00039CJT「完全犯罪(三)」
一番奥の牢屋に、大月はいた。
以前見た時は健康そうな体つきをしていた。
鬼でも蛇でも、何でもかかってこいという感じだ。
比較的新しめの冒険者の服で、
将来に対する明るさを象徴しているかのような格好だった。
しかし、
しかしそれが、今では見る影もない。
冒険者の服はズタボロで、
破れた衣服の間からアザが見える。
頬はこけ、げっそりとして、
大月は、うなだれ、檻の中で崩れるように座っていたんだ。
両手両足を鎖で拘束されているのか。
長めの鎖で、檻の中くらいは自由に動けそうだ。
だが逃げることを諦めたかのように動く気配を見せない。
体中傷だらけだ。
もしかしてこれ、……ジョーカーがやったのか?
振り向いて見ても、ジョーカーは何も言わず黙っている。
檻の中の大月に視線を戻すと、
大月は顔を上げて俺のことを見つめていた。
「つ、津秋か……?」
大月の声は不安げで、か細い。
だが違う。俺は純一だ。
牢屋の中の暗さも助けて、変装は上手くいってるみたいだ。
「ええ。私、……だけど大月、大丈夫?」
予想していた状況と、あまりに違った。
緊張に声が少し震えてしまう。
身体は本物そのままなのだから、
声はある程度似せたら、それでいいはずだった。
「本当に津秋か……?」
大月は鎖の音を鳴らしながら、鉄格子の前に近づいてくる。
しかし鎖の長さが足りない。
途中で鎖がピンと張り、立ち止まった。
「津秋。お前、……俺のことを許してくれるのか」
と、大月。
……許す? 許すって?
「ええ。私はあなたを助けに来たの」
大月は顔も酷い有り様だ。
俺がやる前に、ジョーカーから相当傷めつけられたらしい。
「川辺は? 川辺は近くにいないか?」
川辺? ……どうして?
「いないけど?」
「良かった。
あいつは、……ダメだ。あいつは化け物だったんだ。
俺のことを今まで恨んでたって。
突然襲ってきて、俺のことを殺すんだって」
怯えた調子で言う大月。
そうか。それもジョーカーか。
ジョーカーは川辺に変装し、大月を捕まえたんだ。
ライフルを鉄格子に立てかけると、
俺は小鍵で牢屋の扉を開けた。
「もう大丈夫よ。もう、大丈夫」
「津秋。俺にはお前しかいない。
どうか見捨てないでくれ。全部、……全部謝るから」
今更、何を謝ると言うのだろうか。
「謝らなくても良いよ」
今更謝ってももう……手遅れだ。
すぐ近くまで寄ると、大月が俺のことを抱きしめてきた。
しくしくと泣いている。
よほど怖い思いをしたにちがいない。
しかし何だかとても腹が立つ。
やる側のとき、やられる側のことを全く考えてなかったくせに。
追い詰められてから「許してほしい」、だって?
「鎖も外せるか?」
と、大月。
俺は首を横に振った。
実際、ジョーカーから貰ったのは牢の鍵だけだ。
大月はがっくりとなる。
「殺される……殺される……」
恐怖に体をガクガク震わせていた。
すると、大月は
「津秋、離れないでくれ。一緒にいてくれ」
俺の体を掴むと、俺のことを押し倒してきた。
突然のことに驚いて俺は大月の下敷きになる。
「怖い。怖いんだ。……一人で死ぬのは、嫌だ……」
顔に大月の息がかかってくる。
こいつ、なんて野郎だ。
自分の体を俺の体に押し付けてきていた。
これって、いや……まさか……。
あっ、お。おい、やめろッ!
この変態!




