00004CJ「飛び降り(一)」
寝坊した。
時計を見てガバっと起きる。
実は無遅刻無欠席だったのだ。
記録は間違いなく断たれたろう。
なんだか、悔しい。
だがこうなりゃ何分遅れようと一緒だ。
何回遅れようと何日休もうと大差ない。
ここまで来たらとことん破ってやる。
クソなルールを作った方が悪いんだ。
俺は悪くない。
机の上に、スケッチが重なってる。
「何だよこれ……」
自殺の方法とか、人の殺し方とか。
何だか気味が悪い。
でも俺が描いたみたいだ。
今まで描いた中で一番魅力的に見える。
何やら惹きつける魔力がある。
俺は制服に着替えて、もう一度スケッチを見た。
さっとカバンの中に入れる。
スケッチの隣にあった黒い本は重そうだから入れない。
急いで部屋から出て、朝ご飯を食べる。
母さんの小言を聞き流して、
学校へと向かった。
その日のいじめは今までで一番酷かった。
少しでも違ったことすると、こういうことされる。
だから遅刻もしたくなかった。
クソが……。
俺の机も椅子も、教室から無くなっていた。
座る席がない。
ニヤニヤする川辺と大月。
取り巻きの有吉もヘラヘラしてて、マジでムカつく。
先生も先生だ。
「おいお前ら。木場の机どこやったんだ~?」
と、笑いながら言うんだからな。
生徒が生徒なら、先生も先生だった。
こいつの頭の中では、俺と大月や川辺がじゃれ合ってるように見えてるんだろう。
マジでFUCKだ。
机を窓の外にブン投げて遊ぶ馬鹿なんているかっての。
何故か俺は自分で机と椅子を回収させられた。
俺が弁償しないといけないらしい。
近くに体操着とか、俺の荷物が散らばってる。
教室の方から視線を感じた。
窓から見られてるんだ。
恥ずかしい。
体操着にも落書きがされていた。
だんだん、泣きたくなってきていた。
ずっと我慢してたけど、もう耐えられそうにない。
こんなことされたら、もう着れないじゃんか……。
ふと、机の中に黒い本が入ってることに気がついた。
手を中に入れて取り出すと、
それはジョーカーの日記だった。
これは、家に置いてきたはずだ。
それなのに、どうして……?
どこからか、強い視線を感じる。
恐る恐る見上げたら、
学校の窓に生徒たちが身を乗り出していた。
俺は急いで片付けて、学校の中に戻った。
どこか一人になれる場所を探す。
授業が終わると、どこも人が来るからダメだ。
トイレは? 臭いから、ヤだ。
図書室と保健室は?
司書の先生や保健の先生がいる。
出来るだけ一人がいい。
気づいたら俺は屋上に足を運んでいた。
鍵はかかってなかった。
自分でこの場所を選んだつもりだ。
だけど、本当にそうかはわからない。
フェンスが一箇所だけ、破られてる。
人が転落しないよう張り巡らされてるはずなのに。
不自然に、一箇所だけ。
俺はそこに近づいてみた。
爪で大きく引き裂いたような感じだ。
人がやったとは思えない。
物や機械を使っても、こんな感じにはならない。
引き裂かれたフェンスの間から顔を覗かせる。
下は障害物の何もないコンクリートだった。
この場所なら、確実に死ねそうだ……。