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00057PHTPK「真実の愛の行方(二)」

 津秋には、赤のソファーに座ってもらった。

 俺はベッドの上に座り、絵を描くのに必要な道具を用意する。


 ベッドの方が、ソファーよりも高い位置にあるから、

 これは少しだけ津秋を見下ろす形になる。


 可愛いものを可愛くうつすには、

 上から下に見下ろした方が良いと考えた。


 子どもが可愛く見えるのも、

 それと同じ原理が働いてるからかもしれない。

 見下ろすことで、可愛さが何割か増幅されるってわけだ。


「動かないでね」

 と言って、俺はさっそく津秋の似顔絵を描き始めた。


 描き始める前までは口がカラカラになるほど緊張していたのに、

 いざ描き始めてしまうと、すぐにその緊張は薄れていった。


 絵を描いてるときは、本当に真剣な気持ちになれる。


 今までで一番出来の良いものを描こう。

 集中しよう、と思っていた。


 対象物(モチーフ)を見て、絵を見て、と、

 目を行ったり来たりさせながら、黙って、黙々と描き続けた。


 津秋は、途中笑いをこらえたり、

 「ごめん」とか言って、顔を触ったりしていた。

 けど、それも次第になくなった。


 俺の雰囲気に飲まれたからかもしれない。



 時間をかけて、

 やっと描き終えた頃には、自分が思っていたよりもずっと時間が進んでいた。


「描けたよ」

 と言うと、同じ姿勢をし続けて疲れたのか、津秋は伸びをしたり首を動かしたりする。


 そして俺が絵を渡そうとしても受け取ろうとせず、

 そのかわりに俺の横に座って、「見せて」と、隣から絵をのぞき込んできた。


「おぉ~」

 と、声を上げてから、津秋は俺の目を見て

「上手いね」

 と、笑って答えた。


「素材が良かったからかな」


「それ、本気?」


「本気だよ」


 胸元から胸の谷間が覗いて見える。

 津秋は上目遣いで俺のことを見つめてきていた。


 ごくりと唾を飲み込む。

 

 俺は勉強机の方に目をそらして、声を落ち着けて言った。

「でもあそこに、これを飾ると、

 自分の顔に毎日見られるみたいな感じになるな」


「あー、確かに。どうしよう」


「この部屋に合う、もっと別なの描いてこようか」


 津秋の顔が近くに感じられて、

 勉強机の方からすぐに振り返れなかった。


「ねえ」

 と、津秋が、俺の腕を触ってきた。

 ゆっくり目を戻すと、津秋は思いがけない提案をしてきた。

「今度で良いから、全身も描いてくれない?」


「全身?」


「そう。一回だけで良いから、ダメかな?

 一回、そういうのもやってみたいんだよね」


 そういうの?

 って、それどういう意味だ? と思ってから、俺は次第にその言葉の意味がつかめてきた。

 津秋は、自分のヌードを……描いてくれと言っているのだ。

 もちろん、自分の裸を描いてくれなんて、クラスメイトに気軽に頼むようなことではない。

 それでも、俺はまず間違いないと確信することができた。

 この雰囲気、この距離感、そしてこの上目遣い。

 全てがメスの求愛行動を物語っている……。


 俺は覚悟を決めて、まっすぐに津秋の目を見つめた。


 現世で襲ってはダメだと思っていた。

 だから生殺しも覚悟していた。


 しかし、どうやらこれは違うらしい。


 間近でじっと見つめていても、津秋は逃げなかった。

 ゆっくりと顔を近づけても逃げない。

 手を肩に回しても、逃げなかった。


 津秋が目を閉じて、そして静かに、燃えるサウナのような二人だけの世界へと入っていった。

 影世よりも恥じらい多く、また新鮮に感じられる。



 短くて長い、一通りの時間が過ぎて、体を休めていると、

 津秋は「やっぱ痩せなきゃ」とか言って笑っていた。


 俺は「そのままで良いよ」と返した。

 この状況で「痩せなきゃ」とか言うのは、きっと不安の裏返しに違いないから。


 「そろそろ弟が帰ってくるかも」と言うのに慌てて、

 俺が急いでパンツとズボンを履こうとしたら、

 笑ってきて、尚も、じゃれようとしてくる。


 俺が怒っても、お構いなしだった。

 見かけによらない、とんだ甘えたがりだ。


「帰るよ。じゃあ、また、学校で」


「うん、気をつけて」


 なんとなく早くその場から立ち去らねばならぬ気がして、

 俺はそそくさとマンションを後にした。

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