第259話:布団の中の出来事
昨日は疲れた。この一言に尽きる。
いや、非常に目には良かったのよ? 昨日の魔王の下着姿は非常に素晴らしいものを見せてもらったと思っている。だけどさ、それ以上に精神的ダメージがあるのよ。勝手に自爆した魔王を宥めるのに何時間かかったことやら……。
なので、流石に昨日は夜の営みはパスした。そもそもここ数週間ロクに休めていないから、この辺で一度休息が欲しかったのがある。日本で社会人として働いているときの休日は一日中寝ていたのを思い出す。
……ところがだ。この体になると一日の活動程度で疲れたとなることは決してないのだ。何それ羨ましいと社畜たちに言われそうだが、これはこれで精神的に何か来るものがある。ただ、その精神的な疲労も俺が何となく思っているだけで、実際にこれが原因で鬱などになるかと言われるとそんなことは無く、一晩で回復してしまう。スキルや称号のせいで精神に補正がかかっているのが主な原因だろう。
なので、今日は一日寝るぞと思っていたのだが、7時間ほど寝たら全快してしまったのだ。数週間殆ど休憩なしで活動した疲労が7時間の睡眠で取れるのだから改めて俺の体のおかしさに気付かされる。
で、現在の時刻は午前6時ぐらい。季節は冬なのでお日様はまだ昇っていないので、辺りは暗闇に覆われている。
「……起きようかな」
そう思い体を起こそうとしたが出来なかった。何故か? それは俺の体を絶賛カイロ代わりに使っている人間がいるからだ。
「……そうだったエリラがガッチリホールドしているから無理じゃねぇか」
俺のすぐ右側でエリラが小さな寝息を立てながら眠っていた。片方は左腕、もう片方は俺の体の下側を通って左肩を掴んでおり、彼女自身はうつ伏せで眠っている形だ。夏場でも容赦なくホールドをかけるエリラのお蔭で、俺とエリラの起床時間は必ず同じになる。だって俺の方が確実に早く起きるもん。
まあ、別に悪い気はしないから解除させたりはしないけどな。唯一欠点を上げるとしたら最近妙に育ってきたエリラの胸が常に体の右側に当たり続けているせいで、性的にムンムンしてしまうことぐらいかな。
「……ん」
そうこうしていると、どうやらエリラもお目覚めのようだ。
「……おはよう」
「おはよう」
寝ぼけながらもエリラが俺に挨拶をしたので、俺もおはようと返す。
「……? 私の顔に何かついている?」
「……いや……育ったなと思っただけ」
「……育った? 何が?」
「胸が」
「……」
一瞬、何を言われたか分からなかったのか硬直していたが、やがてプルプルと身が震えだしたかと思うと、俺をガッチリと固定していた腕を俺の首に回すとそのまま締め付けてきた。
「アダダダダダダダ! 痛い痛い痛い!」
待って、マジで痛い。エリラのステータスで締められたら洒落にならないって! てかエリラ、君しれっと《能力加算》使っているよね!?
「誰のお蔭ですかねぇぇぇ!」
「待って待って! 揉んでいいと許可をしたのはエリラじゃねぇか!」
「誰がこんなに育つまで揉んでいいっていったのよ!」
「じゃあ拒否しろよ(メキメキメキ)ああああああああ! 待って骨が変な音している! ミシミシ言ってる!」
「クロだから良いに決まっているじゃない!」
「……」
「……」
「……」
「……何か言いなさいよ!」
「……揉んでい(メキメキメキ)あぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 何で!? 俺ならいいのでしょ!?」
「時と場所と場合を選びなさい! それを何で今言ったの!?」
「ほ、本能がそうしろって命令を(メキメキメキ)」
「そんなこと言うのだったらもう触らせないわよ!」
「じゃあ、触らなくていいのね?」
「……」
「……」
「……ごめんなさい」
あっ、そこは折れるのね。
「……って、これじゃあ私が痴女じゃない!」
ああああああああ! と叫びながらベッドの上で二転三転と左右にゴロゴロ転がるエリラ。ちなみに俺の首は大丈夫です。痛かったけどエリラも手加減していたし、ステータス的に折れる訳がないんだけどね。まあ、一種のじゃれあいってやつです。エリラが本気で怒っていないことぐらい分かっているさ。
「うう……クロのばかぁ……」
気づけばエリラは枕に頭を埋めていた。うーん、ちょっと意地悪だったかな?
そう思った俺は、今度は逆にエリラの肩に手を当てそっと抱き寄せた。
「ごめんな。ちょっと意地悪が過ぎたわ」
エリラが枕から顔を上げこちらを見つめる。しばらく見つめあったのち今度はエリラがこちらの胸へと顔を押し付けてきた。それと同時にエリラの腕が俺の体を囲むと、そのまま寝ているときのように体を押し付けてきた。
「……私の方こそごめんね。首痛くなかった?」
「別に大丈夫だよ。ちょっと痛かったけどな。まあ、それは気にするな」
「……ねぇ……クロって胸が大きい人って嫌い?」
「大好きです(キリッ)」
「そ、そう躊躇なく言うものかしら……?」
「えーだって、本当の事ですし。あっでも、小さくても大きくてもエリラは大好きだからな? そこは間違えない様に」
「……もうっ、ばかぁ」
ぎゅうとエリラが抱きしめてくる。俺もそれに答える形でエリラを優しく抱きしめる。エリラのぬくもりが先ほどより一段と温かく感じられる。
「……ありがとうね。こんな私を好きになってくれて……私もクロのこと大好き」
「……改めて聞くとやっぱり恥ずかしいな。でも、ありがとうな」
「……ねぇ」
「ん?」
「……もう少しこうしていたい……ダメ?」
「……いいよ。じゃあ、こうしようか」
そういうと、俺はエリラを自分の上に被せる様な形で乗せてあげた。
「えっ、クロ苦しくない?」
「全然。むしろエリラの暖かさがより伝わってくるから嬉しいかな。エリラは嫌?」
「なにを嫌になればいいのよ? ……じゃあ、このままもう少し休んでもいい?」
「好きなだけどうぞ」
そういうと、エリラはこちらに笑顔でお礼を言うと、そのまま再び眠りについた。
「……やっぱり、人の温もりっていいよな」
ストーブやエアコンの暖かさとは全く違い、心の中まで温まるような感じがする。だから俺はエリラが毎晩抱きしめて眠ることに悪い気はしないというより、むしろ嬉しかったりする。
……俺ももう少し休むか。そう思い俺が瞼を瞑ったときだった。
「おはようなのです!」
バンっと勢いよく部屋のドアが開き、中に入ってくる獣族が一名。フェイだ。フェイはダダダッと助走をつけると、そのままベッドの上へとダイブを仕掛けてきた。
「あっ」
時すでに遅し。フェイは俺の胸へと華麗なダイブを決めた。
「……? クロウお兄ちゃんの体はこんなに大きかったです?」
フェイは自分が乗っかったものを俺の体と勘違いをしているようだ。だがそれは―――
「……フェイ。痛いわ……」
もぞもそとフェイを落とさない様に、俺の体の上から降りると、そのまま布団の中からエリラが出てきた。フェイが乗っかった部分か、エリラはイタタタと言いながら首をさすった。
「あっ、エリラお姉ちゃんだったのです?」
「そうよ……クロ……狙っていた?」
「いや、全然。本当にごめん」
「? クロウお兄ちゃんの上にエリラお姉ちゃんがいたです?」
「そうだよ。で、フェイは俺の上にいたエリラの上に乗っかったって訳」
「そうなのですか。じゃあフェイもクロウお兄ちゃんの上で寝るのです!」
そういうと、フェイは履いていた部屋靴を脱ぎ捨てると布団の中に潜り込み先ほどエリラがいた位置にピタリとくっついた。
「温かいのです!」
フェイが元気な声で感想を言った。そうか。と俺は返しながらフェイをナデナデしてあげる。
「おはようございます」
と、そこにニャミィが現れた。どうやらフェイの後を追いかける形でやって来た様だ。
「? フェイは?」
「ここなのです!」
ニャミィが疑問の声を出すと、フェイがそれに応えるために自分が被っていた布団をどかし俺の上で立ち上がった。
「ああ、こらっクロウ様の上から降りなさい」
「いや、いいですよ」
ニャミィがフェイに注意しようとしたので、俺がまあまあと宥める。これが大人が乗っているなら怒るところだけど、フェイはまだ子供だし軽いから全く問題は無い。
「クロウお兄ちゃんの上は温かいのです!」
「その状態で言うと俺が床暖房みたいじゃん」
「ゆかだんぼう? って何ですか?」
「あー、そこからか」
そういえば、暖房用の暖炉はあるけど、床暖房はこの世界にはなかったんだっけ。今度、この家も床暖房を導入してみようかな。
「……ふふ」
その様子を見ていたニャミィが急に笑った。ん? 笑う要素なんてあったか?
「どうしたの?」
「あっいえ、こうやってみますと、フェイとクロウ様、エリラ様が家族のように見えましたので」
「あっ、そう見えた?」
微笑ましい光景に見えたのかな? でも、俺とエリラは16歳でフェイが5歳だから、子供っていうのは早いと思うのだが。
「こ、こ、こ、こ、こ、子供……」
振り向くとその言葉に反応してか、エリラが顔を真っ赤にしながら呟いていた。エリラ、君は何を想像しているのかな?
「さて、そろそろ降りるとしますか。フェイ、お兄ちゃん起きたいから降りてくれる?」
「はいなのです!」
「それとエリラ。何を想像しているかは知らないけど、そろそろ現実に戻ってこい」
「子供……クロとの子供……あ、あわわわわ……」
「……ダメだこりゃ。済まないけどフェイを連れて先に降りていてくれ。俺はエリラをどうにかしてから降りるから」
「かしこまりました。フェイ、先に降りますよ」
「はーい」
こうして、俺の今日の一日が始まるのであった。
大好きな人といつも一緒のベッドで寝るとかうらやまけしからん。




