00052TBK「偽りのアリバイ証言(一)」
翌日の火曜日。
この日は天気がぐずついていて、
傘を持って学校に向かうことになった。
家を出る前に新聞をチェックすると、大月の名前は隅の方に載っていた。
死因は飛び降りで、自殺だと断定されている。
もちろんこの報道は嘘だ。
俺が殺したのだから自殺ではないし、
それに警察についても、他殺の可能性があると見て捜査をしているようだ。
捜査継続ならば、
俺や津秋にしたように、周囲への聞き込みを続けていくに違いない。
俺がいじめられてたことは仕方ないとして、
琥太朗が下手なことを言わないかが心配だ。
あの夜は顔が真っ青で、琥太朗には心配を掛けたからだ。
約束の時間にだってかなり遅れた。
その前にはライフル銃を借りて、3発も弾を使ってる。
怪しまない方が、おかしい。
おかしいんだけど、
口裏合わせなんてできない。
大月の突然の死を知って、あいつが何を思うのか。
どう感じるのかを、知っておきたい。
知っておけば対策も練れる。
最悪は……
いや、考えないでおこう。
友達には手を下さない。
そんなことしなくても、俺はシロだ。
それは、絶対ありえない選択肢の一つだ。
学校では、
朝に早々と大月の死が伝えられた。
死因など深いことには触れられてない。
それだけにクラスは動揺した。
場を茶化そうという雰囲気も出ない。
川辺は口をあんぐり開けて、
崎本も落ち着き無く、キョロキョロと首を動かしている。
ほとんどの生徒が、この二人のどちらかと似たような反応を示した。
身近な者が死んでしまい、
みんな、どうしたら良いのかわからないのだ。
津秋は目を伏せて先生の話をじっと聞いていた。
琥太朗は……
琥太朗は一人、教室の外を見つめていた。
話を聞いてるのか聞いてないのかわからない。
いや、……恐らくは、聞いてる。
聞いているけれど、何か考えごとをしてるんだ。
きっと、俺のことも。
あの夜のことを。間違いなく思い出している。
放課後、
俺は初めて教室の中で琥太朗に声を掛けた。
荷物をリュックに入れてる琥太朗。
それを前に、「今日一緒に帰らない?」と聞いた。
少しでも早く、知りたかった。
雨がパラパラと降っていた。
傘を開いて二人で並んで歩いた。
何て聞けば良いのかわからない。
聞き方がおかしいと変に思われる。
学校を出ても迷ってると、琥太朗の方から話しかけてきた。
「今日は先に数学する? 英語?」
勉強のことだ。
大月のことは、話さないつもりか?
「うーん、数学が先かなぁ」
「英語のリスニングCD買ってみたんだ。英語はそれ使おうぜ」
「リスニングCD?」
「うん、なんか凄そうなの。聞いてるだけで良いとかいう」
「なんだそりゃ?」
「まぁ発音練習もするけどさ。
純一も訛ってるだろう? 一緒にしようぜ」
クラスメイトが死んだと聞かされた同じ日に、最初の会話が勉強のことだった。
これって普通のことなのだろうか……?
すると、通りかかる家から小さな男の子が飛び出してきた。
なんとなく立ち止まってその様子を見る。
男の子は玄関のドアを開けたまま、
家の方に向かって大声を上げる。
「お母さん、雨降ってるよ」
母親が出てくる。
「あら、本当」
「ねえ、雨強くなるかな?」
「そうね。傘を持っていきなさい。
あ、カッパの方がいいわね。ちょっと待ってなさい」
そう言って母親は家の中に急いで戻っていく。
少年は家の外で親が戻ってくるのをじっと待っている。
母親が再び出てくると、男の子は更に
「ねえ、これ今もう着たほうがいいの?」
とたずねていた。
こんな調子の微笑ましいやり取りをして、
子どもはカッパを着て出かけて行った。
子どもはすくすく育つのが一番だ。
見ているだけで、何だか元気がもらえる気がする。
しかし琥太朗は違うことを感じたみたいで、
「あの子は可哀想だな」
とか言っていた。




