コンビニ
シュウはクリスの手を引いて、アイス専用の冷凍庫の前に立つ。
背が低く、上部に扉がついていて、左右どちらかを開いて中から取り出すタイプ――昔ながらのアイス用冷凍庫だ。
勝手を知らないクリスのために説明をしようとシュウは思ったのだが、並んでいるアイスに種類が多く、しかも食べたこともないものまで並んでいる。だが、全部を説明する必要はない。
「いくつか種類があるけど、どれがいい? あと、奥の冷凍庫には高級なアイスがある。とりあえず、ここで気になるのを言ってくれれば、どんな感じかくらいは教えるから」
「ありがとう。書いてある絵をみればだいたいわかるわ。これはイチゴ入りっていうことでしょう?」
クリスが指したアイスはカップ型のアイスクリームで、蓋の部分にイチゴの絵が書かれているものだった。
「うん、そうなんだけど……牛乳を使って作ったイチゴ入りアイスだね。牛乳が入っているものはアイスクリームと言って、乳脂のせいで濃厚になるんだ。こっちのカップは氷を砕いてイチゴ味の甘い砂糖水のようなものを掛けてある氷菓。味は違うが、棒状に固めてあるのがこっちの袋入りの氷菓」
乳固形分と乳脂の量によってアイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、氷菓に分類されるのだが、そこまでシュウも細かくはわからない。
シュウは大雑把に違いがわかるよう説明していく。明らかにカップにラクトアイスと書かれていても、そこは一旦ひと纏めにして説明をしてしまう。
「牛乳を使ったものと、使っていないものがあって、後は味付けがいろいろとあるってことね?」
「あとは形だよな。カップに入ってるもの、棒状になっているもの、これとかはコーンっていう――焼き菓子みたいなものを器にしてある」
シュウは指しながら順に説明すると、最後にくるくると包装紙を剥きながら食べる円錐形のアイスを指した。
「紙も食べられるの?」
「紙は包装してあるだけだから、剥いて食べるんだよ。あと、その焼き菓子で牛乳の入ったアイスクリームを挟んだのがこれ」
シュウが指したのはチョコが挟まったアイスモナカで、割って食べれるようになっている。
「いろいろあって選べないわ。あちらのアイスも見ていい?」
「もちろん」
ふたりは店の奥にある冷凍庫の前に移動する。
途中、様々な雑誌や生活用品、インスタント食品などが並んでいて、クリスは視線をあちこちに飛ばしながら歩いているが、シュウの方は冷凍庫に向かって一直線だ。
といってもそんなに店の中は広大でもないので、すぐに冷凍庫の前に着いてしまう。
「これが贅沢なアイス。いい材料を使っていて濃厚で美味しいんだ。ただ、そのぶん値段は高いけどね」
「カップっていうのに入ってるのが多いのね。さっきのよりも全然小さいわ。なのにこちらの方が高いの?」
クリスは明らかに大きなサイズのカップに入っているアイスが安く、小さなカップに入った方が高いということに抵抗を感じてしまい、とても不思議そうにシュウを見上げた。
「少量でも満足できるほど美味しいものがいいか、たくさん食べてようやく満足するのがいいか……その違いだな。とても珍しいけれど美しく高価な小さな宝石を一つ選ぶか、どこにでもある安い宝石だけど大きなものを選ぶかみたいな感じかな?」
「そ、それは難しい選択ね」
クリスはシュウの説明を聞いて真剣な顔をして考える。自分の腹具合を考えてみたり、高級で美味しいものの味を想像してみたりしながらアイスの棚を真剣な眼差しで見つめる。
一方のシュウは、この高級アイスの中であればどれにするかと考えて、レモンシャーベットを選び、扉を開いて取り出した。
「シュウさんはそれにするのね? だったらどれがお勧め?」
「やっぱ基本はバニラだろうな、でも特に甘いのがよければこのクッキー入りもいい。チョコや抹茶も濃厚だし……」
クリスの相談に答えつつも、シュウは悩み始めてしまう。コレだと言い切るのは簡単だが、自分自身がそれとは違うものを選んでいるのだから仕方がない。
そうなってしまうと、一番簡単な解決策はひとつである。
「何個か買って、一日一個ずつ食べ比べてみたらどうだ?」
「え、それでいいの?」
まとめて五種類くらい選んでしまいたいとさえ思っていたが、それが高級アイスと聞いていたクリスはさすがに気後れしていた。だから、シュウの返事を確認すると頬が緩み、声が弾んでしまう。
そんな嬉しそうな笑顔と声を聞いてしまうと、お酒のせいかシュウもつい気が大きくなる。
「全然問題ない。家の冷凍庫は空きがあるし、一〇個買っても大した金額じゃないから気にしなくてもいいよ」
「ほんとに?」
「ああ」
クリスの笑みが満面に広がると、周囲の目を気にしてか小さく「やったぁ」と喜びの声をあげる。
その少し無邪気に喜ぶさまを見ると、シュウも何故か笑みが溢れてしまう。
「じゃぁ、バニラというのと、クッキー入りとかいうのと、チョコ、抹茶、イチゴもあるわ……あれ、こっちのは挟んであるのね。じゃあ、これとこれもっ」
クリスは次々とアイスを選ぶとシュウに手渡していく。
扉を右手で押さえているので、今はシュウの左手にポンポンと置いていく感じなのだが、さすがに片手でいくつも持ちきれない。
「そこに青いカゴがある。取ってきてくれないか?」
「はーい」
酔いがまだ残っているのか、ただ嬉しいのか……。
とにかく高めのテンションで返事をすると、クリスはカゴを取りに行って戻ってくると自主的にその中に商品を移し替えた。
「お、ありがとう」
「これくらいは、ね?」
移し替えを終えるとクリスがその細い腕でカゴを持って歩いているのだが、彼女はコンビニに来るのは初めてである。当然、そのカゴをどこに持っていくのかということさえ知らない。
結局はシュウが左手にクリスを引いて、レジまで来るとカゴを受け取り、レジ台の上に置いた。
クリスは店員がバーコードをスキャンしていくのを見ると、くいくいとシュウの左手を引っ張り、小声で尋ねる。
「あれは?」
「ああ、これも家に帰ってからだな……」
店員も目の前でバーコードやそのリーダー、POSレジの説明を始められても困るだろうと、シュウはクリスを宥める。
購入数量自体は十にも満たないのですぐに読み込み作業は終わり、シュウはレジ袋を受け取ると右手に持って、クリスと共に外に出た。
コンビニから自宅マンションまでは二分程度の道のりだ。既に暗い路地を歩いていると、すぐに到着した。
シュウがポケットから鍵を取り出してマンションの入り口にあるセンサーに翳すと、自動で鍵が開くと共に、センサーの上にある液晶パネルに赤い文字が点滅して「荷物が届いています」と言う女性の声が響く。
「あ、そうだ。昨日買った商品か……」
シュウは少し困ったように眉尻を下げると、マンションの玄関扉を開いてクリスを招き入れる。玄関ロビーの壁のように宅配ボックスが設置されていて、シュウはその中の荷物を取り出さなければならない。だから、昨日買ったものを思い出す。
「下着はオーダーで連絡待ちだよな。服は発送してもらったのと、日用品で足りないのを買ったくらいか。開けてみるか……」
シュウは届いているものを思い出しながら、クリスの前で宅配ボックスを操作する。
結局、荷物は段ボール箱二つで、特に日用品の箱は大きかった。
シュウは折りたたみカートの荷物を解き、宅配ボックスの荷物などを乗せるとまた括り付け、クリスと共にエレベーターに乗り込んだ。
初稿:2020年3月1日
いつもお読みいただきありがとうございます。
前話投稿時にブックマークいただきました。ありがとうございました。
高級アイスはハーゲンダッツですね。コンビニのカゴは青なのでローソン。
もう少し店内でぐだぐださせようかと思ったのですが、アイスが溶けるのでやめました。
ところでこの話のカテゴリなのですが、恋愛(現実世界)に登録しています。
ソフィアの残した試練を見つけるという点では、推理的な要素もあります。
千怜や菜乃花の会話、今後出てくる愛菜の絡み方は明らかにコメディタッチなんですが、シュウとクリスは違うんですよね。
異世界が絡んでくるのですが、舞台は日本という状態だと正しい分類がわからなくなってきました。
悩ましいです……。
今月から週二回程度の投稿とさせていただきます。
次回投稿は活動報告にて告知させていただきます。よろしくおねがいします。




