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09

話がうまくまとまらなくて、私にしては珍しく長めの文章になりました。

頑張って読んでください(笑)


 処置中に一旦意識が戻ったものの、怪我と麻酔の影響で眠り続けていた莉緒は事件から3日目の午後になってようやく目覚めた。

 暴行事件の夢でも見たのか時折うなされていたが、親として眠り続ける愛娘に唯一できることといえば、傍らで小さな手を握って祈り続けることぐらいしかなかった。


 その日、奏子と交代で付き添っていた克之は、愛娘の僅かな身動ぎに気づくと心配そうに顔を覗き込んだ。

 莉緒は、自分がどこにいるのか、自分がどんな状況におかれているのか全く理解できていないようで、覚醒しきらない頭は目の焦点は定まらずぼんやりしている。


「おはよう、お姫様。なんだかうなされているようだったけど、気分はどうだい?」


 克之の声に無意識に反応して体を起こしたが、覚醒したことで忘れていた暴行の痛みが甦り思わず呻き声をあげてベッドに倒れこんだ。


「まだ体を起こしてはいけないよ。栄養やお薬の点滴をしているところだからね」


 克之は慌てて制止すると、莉緒を寝かせなおした。

 しばらくすると、ベッドの上の莉緒は呻き声こそしなくなったが、眉間にしわを寄せ呼吸で痛みを逃そうとしていた。娘の苦しむ姿は親として辛いものがあったが、その反面、人として当たり前の痛覚が生きていたことに安堵していた。


「お父さん。私、どうして点滴しているの?」


 ひどくかすれた声で莉緒は尋ねた。

 煙を吸い込み首を絞められたら、喉がやられて声が出ないのは当然のことである。しかし、発した本人はひどく驚き固まった。

 何故点滴しているのか。何故こんな声をしているのか。

 莉緒の目は必死に訴えている。


「莉緒、動くと点滴が外れるだろう? 看護士さんを呼ぶから、そのままおとなしく寝ていなさい」


 無意識に患部に触れて怪我の箇所を確認しようとする莉緒に言い聞かせ、克之は看護士を呼びに行った。




 数分後、山本医師が看護士の和泉を伴ってくると、火傷の状況と視覚・聴覚・痛覚・言語などの簡単な診察を行った。


「木下さん、良かったですね。後で改めて詳細な検査をしますが、心配されていた麻痺や視力の低下など頭部の怪我が原因となりうる後遺症はなさそうです。それに、心配されていた火傷の状況も、処置当時の見立てより軽症だったようで、この様子なら感染症の心配もなさそうですよ」


 診察中は厳しい顔つきでいた山本医師であったが、ひととおり終えると安堵の笑みを浮かべ「もう安心だよ、莉緒ちゃん。よく頑張ったね~」と言って莉緒の髪をなでた。


「それでは、明朝一番で詳細な検査をオーダーしておきますから、検査終了後そのまま一般病棟に入ってもらいますので準備をお願いしますね」


 山本医師は和泉にいくつかの指示を出すと、克之と連れだって別室に移動した。

 そして、警察の事情聴取は3日後の水曜日に決まった。






「警視庁捜査1課から参りました、宮部と申します。女性捜査員が聞き取りした方がよいと判断し、こちらの野村が担当いたします」

「警視庁捜査1課の野村綾乃と申します。よろしくお願いします」


 山本医師立会のもと、一般病棟に移った個室には克之・俊輔・大久保のほか内藤家顧問弁護士が同席し、事件の事情聴取が行われた。

 

「お姫様、今日の体調はいかがかな?」


 ベッドのヘッド部分を起こして横になる莉緒は痛々しい様子であったが、それでも幾分腫れもひき内出血の痕も少しだが薄くなっていた。何よりも、莉緒の眉間にしわがないことにホッとする克之だった。


「まだ痛いけど、だいぶ落ち着いてきた感じ。今日はおまわりさんが来る日だよね?」

「うん、そうだよ。こちらのお姉さんがお話を聞きたいと来てくれたんだよ」


 「え、女のおまわりさんもいるの~?」などと莉緒がはしゃぐ傍らで克之が手招きすると、野村は自己紹介をした。


「莉緒ちゃん、初めまして。私の名前は、野村綾乃。今日はよろしくね」


 普段初対面の相手には人見知りする莉緒であったが、野村の纏うふんわりと柔らかい空気に興味を示したのかジーっと見つめた。

 

「野村綾乃……さん……?」

「うん、綾乃ちゃんと呼んでくれてもいいわよ?」

「じゃぁ、綾乃ちゃん!」


 莉緒はニコッと笑うと親しみ込めて名前を呼んだ。




 野村は、とりとめのない会話で莉緒とある程度親しくなったところで、本題に入った。


「ところで、莉緒ちゃん。金曜日、莉緒ちゃんが怪我をしたあの日に起きたこと、何があったかお姉ちゃんに教えてくれる?」


 それまで元気にお喋りしていた莉緒は、急に大人しくなった。


「お姉ちゃんたちね、莉緒ちゃんにこんなひどい目に遭わせた人を早く捕まえたいの」

「……」


 莉緒は、無言のまま野村から視線を外すように窓の外を眺めた。


「莉緒ちゃんに怪我を負わせたことを償わせたいのはもちろんだけど、このまま野放しにしていると莉緒ちゃんの大事な人にも矛先が向けられちゃう可能性があるの」


 莉緒の肩が揺れた。


「大事な人……」

「そうだよ。お父さんやお母さん……。もしかしたら、莉緒ちゃんのように傷つけられるかもしれない」


 莉緒は、ハッとして涙を浮かべた。


「そんなの、嫌だよ……」

「だからね、思い出せることは全部教えてほしいの。頑張れる?」


 大きな目から零れ落ちそうになる涙をこらえ、思案している。


「莉緒、大丈夫かい? 辛かったら、無理しなくていいんだよ」


 莉緒の目線に合わせてしゃがみ込んだ克之は、そっと莉緒の小さな手を取った。

 父の手のぬくもりに、莉緒は意を決して話し始めた。


「あの日、大兄ちゃんが学校の都合で送り迎えできないって聞いていて、結局一人で登校したの……」






 あの日、大兄ちゃんが学校の都合で私を送り迎えできないって聞いていたので、久しぶりに一人で歩きたくなって勝手に登校しちゃったの。

 そしたら、学校まで半分のところで大兄ちゃんと同じぐらいの大きいお兄さんが「莉緒ちゃん!」て駆け寄ってきたの。


「莉緒ちゃん、おはよう!」

「……」


 知らない人に声を掛けられても無視しなさいって日頃から言われてたから、ガン無視してやったの。そしたら、人の名前を馬鹿みたいに連呼するものだから無視しきれなくなって、言葉を返しちゃった。


「……お兄ちゃん、誰?」


 不審人物を見るように精一杯睨みつけてみたけど、その人には全く効果なし。人懐っこい顔して、自己紹介を始めたわ。


「大和の同級生の保坂です。大和に頼まれて莉緒ちゃんの付添いに来たんだけど、迎えに行ったら莉緒ちゃん家を出た後だったから慌てて走っておいかけてきた」


 保坂という人、ちょっとごめんねと言って、深呼吸して息を整え始めたの。


「私、そんな話は聞いてないよ」

「そうみたいだね。大和、ゼミの説明会で大学が忙しいみたいで、ギリギリまで自分の代わりに動ける人を探してたみたい。僕のところに連絡入ったのも夕べ遅かったっから、当然だと思うよ」


 そう言って笑顔でうんうん頷いていたけど、そのまま無視してズンズン学校に向かったわ。

 そしたら、後ろから「莉緒ちゃ~ん、周りをよく見て歩かないとどんな危険が待ってるかわからないよ~」なんて聞こえてきて、うっかり赤信号を渡ろうとしたのを引き留めてもらわなかったら車にひかれてた。

 びっくりしてドキドキしてたら「ね、危ないでしょ?」と言われたから、ありがとうってお礼を言おうとしたら、なんだかツンとした臭いがしてそこから記憶がないの。






「莉緒ちゃん、その保坂って人の顔、見たのは初めて?」

「うん。大兄ちゃんの同級生って言ってたけど、初めて会った」

「そう……。いつ頃の同級生とか言ってなかった?」

「ううん。ゼミの説明会がどーたらこーたら言ってたから、てっきり今の学校のお友達かと……」


 野村が「保坂」という人物について聞きだすと、宮部は部下に指示を出し大人たちはバタバタと動き出した。大久保も「大和に確認してくる」と言って退室した。


「ありがとね、莉緒ちゃん。それで、その後のことも覚えている範囲で聞かせてもらえるかな?」

「えっとね……

 どれだけ寝てたか全くわからないけど、目が覚めたとき、手足を縛られて冷たいコンクリートの床に転がっていた。なんか、鉄が錆びた感じと真っ黒な油みたいな感じの臭い。プレハブなのか、隙間風がひどくてすごく寒かった。

 ここがどこだろうと思ってなんとか体を起こしたら、女の人の声がして膝の裏を蹴られてひっくり返ったの。その人、きれいでいいとこのお嬢さんて感じの人だったけど、すごく怖かった。ずっと一人でブツブツ言いながら、私の頭を床に叩きつけたりし蹴ったり叩いたりするものだから、すぐに意識が遠のいちゃった」


「莉緒ちゃん、その女の人、ブツブツ言ってた内容って覚えてる?」


 莉緒は、え~っとね~と言いながら一生懸命思い出す。


「全部は覚えてないけど、キーワード?的なことは思い出せる。それでもいい?」

「大丈夫よ。莉緒ちゃん、教えてちょうだい?」


 莉緒は、う~んと考えながら思い出せる限りを口にした。


「隼人くんの許嫁……、騒動が週刊誌に報道……、連日マスコミ……、お父さんに愛人と隠し子……、家族バラバラ……、ガキのくせに色目つかうな……、婚約……、お前さえいなければ……」


 莉緒がひとつひとつキーワードを告げていくと、大人たちの顔色がサッと変わった。

 野村は目配せすると、宮部から3枚の写真を受け取った。


「莉緒ちゃん、この写真の中にその時の女の人いるかな?」


 野村は、宮部から渡された3枚の写真を並べた。

 1枚目は、清楚系美人で売出中の若手女優。

 2枚目は、野村の義妹。

 3枚目は――。


「あ、この3枚目の人だと思う! あ、あの時の『残念なお嬢様』だったんだ~」


 莉緒が選んだのは、篠宮玲子だった。

 ある程度予想していたとはいえ、大人たちに衝撃が走った。

 しかし、この後発せられた言葉により大人たちは凍りついた。


「ところで、『隼人くん』て誰? 莉緒の知ってるひと?」

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