」


 嬉しそうにそう言うと、少女はそのまま優実の周りをくるくる回り始める。


 「え、ちょ、ちょっと待って……」


 村を出てからずっと、恐怖と緊張の中にいたせいで、こんな普通の声を聞いたのが逆に怖かった。


 優実は辺りを見回すと、そこでようやく、部屋の隅に座っているヨルを見つけた。


 壁にもたれ、腕には包帯が巻かれていて、顔色は最悪だったが、ちゃんと起きていた。


 それだけでホッと少し安心する。

 ヨルは優実と目が合うと、小さく息を吐いた。


 「優実、起きたか」


 「起きてたんだヨル、ここはどこなの?」


 「安心していい、今のところはな」


 最後だけ少し低い声になる。


 優実はその言葉で、ようやく少しだけ肩の力が抜けた。


 だが次の瞬間、別のことに気づく。


 「ちょっと待って……貞美は?」


 優実は慌てて横を見ると、そこにはまだ眠ったままの貞美がいた。


 「まだ起きてなかったんだ」


 長い黒髪がベッドの上に広がっていて、呼吸はあのに、目を覚ます気配は一向にない。


 「このお姉ちゃん、すごく綺麗だよね!」


 いつの間にか隣へ来ていた少女が、当たり前みたいに貞美の髪へ触れるのを見ると優実の心臓が跳ねた。


 「ちょっ……危ない!」


 なんで危ないかは分からないけど、止めようとする。


 だが少女は全く気にしていなく、怖がる様子どころか、むしろ楽しそうに貞美の髪を指で梳いている。


 「髪さらさら〜」


 その様子に優実は言葉を失った。

 今まで、貞美へそんな風に触れた人間はいなかったからだ。


 皆怖がった。


 皆避けた。


 なのに、この子は全然違った。子供故の行動だと分かっていても驚きが勝った。


 「起きたのねぇ」


 その時、部屋の入口から優しい声が聞こえた。

 振り向くと、エプロン姿の女性が鍋を持って立っている。


 柔らかな栗色の髪を後ろでまとめ、どこか穏やかな空気を纏った人だった。


 少し疲れたような目をしているのに、その表情は驚くほど優しい。


 「とりあえず貴方達、ご飯を食べなさい、話はそれからね」


 女性はそう言って笑うと、優実は戸惑いを隠せていなかった。

 

 「安心しなさい、何か悪い事を考えている訳ではなく、ただ一番美味しい時に食べて欲しいだけよ」


 どうしてこんな普通に接してくるのか分からなかった。


 「あ…あの」


 「リアナよ」


 リアナは鍋を机へ置きながら答える。


 「こっちは娘のエナ」


 「エナです!」


 少女――エナが元気よく手を上げた。


 「で、そこで怖い顔してるのが息子のノエル」


 「誰が怖い顔だよ」


 部屋の奥から低い声が返ってくると、優実がそちらを見る、一人の青年が椅子へ座っていた。


 白銀の髪に、尖った耳をしていて、整った顔立ちだが、目つきは鋭い。


 だが優実が一番目を引かれたのは、その背中だった。

 本来あるはずであろう羽のような膜のような翼、その片方が大きく欠けている。


 無意識にそこを見てしまった優実へ、ノエルは少しだけ眉をひそめた。


 「何だよいきなり...見るなよ」


 「ご、ごめん」


 気まずい空気が部屋を埋めると、その瞬間。


 「そんな怖い顔してたらご飯がまずくなるわよ」


 リアナが呆れたように言うと続いて、エナが吹き出す。


 「ノエルお兄ちゃんまた睨んでる〜」


 「うるさいなぁエナも」


 優実はそのやり取りを見ながら、ぼんやりと思った。


 ――普通だ。


 それが逆に、違和感だった。


 机へ運ばれたスープから湯気が立っていて、優実はそれを恐る恐る口をつけた。


 その瞬間、動きが止まった。


 “温かい“


 ただそれだけなのに、胸の奥が妙に締め付けられるように痛くなった。


 「美味しい」


 「確かに美味いな」


 優実の思わず零れた言葉に、ヨルが頷くと、リアナが少し嬉しそうに笑った。


 「よかった」


 優実は思わず視線を落とした。

 こんな風に誰かと食卓を囲むのが、ずっと昔のことみたいに感じた。


 食事が進む中、空気は少しずつ落ち着いていくが、完全に安心できるわけではなかった。


 ノエルはまだ優実達を警戒しているし、ヨルも静かに周囲を観察している。

 そして優実もまた、ここが本当に安全なのか分からなかった。


 そんな中、ふと優実は小さく呟く。


 「アーカディアって」


 その瞬間、食卓の空気が止まった、


 ノエルの手が止まり、ヨルも静かに目を伏せた。


 リアナだけが、小さく笑うと、


 「今日はその話はやめましょう」


 と優しい声で一言で終わらせるが、その奥には確かな重さがあった。


 ヨルと優実は静かにご飯を食べすすめた。


 食事を終えて、食器をまとめると


 「今日はゆっくりもう寝なさい、また明日色々話すわ」


 リアナはそう呟いて、エナとノエルを連れて部屋をあとにする。


 「少なからずあの人達は敵では無い。優実もまだ疲れが取れてないだろうし、今日はもう寝よう」


 そう言ってヨルは優実の返事を待つことなく、壁へ身体を預けると、鳥みたいに片足を軽く折り畳み、そのまま静かに目を閉じた


 「ヨルも限界だったんだね、おやすみ」


 そう呟いて、貞美が横に寝る布団に入り瞳を閉じた。


 だが、何度挑戦しても頭の中には色々起きすぎた出来事達が,考え事として巡り続けた。


 優実は眠れず、静かな部屋の中で又目を開ける。


 ちらっと横を見ると、隣では貞美がまだ寝ている。

 その寝顔を見ながら、不安だけが胸に広がっていく。


 「このまま寝たまんまなんて、やめてよね」

 

 小さく呟いた、その時だった。


 優実は小さく目を見開く。


 よく見ると、エナが貞美の隣でスヤスヤと寝ている。


 小さな両手で、貞美の手を優しく握りながら、貞美にくっついて寝ていた。


 貞美を心配して、一緒に寝にきてくれたんだろう。


 その様子を見て、少しの不安はあったけど、どこかそんなエナちゃんを引き剥がす気にもなれなかった。

 

 「まぁ、大丈夫か」


 そんな二人を見ているうちに、優実の張り詰めていた意識も少しずつ落ちていった


 寝ている三人に


 「おやすみ」


 と伝えて改めて眠りに付く。


 優実の横には天使のような寝顔の二人が、姉妹の様にスヤスヤと寝ていた。

 

今回も読んでいただきありがとうございます!

気づいた時には見知らぬ天井を見上げる優実。

そして迎えてくれたは温かい家族だった。


今回も面白いと思って頂けたら、

ぜひ高評価、ブクマ、感想等々お待ちしております!

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