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第260話:個人主義

Q:なぜ前回のお話を書いた? 言え!

A:エリラとのイチャラブシーンを書きたい衝動に駆られたんや! エリラのおっぱいが育っていることを言いたかったんや(ベキッ)

 それは余りに急な出来事だった。

 魔領の北部に位置するとある小さな村にて、その事件は発生した。


==========

「ムズラム様。北の方より不審な知らせが」


 魔領北部治安維持部隊の隊長を務めるムズラムは、いつも通り業務を遂行していると一兵士より声をかけられた。

 北部治安維持という言葉が見える通り、この部隊は魔領を四つの区域に分けたうちの北部にて、領土内の治安を維持する目的で作られた部隊である。

 個人主義が強い魔族は基本的に力と力の勝負で物事を決めることが多い。だが、それが許されるのは戦う両者の同意があった上でのことであり、一方的な暴力は犯罪と見なされ逮捕される。もっとも、両者の同意が無い戦いは建国前からのタブー行為であり、蹂躙を良しとする魔族は少ない(あくまで同種族間のみ。人間など他の種族には外道上等の一切合切容赦しないスタイルである)

 だが、それでも稀に問題を起こす者はいるもので、そういった輩を取り締まるという意味でこの治安維持部隊は結成された。勿論、窃盗などの普通の犯罪行為も取り締まる。

 そんな背景があるため、部隊に加入出来る者は実力を認められた者のみであり、その認められた者たちのトップともなれば、魔族であるならば誰もが憧れるような地位である。断じて、地方への左遷などではないことは前もって言っておこう。

 北部部隊の隊長ムズラムがこの部隊の隊長に就いたのは数年前のことで、当時の部隊長が「俺に一騎打ちで勝てば隊長の座を譲ってやろう」と言い出したときに唯一勝つことが出来た人物である。

 それで本当に譲ったの!? と思うかもしれないが、本当に譲ったのである。ちなみに、そのときの隊長は後日負けた事を恥として軍を退職した(現在は行方不明。どこか辺境の地で密かに修行をしていると噂されている)。そんな隊長の一個人の考えや約束で譲っていいのかよ! とツッコミを入れたくなるかもしれないが、良いのである。もっとも、それも魔王の許可が必要であるが。

 そんな経緯で隊長になった彼であるが、仕事は至って真面目にこなすので部下からの信頼も厚い。全身が紫色で、そこに黒の模様が描かれている皮膚が特徴的で顔の形も整っているため同種族の女性からも非常に人気が高いく、強くてカッコよくて仕事も出来る三拍子揃った人物である。


「なんだ?」


 執務室で作業を進めていたムズラムはペンを止め兵士へと視線を移した。執務室といってもドアは無く外から誰でも様子を伺えることが出来る部屋で、プライバシーなどは存在しない。そんなものは執務には必要ないとムズラムが自ら撤去したのである。こうすることで常にだれかに見られる格好となり、下手な態度は取れないと気を引き締めることが出来るのだとか、なお、この行動によりムズラムの周りの評価がさらに上がったのは言うまでもないだろう。ちなみに、なんらかの会議や会談を行う際の部屋は前もって別室を用意してあり、そこは扉もあり外部から見ることは不可能となっている。


「最近、最北端の村が次々と壊滅させられているとのこと。現在、付近の駐留部隊が確認できただけでも3つ。ここ1~2日以内で滅ぼされたと推定されており、生存者は今のところ発見出来ていないとのことです」


「村が壊滅……それに3つも? 目撃情報は?」


「そ、それが現状全くないとのことです。もともと壊滅した3つの村は辺境の辺境にあり、周囲へ近づくのは商人が僅かばかりとのことで、同士(魔族のこと)の動きも少ないとのことです」


「その村に滞在していた兵士は? まさか辺境だから居ませんでした。などはあるまい」


「も、勿論です。各村には2~3人の同族が警備を行うために常に滞在をしています。しかし、彼らの行方も分かっていないとのことです」


「行方不明……どういうことだ? 壊滅したということは死体ぐらいあろう?」


「……それが……報告によると建物自体は破壊されていたものの、住んでいたであろう同士の死体どころか血痕すらも見つかっていないとのことです」


「血痕もか? それは妙だな……他に報告は?」


「はい、現状報告出来る事は以上です。あとは随時状況が分かり次第伝えるとのことです」


「ふむ……分かった。では、このことをすぐに魔王様に伝えろ。それから私も現地に赴こう。準備をさせろ。付いてくるのは数人で構わん」


「す、数人でよろしいのですか? あ、あまりに情報がない以上せめて100名ほどは用意をした方がよろしいのでは?」


「いや、村が2日ほどで3つも消えたとなれば、急がねば近隣にも被害が広がる恐れがある。それに兵士が何の抵抗もなく消されたとなれば、事態は深刻だ。早急に原因を突き止め場合によっては魔王様に援軍を要請せねばならまい」


「え、援軍ですか!? そ、そのような不名誉なことを―――」


「馬鹿を申すな! これ以上被害が広がれば、不名誉では済まされぬぞ!! ただえさえ人間への介入に失敗し多くの物資と兵士を失っている現状、これ以上生産性や人口の低下を招いている余裕などは無いはずだ!」


 個人主義の魔族では援軍は不名誉なこと。これは今までの話を見れば何となく理解できるであろう。他人の力を借りず個々の力で物事を解決することが魔族の基本的な考えであり、建国に至った根本的な原因であるのだから。

 だが、ムズラムはそれをいとも簡単に否定をした。彼は自分の名誉より国としての損得を優先したのだ。この面だけ見れば彼は魔族の中でも浮いた存在に見えるかもしれない。実際に、考え自体は魔族の基本理念と真反対のことを言っているのだから間違えではない。 だが、所詮それが通じたのは、魔族が辺境に追いつめられたときよりも遥か前の出来事である。もはや、国家と言う一単位で考えたとき、その考えが危険であることは魔族の間でも周知の事実である。

 それでも、その考えを実際に前に出す者は極僅かであるのもまた事実である。国家がそうしないといけないだけであり、一般庶民には殆ど関りが無い話だからだ。そのため未だに援軍を不名誉とする魔族は多い……いや、大多数と考えて問題ないであろう。

 そう考えてみるとムズラムの考えは、魔族の中でも革新的な考えであったであろう。


「気持ちは分かるが、今優先すべきことは富国であることは間違いない。それを一人の魔族の気持ちだけで妨げることなど私は断じて許さぬ。もし、異見を言うのであれば今すぐここで私と戦い、実力で止めて見せよ!」


 だが、結局彼も魔族の一人であることであり、個人主義を持つことには変わりがない。

では、彼の行動基準はどこにあるのか? それは、この国に持つ愛国心であるかもしれないし、魔王に悪影響を与えたくない彼の魔王に対する忠誠心がそうさせているのかもしれない。


「……いえ、ムズラム様が申されるのであれば、私がこれ以上言うことはありません。では、指示通り魔王様にこのことを伝え、すぐに出発の準備に取り掛かります」


 当然、一兵士が隊長に勝てるはずもない。それを兵士自身も理解していたのですぐに折れ、命令を再度確認したのちその場を後にした。もちろん兵士の心の中は不満で一杯であるが、実力主義の魔族では力で勝てなければ従うしかないのだ。

 結局、ムズラムはその日のうちに自らの拠点を出発し、僅か数名の部下とともに報告があった、魔領北部の中でも辺境に位置する現場へと急ぐのであった。


==========

「クロウ殿。完成しましたぞ」


 そう言いながら瞼にどす黒いという表現では済まされないレベルの黒い膜を浮かべたアーキルドが俺のもとに報告に来たのは、その日も残り半分を切った昼過ぎのことであった。


「ああ、ありがとう……ところで、眠くないのか?」


「眠い! 今すぐぶっ倒れたいぐらいじゃ!」


 そりゃそうだ。なんせ、3ヵ月間ぶっ続けというブラック企業も裸足で逃げ出すような仕事内容だったしな。

 改めて言うが、俺は休めと再三言ったのだぞ? でも、その度に「ワシに死ねと申すのかぁ!」とか意味不明な供述をしてやめることはなかったのだ。アーキルド……お前建築をやめたら死ぬのか? マグロか? 息をするために泳ぎ続けねばならないマグロと同類か?


「まあ、とにかくご苦労さん。建物の説明は後日でいいから今は休んでくれ」


 つーか、休め。これ以上は俺の方が見ていられないから。


「了解じゃ……ああ、一つお願いなのじゃが」


「ん?」


「建築依頼が来たらすぐ起こすのじゃ!」


「さっさと寝やがれこの社畜がぁぁぁぁぁぁぁ!」


 こうして、俺はアーキルドを無理やり元の次元に帰すのであった。いや、帰れマジで。

 ……にしても、早くねぇか? まだ、約束の期限まで2週間ほどあるはずなのだが……? そう思った俺はなんとなく、アーキルドのステータスを確認してみた。

 説明すると俺の召喚した精霊も成長をする。ただ、条件としてこちらの世界でのみしか経験値を取得することは出来ない。つまり、元の世界で練習してもステータス的上昇は無いということだ。だが、練習することで慣れて動作が素早くなったり鋭くなったりとステータスとして反映されない成長は行われるようだ。

で、そのステータスを一括で見ることも管理者である俺は可能だ。そして、俺はアーキルド

のステータスを見てぎょっとした。

 見ると称号に【酔狂の匠】とかいうヘンテコなものが付いていた。いやまて、こんな称号みたことないぞ? 精霊を作成する条件の一つに自分が取得している能力以外は精霊に設定出来ないことになっている。当然、【酔狂の匠】とかいう称号を俺は持っていない。どうやら、これはアーキルドがこの世界で建築をするうちに勝手に取得した称号のようだ。

 で、問題はその称号の効果なのだが……


==========

称号:酔狂の匠

取得条件

・総建築数1万を1ヵ月以内で超えること。

※家なら1件で1。テーブルや椅子などの家具は個別作成のときのみカウントされる。また、どんなに巨大な建造物でもカウントは1とする。

 他人の助力があっても1とする。

効果

・建築技術の大幅な上昇。

・建築に過度の中毒性を持つ。

・建築中は全ステータスが50%上昇。

・建築中はスキル《絶倫》を一時的に取得する。

==========


 しばらく黙っていたのち、俺はアーキルドのステータスをすっと閉じて、黙ってその場で下を向いた。


「……ごめん」


 それが、今の俺がアーキルドに言える唯一の言葉であった。

 なお、後日その中毒性を抑えるためのアイテムを開発してアーキルドにプレゼントをしたときにアーキルドにも、称号のことを説明したのだが(称号は自分自身でも見ることは出来ない)そのときに放った一言が。


「建築万歳じゃぁぁぁぁぁぁぁ!」


 であった。

駄目だこのじじい……既に手遅れだわ。なお、その後もアーキルドによる建築の催促は続くことになり、今更ながらにアーキルドを作ったことに少し後悔するのであった。


===2017年===

11/12:誤字を修正しました。

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