↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/64

00040RCJHTCK「完全犯罪(四)」

 俺は片手で大月の体を押し返すと、

 体を浮かせ、もう一方の手で大型ナイフを取り出した。


 大月めがけて斬りつける。


 上手く決まったようだ。

 大月は悲鳴を上げて、バッと俺から離れた。

 この世の終わりのような絶叫。牢屋の中に鳴り響いた。


 大月は股間を両手で抑え、涙目になっている。

 両手の隙間からボタボタと垂れる黒い水。

 顔中の筋肉を強張(こわば)らせ必死に痛みに耐えているようだった。


「なんで、なんでッ……!」

 と、叫ぶ大月。


 「うあぁぁーッ」と、泣きながら俺のことをポカポカと殴ってくる。

 ナイフを取られる、と思って、俺は檻の外にナイフをサッと投げ捨てた。


「つ、あき……。俺、信じてたのにッ」


 泣きじゃくる大月を押し返す。

 ポケットに手を入れて、小型のナイフを取り出した。


 大月の体に突き刺して、更に強く押し返す。


 大月は両手で顔を押さえながら、

 後ずさりする。


 その隙に俺は鉄格子の近くまで離れた。

 大月は既に体からナイフを引き抜いていた。


 しかし痛みに耐えかね、

 体をひねり、体中をかきむしっている。


 痛みで痛みを落とそうとしているんだ。


 気でも狂ったかのように発狂する大月。

 暴れ回って鎖をブンブン振り回していた。


 そのとき背後から声が。

「もう、いい。早く殺せ!」

 ジョーカーだった。


 ライフル銃を手にして、俺に差し出してくる。

 俺はそれを受け取ると、大月に銃口を向けた。


 大月が動き回るから狙いが定まらない。

 手も震える。


「撃て!」

 ジョーカーの声に合わせて、引き金を引く。

 しかし当たらなかった。

 弾丸が壁に弾かれる音が聞こえる。


 二発目の準備に手間取る。

 やっと目線を戻したときになって、俺は自分の目を疑った。

 大月の体が変化してきているような。

 ……そんな気がしたんだ。

 見間違いか、と目を凝らす。いや、……見間違いではない。

 体格が徐々に大きく。体毛が濃く。

 衣服が破れ、大月の体が巨大化していっていた。

 な、なんだ、なんだ?

 何が起こっているんだ。

 大月の体はどんどん大きくなって、あっという間に2メートルは超えた。

 これは、まるで化け物。いや、……狼男?

 どういうことだ。こんなことは聞いていない。

 俺は振り向いてジョーカーを見た。


 ジョーカーが声を抑えて言う。

「純一。どうやら大月の精神が暴走しだしたようだ。

 変身前に殺らないと、殺されるぞ」


 お前はいったい、何を言っているんだ……。


 大月の目は赤く充血している。

 手枷が弾ける音が聞こえた。

 圧に耐え切れず吹き飛んだんだ。

 足枷の方は、まだ大丈夫のようだ。


 蒸気とともに大月の成長が止まる。

 うなるような声で大月は言った。

「その男は、……誰だ?」


 ジョーカーのことか?


 大月は続けて、

「そうか、……そいつか」

 何かに納得したようだった。


 ジョーカーは言う。

「純一。大月のMPは1300と言ったはずだが、

 1300を越えてくれば、こんな風になることもある」


 なるほど。1300越えであれば精神が暴走して、狼男に変身することもあると。

「それは貴重な情報だな。知らなかったよジョーカー」


「隠してたわけじゃない。大月はレアケースだ」


 それより、――

「殺し方は?」


「……頭を狙え」


 ガンッガンッという音が鳴る。

 何かと思って見ると、大月が自分の足枷を破壊しようとしていた。

 拳一つで、鎖を砕こうとしてやがるんだ。

 常人では考えられない。


「大月は弱ってる。

 あと一撃だ。純一、ライフルを」


 俺はライフルを構え、大月を狙った。

 だが、大月は既に鎖を壊すのをやめている。

 ジョーカーの方を睨み、ライフルを構える俺に気がついた。


「津秋、……お前、そこで何してる?」

 それは怒りのこもった大月の声だった。

 立ち上がり、のしのしと近づいてくる大月。

 右腕を前にして、

「やめろ。……撃つな」

 と言ってくる。


 だがすぐに、

「撃て!」

 ジョーカーが言葉を被せた。


 大月は言う。

「お前はそいつに騙されているんだ。

 正気に戻れ津秋。何故そこまでする必要がある」


 俺は大月とジョーカーを見比べた。


「純一。大月の戯言を聞いてはだめだ。殺せ」


「まッおい、――津秋!」


「…………殺せ」


 待てという大月、――殺せというジョーカー。

 どちらを信じるのか?

 そんなものは最初から決まっていた。

 俺は津秋じゃない。木場純一だ!


 大月が飛びかかってきた。

 そのとき俺は引き金を引く。

 銃声が鳴り響き、弾丸は大月の体を貫いた。

 だが急所を外した。

 大月は勢いに任せて俺の肩を掴んだ。

 爪が食い込む。

 叫び上げそうになるのを歯を食いしばって我慢した。


 ……クソ痛い。

 ずるずると腕にかけて大月の爪が走る。

 大月は崩れ込むようにして前のめりになった。

 体力を消耗したのか。

 大月は膝をついて狼男から人間の姿に戻っていた。



 肩で息をしながら俺は大月から離れる。

 自分の左腕を確認すると、深い傷跡がそこに残っていた。

 大月は固まって、酷い顔をして俺を見返している。

 大量の血が足もとで水たまりを作っていた。


 俺は再び、ゆっくりとライフルを構える。


 大月は首を横に振っている。

「頼む……。やめて。やめてくれ……津秋」


「撃て」

 と、ジョーカーの声。

 引き金を引く。

 しかしまた狙いがずれた。

 足に当たったか。

 左手が痛くて狙いが定まらなかった。


 持ち手のライフル銃を下げると、

「まだ死んでない」

 と、ジョーカーが言う。

 ジョーカーは腕を組んでじっと大月のことを見ていた。


「撃て」


 さっと構えた。


「純一、……もっと上だよ。狙うのは、頭だ」


 銃口を少しずつ上にずらす。


 大月の顔に照準が定まった。

 それは苦悶に満ちた表情だった。

 あまり見ていたくはない。

 大月はなおも命乞いをしてきている。


 だが聞かない。何も聞いてはだめだ。

 こいつは下等動物。

 こいつは、殺さないといけないんだから。

 しくじることは、許されない。

 そうだ。殺さないと、いけないんだ。


 そして俺は引き金を引き、……大月を射殺した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。