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感情が禁じられた世界で、私を殺した怪異となんだかんだで旅してます!  作者: ポルチーニアツオ
2章 静寂の楽園

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まだ死ぬな

村は燃えていた。


 守ろうとしてくれた人達の優しさも、笑顔も、もうそこにはない。


 感情を持つことが許されない世界で、優実は初めて“痛み”を知る。


 そして村の出口で待っていたのは、圧倒的な存在。


 第二章、終幕。


 今回は、感情と絶望が大きく動く回になってます!

 壊れた檻の隙間から、冷たい空気が流れ込んでくる。


 地下は静まり返っていた。


 さっきまで響いていた騒音も怒号も、もう聞こえない。


 優実は小さく息を吐き、気を失ったままの貞美を支える。


 体温はあるし、呼吸もしている。


 けれど顔色は悪く、今にも消えてしまいそうだった。


 ヨルが通路の先を見ながら低く言う。


 「今なら出られる」


 優実は頷いた。


 ここにいても何も変わらないし、むしろ早く出なければここは危険だと分かった。


 三人は慎重に地下通路を進み、崩れかけた階段へ辿り着く。


 上から差し込む光が見えた。


 “外だ“


 優実は息を呑みながら階段を上がる。


 そして――目の前の景色に足が止まった。


 「何これ、嘘」


 あちこちから煙が立ち上り、崩れた建物が黒く焦げている。


 地面には倒れた村人、割れた器、散らばる木材。


 熱風が頬を撫で、焦げた匂いが鼻を刺した。


 昨日まで穏やかだった場所が、まるで別世界になっている。


 優実の脳裏に朝の光景が浮かぶ。


 香ばしい匂い、静かな会話、穏やかな空気。


 それが今はもうどこにもない。


 「なんで…」


 掠れた声が漏れる。


 ゆっくり足を進めた時、視界の端に倒れた人影が映った。


 優実は息を止める。


 あの村人だった。


 地下へ入る前、震えた声で『怖くない、ここにいろ』と言ってくれた人。


 その人は地面に倒れたまま、微かに笑っていた。


 笑顔のままだけれど、もう動かない。


 優実の喉が詰まる。


 声にならない思いが込み上げてきて、近づき、膝をつき、触れようとした手が止まる。


 冷たく、呼吸はもうない。


 その瞬間、胸の奥が重く沈んだ。


 「なんで」


 小さく漏れた言葉が空気に溶ける。


 守ろうとしてくれた、だからこそ閉じ込めた、けれどそれは助けようとしていた。


 その人が目の前で死んでいる。


 優実は唇を噛んだ。


 「私達のせい?」


 ヨルは答えないが、否定もしない。


 その沈黙が何より重くのしかかる。


 風が吹き、焦げた臭いが流れる。


 その時だった。


 倒れていた村人の身体から、黒い煙のようなものが滲み出る。


 優実は目を見開いた。


 煙は揺れながら空へ浮かび、村の中央へ集まってきてゆっくり大きな形を作り始める。


 顔や腕、徐々に現れる歪な影。


 それは人の形をしていた、けれど人ではない。


 輪郭は揺れ、顔は崩れ、呻くような声が漏れている。


 「怖い」


 「帰りたい」


 「まだ」


 聞こえてくる言葉に優実の背筋が凍る。


 「なに……これ」


 黒い影は苦しむように揺れ続け、泣いているようにも怒っているようにも見えた。


 感情だけが形になったような存在に、優実は思わず一歩下がる。


 「あれは生きてるの?」


 ヨルが静かに首を振る。


 「違う。残った感情だ、死にきれなかったもの達の成れの果て『残滓』だ」


 “感情が死んでも消えない、そんなものが存在するのか“


 優実は困惑する。


 黒い影は周囲へ広がろうとし、呻き声が増えていく。


 空気が重くなる中、静かな足音が響いた。


 カツンッカツンッ


 戦場の向こう、煙の奥から一人の女が歩いてくる。


 ルミエルだった。


 真っ直ぐ、迷いなく、視線は残滓へ向けられている。


 「感情は死後すら秩序を乱す」


 静かな声が落ちる。


 次の瞬間、一閃の光が走った。


 たったの一撃だった。


 残滓は悲鳴を上げる暇もなく消え、空気だけが揺れる。


 優実は言葉を失う。


 強い、理解できないほど。


 ルミエルはその場を通り過ぎ、後ろから兵士達が近づいてくる。


 腰元から取り出された結晶、『ラクリマ』


 淡く青白く光るそれを兵士が掲げる。


 「残滓反応確認!!回収開始ぃ!」


 結晶が脈打ち、空気に漂っていた淡い残光が吸い込まれていく。


 魂のような光が結晶へ収束していく光景に、優実は吐き気を覚えた。


 「なんなのあいつら」


 ヨルが低く答える。


 「さっき聞こえた通り、これが処理だ、奴らは死んでも終わらせない」


 感情を持つことが許されない、そうそれは例え


 死んでも。


 消えても。


 終わることのないこの世界の異常さが、胸の奥へ重く沈んでいく。


 ヨルが振り返る。


 「そんな場合じゃない、今は逃げるぞ」


 困惑しながらも優実は頷いた。


 足は重い、それでも動くしかない。


 貞美を抱えたヨルと優実は燃える村を駆け抜け、出口へ全力で走った。


 遠ざかる悲鳴、焦げた臭い、肌を焼く熱、感じる思いの重さに、涙が滲む優実とヨル。


 「助けてくれたのに、みんな、守ろうとしてたのに……」


 こんなにも感情が痛いのは、初めてで、思えば思う程涙が出てくる。


 「だからこそだ!だからこそ今俺たちに出来ることは全力でここから出ることだろ!」


 ヨルは涙を流しながらも必死に返す。


 村の出口が見えてきた。


 “あと少し、あと少しで外へ出られる“


 少しの安堵だった。


 その時、風が止まった。


 音が消え、炎も揺れない、ただ空気だけが重く沈む。


 優実が顔を上げて、ヨルが止まり、目を細めた。


 「まずいぞ!下がれ優実!!」


 ヨルの大きな声と共に、次の瞬間、爆音が響く。


 地面が砕け、優実達を包むように衝撃が走った。


 土煙が舞い、石が跳ね、空気が押し潰される。


 優実は反射的に目を閉じた。


 耳が鳴り、視界が揺れる。


 煙が晴れた先に、立っていた巨大な翼。


 黒金属のような艶の大きな鎧に身を包み、羽の表面を細い金の線が走っているそいつは、圧倒的な大きさで、羽ばたいていないのに空気が震えていた。


 優実にはどこか違えど、見覚えのある容姿だった。


 立っているだけで、心臓が止まりそうになる。


 その時、その男の腰元で光が揺れる。


 腰につけていたラクリマから微かな通信音が響いた。


 「レグルス様!そちらから非常に大きな反応が確認されました」


 ルミエルの声だ。


 「問題ありませんか」


 レグルスは目を細めることもなく、静かに答えた。


 「あぁ、大丈夫だ」


 昨日とは別人のようだった。


 冷たく、感情がない。


 優実はそこで理解する。


 “終わった“


 そう思った時、ヨルがゆっくり震える足を押さえて前へ出る。


 庇うように、優実の前に立ち、


 「逃げろ」 


 恐れながら言葉を放つと、優実に貞美をゆっくり渡す。


 「待って、ヨル!あいつは...」


 優実の静止を無視して、ヨルは先手を仕掛けた。

 

 次の瞬間、レグルスめがけて強く地面を蹴り、一瞬で距離を詰める。


 優実の静止を無視して、ヨルは先手を仕掛けた。


 羽を丸めて弾丸の様な勢いで飛んで行く。


 だが届かない。


 レグルスは最小限の動きで、遊ぶように避けた。

 

 そして次の瞬間、視界から消えた。


 優実が瞬きをした間だった。


 気づいた時には、ヨルの首元が掴まれていた。


 片手、それだけで持ち上げられている。


 ヨルの顔が苦しそうに歪む。


 その強さの差は圧倒的だった。


 レグルスが静かに言う。


 「あと少し力を入れれば、お前は死んでいた」


 足が地面から浮き、ヨルの喉から低い息が漏れた。


 「っ……ぐ……!」


 首へ食い込む指、必死に逃れようと腕を掴むが、動かない。


 優実は動けない。


 “終わる“


 そう思った時だった。


 レグルスはヨルを掴む手を離した。


 ヨルは地面へ落ちると、苦しそうにむせていた。


 「もういい、行け」


 レグルスがヨルと優実を見て呟く。


 理由もなく、理解が追いつかない優実。


 レグルスはそのままヨルを置いてゆっくり歩き出す。


 優実の隣を通り過ぎる時、すれ違う瞬間に小さく声が落ちた。


 「まだ死ぬな」


 優実は振り返る。


 けれどレグルスは止まらず歩いていく。


 その後ろ姿は巨大な翼だけが静かに揺れていた。


 困惑しながらも前で咳き込んでいるヨルに駆け寄る。


 「何が起きてるんだ、なんで俺たちは殺されない」


 「そんなこと分かるわけないでしょ、ただ今はレグルスが私達を逃がしてくれた訳だし、私達は村人の皆んなにも助けられてるんだし、行くしかないでしょ」


 「行くってどこに?」


 「分かんない、でもここからは逃げないと」


 「そうか、そうだよな」


 優実はヨルの手を握り起こす手伝いをする。


 貞美をヨルに担いでもらい、レグルスを背に三人はひたすらに村の外の生い茂る草木を掻き分け、三人は走る。


ーーーーーーーーーーーー


 レグルスは歩く足を止めて一度だけ振り返る。


 優実がヨルの手を引き上げ起こしている様子を見て


 「それでいい」


 呟きまた歩き出す。


ーーーーーーーーーーーー


 遠ざかる村。


 炎が燃え盛り、戦いの音と、微かに聞こえてくる悲痛な声。


 優実は走りながらも一度だけ振り返った。


 遠くになり始めていた村の景色に胸が痛くなり、涙が止まらない。


 『感情を知った世界は、あまりにも残酷だった』

 今回も見ていただきありがとうございます!!

 第二章描き終えれてすごく嬉しいです!

 少ないかもしれないですが、ここまで読んで下さってる方も改めて感謝!!


 この後の第三章もめちゃめちゃ面白い展開にしてくので是非読んでください!!


 この作品が面白いと思っていただけたら、高評価、ブックマーク、感想等々お待ちしております!!

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