00013HJ「ジョーカーとの約束(一)」
家の中を歩き回って、家具を手に取っては調べ、手に取っては調べを、繰り返した。
殺人道具として使えるかどうかのチェックだ。
どう殺そうかと考えても、なかなか良い考えが思い浮かばない。
包丁を持って振る。
感じをよく覚えておく。
刺すだけじゃきっと味気ない。
学校では、大月のことをよく観察することにした。
あいつが嫌がることが良い。
何が嫌いだろう。
動物? 虫?
うえっ。
動物はともかく、虫は俺が嫌だ。
もっとわかりやすいのが良い。
驚かせて、なるたけ嫌な思いをさせたい。
……あれ?
影世の大月も、現世の大月と同じ好みなのか?
わからない。
はっきりしてるのは……
どっちの大月も、津秋が好き。
津秋……。
津秋のことを見てたら、またいじめられた。
睨んで、またぶたれる。
……クソが。
月曜の学校は、大月と津秋を交互に見て過ぎた。
俺は放課後すぐ屋上からジャンプする。
ジョーカーには言ってない。
思いつきだ。
平日の放課後も影世で能力の練習がしたい。
工場見学はまた今度でも、構わない。
デュースはいなかった。
デュースはたまに散歩に出てる。
しかし、ジョーカーもいなかった。
二人同時にいないのは珍しい。
俺は洞窟の外に出て練習に取り掛かった。
包丁をイメージし、作る。
形は簡単にできる。
材質が難しい。
ふと、固くするのはやめて、やわらかくしてみた。
思い切り、やわらかく。
すると今度は簡単にうまく行った。
イメージしやすいからかもしれない。
固いのはイメージしにくい。
けどやわらかいのは楽。
グニャリと溶かすだけだから。
疲れて風呂に入ろうと思ったら、
先客がいた。
煙が湧いてる。
たぶん、……ジョーカーだ。
ちょっと悪戯心が湧いてきた。
狐の面の下が見てみたい。
いつも警戒してるけれど、今日俺がいるとは思っていない。
油断してるかもしれない。
果たしてそうだった。
脱衣場に黒衣と狐の面。
今ジョーカーは面をつけてない。
素顔だ。
ジョーカーが湯船に浸かってるのを確認。
気づかれないように回り込む。
驚かして、振り向いたところで素顔を見る。
完璧な作戦だった。
ジョーカーの正体、
――仮面の下は、どんな顔をしてるんだろう?
そろりそろりと近づいて、
いよいよとなったとき、
俺が驚かす前にジョーカーが振り向いた。
しかし驚いたのは俺の方。
びっくりして腰を抜かした。
なぜって、顔の上に顔がなかったから。
ジョーカーはのっぺらぼうだったんだ。
ジョーカーは立ち上がると、
ケラケラ腹抱えて笑う。
俺はぞっと凍りついて激しく後悔した。
やめとけば良かった。
怖い。
人間じゃなかったのか。
「純一、甘いよ。バレバレ!」
ジョーカーは嬉しそうに笑っていた。