00030JBTK「借り物のライフル(六)」
ジョーカーの助けを借りて、ライフルをなんとか再現。
一丁コピー出来れば、後は複製でどうともなる。
ジョーカーと別れた後も、コピーのライフルで少しだけ試し撃ちをした。
オリジナルのライフルと遜色ない。
上出来だ。上手くコピーできている。
現世に戻ると、随分遅くなっていた。
月明かりが綺麗で、あと数日で満月になりそうだった。
スマホをチェックして、放課後すぐにメールが届いていたことに気がつく。
琥太朗が、家に来るのは何時くらいになるかと、聞いてきていたんだ。
……マズイ。
かなり長い時間放置していた、と思ってすぐに返事を返す。
「ごめん、今からすぐに行く」
今何時だ。もう21時を過ぎてるじゃないか。
影世に長居しすぎた。
ライフルのバッグを持って、走って向かった。
琥太朗の家は近いから、全速力だと本当にすぐに着く。
屋敷の呼び鈴を鳴らすと、やや間があって琥太朗が出てくる。
こんな時間でもまだ着替えていなかった。
スクールシャツに、学生ズボンの姿だ。
ウチの学校では、学生服のベルトは自由にしていいことになっていた。
大月とか川辺も、自分達の好きなように、いかにもな感じのベルトをつけていて、
俺は入学した時に買ったスクールベルトをしていた。まぁ普通のやつだ。
だが琥太朗のベルトは学校指定のじゃない。シンプルだけど、格好いいのをつけている。
俺は両膝に手をつけ、ぜいぜい肩で息をしながらそんなことを考えていた。
「遅れてごめん、ありがとう」
急いで来たことがわかるように、少しだけ演技込みだった。
額の汗を拭いながらライフルのバッグを下ろす。
そのままライフルを手渡すと、「まぁ入れよ」と、家に招かれた。
やはり、予想していた通りだった。
部屋に入ると、琥太朗はすぐにライフルを点検しだしたんだ。
なんだかドキドキした。
琥太朗が実弾の入ったケースを手にしたとき、あ、これはバレるな、と思った。
琥太朗のやつ、まるで俺を信じていなかったみたいだ。
本当に実弾の数をチェックしはじめる。
一つずつ丁寧に弾の数を数えて、もう一度、一から数え直す。
何度数え直しても、3発の実弾が減ってることに変わりはない。
琥太朗は目線を上げると、
「もしかして撃った?」
と、聞いてきた。
「ごめん。つい、つい……」
「つい、つい、で、……3発も?」
「うん」
琥太朗は大きくため息をついた。
「3発も……何を撃ったんだよ?」
「いや、何も。何も撃ってないよ。ただ、撃ってみたかっただけなんだ」
「約束したのにさ。……絶対撃つなって」
「ごめん」
琥太朗の顔を見て、俺は少し悲しくなった。
こんな悲しそうな顔をされるとは思っていなかった。
どうやって誤魔化そう、とか、適当に誤魔化せばいい、とか、そんなことばかり考えていた。
怒ってこられるよりも、こちらの方がよほどこたえる。
黙り込んだ琥太朗を前に俺は、「これはジョーカーのせいに違いない」と思って、
心の中でジョーカーのことをなじっていた。
けど、
「まぁ良いや。で、どんな感じだった」
と琥太朗が口を開く。
「え?」
「撃ったんだろ?
教えろよ。どんな感じだったか。俺は、一回も撃ったことないんだぞ」
ニヤリと笑う琥太朗。俺の体を、小突いてきた。
もしかしてこれ、……もう、許してくれたのか。
「済んでしまったことを責めたり後悔させても仕方がない」と言われて、
毎日じゃなくて良いから隔日で勉強しよう、という約束を提案された。
もちろん俺は二つ返事でオーケーする。
隔日なら、そんな負担にもならない。
まずは明日からだ。
家に帰ってすぐに寝て、金曜日がやって来る。
いつものように学校へと向かった。
琥太朗は休みだった。
病気がちなのは知っていたから、これは別に珍しくない。
珍しいのは、大月も休みだったことだ。
大月が休むのは、ひょっとして初めてのことかもしれない。
平穏な一日が過ぎる。
大月が居ないだけで全然違った。
この日は、津秋とも少し目が合った。
話しかけたいが、もう少し勇気がでない。
放課後、影世に行こうと思った。
大月を殺るのは明後日だから準備がいる。
だが、約束をまたすぐ破るわけにはいかない。
昨日した約束を今日破るのは流石に、できない。
それに、ライフルはすぐ許してくれたけど、
会う約束をすっぽかすのだけは、しちゃいけない気がする。
八百屋さんで果物を買って、俺は琥太朗の見舞いに行くことにした。