第225話:魔族に悪魔と呼ばれた
「ふ、ふ、ふざけるなぁ!」
8月7日からの4日間の出来事をかい摘んで話したクロウに返された言葉は、そんな言葉だった。
(まあ、無理もないけど)
4日間の出来事はこの世界にはあまりにも理不尽過ぎる内容だった。未知なる武器が出て来たと思いきやその武器は一瞬にして地に還され、空から何かが落ちて来たと思いきや急に爆発が起き、気付けば反乱軍が3週間かけて制圧した土地は僅か4日にして大部分を奪い返されており、理解する方が無理であろう。
「今言ったことを全て信じるか信じないかはあんたの自由さ。どうせこれから嫌でも現実を見なければならないんだからな」
「信じる訳がないだろ! こんな戯言を何故信じなければならない!? 衛兵! こいつを摘みだせ!」
どうやらミロは信じる気は毛頭も無い様だ。大声で外にいるであろう兵士にクロウを外に連れ出すように指示を飛ばす。
だが、いくら待っても兵士が来る様子はなかった。再度大声で指示を飛ばすが結果は変わらず。不気味な静寂だけが辺りを支配していた。
「な、何故だ……何故誰も来ない?」
「ああ、もしかしてあいつらの事か?」
呆れたクロウは窓の外を指さした。ミロは窓にへばりつくように近づき、外を見つめた。
外に見えたのはいつもの風景に少しだけ慌ただしい人が多いように見えただけだった。
「!?」
だが、その慌てている人を見た瞬間、ミロの目の様子が変わった。何故ならそこにいたのは本来、反乱軍の拠点を守る反乱兵だったからだ。それも一人二人では無く十数人規模で四方八方へと逃げているではないか。中には支給されていた爆炎筒やその他装備を投げ捨てほぼ裸の状態で逃げている者もいた。
「ば、馬鹿な……!? どこに行こうとしている!? 逃げるなぁ!」
窓をこじ開け、張り裂けるような声でミロは叫んだ。だが、その声に足を止める者など誰一人としていなかった。
「あいつらなんかいい方だよ。上のお偉いさんみたいな恰好をしてた奴らなんて大分前に逃げてたぞ?」
「なん……だと……!?」
「まあ、所詮はこんなもんだよ。聞けば随分と甘い言葉で誘ったようじゃないか」
「甘い言葉……? 違う! 私は国民の生活を今よりも良くしようとしただけだ! 見ろ! 今の帝国を! これが人間の生き様か? これでは家畜と同程度の扱いではないか! こんな生活誰が望む!? お前はこんな苦しい生活をしている民を放っておけと言うのか!?」
「……別に放置しろなんて言って無いだろ」
「なら―――」
「でもよ、その前に考えたか? 何故帝国の民はこのような苦しい生活を強いられているのかを?」
「勿論考えたさ! これは国の強兵政策が原因だ! 兵士を強くしようがために軍事費に多額の税金をかけ軍事力のみを上げようとした結果がこれではないか!? 国民が豊かになれば必然的に収益も上がる。軍事費などその次でいいではないか!」
「……まあいいさ。お前がそう思っているならそれで」
「なんだ、まるでお前は違うかのような言い方だな!?」
「そうだよ。少なくともあんたの考えに納得はしていない」
「なっ!? ならお前ならどうすると言うのだ!?」
「……部外者の立場から言う必要は無いだろ? まあ、強いて言うなればあんたの兄さん……現皇帝のやり方に賛同はしないが納得はしている」
「お、お前も―――」
「はいはい、この話はお終い」
そういうとクロウは一瞬でミロに近づくとミロのみぞおちに強烈な膝蹴りを加える。ドスンと鈍重な音が響きミロの体が一瞬硬直したかと思うと次にはミロは自身の体から意識を手放しており重力の成すがまま地面へと倒れ込んでしまった。
「……ったく、歴史から学びなおせよな……さて、オマケはこれでお終いと……次は……」
クロウは窓の外を見ると次なるターゲットに狙いを定めた。
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「チッ……これは予想外だな……」
クロルパルスの中心地から外れた郊外に位置する建物の4階にて、一人の魔族がクロルパルスの中心地を見ながら舌打ちをした。
この建物は1~2階建てが多いクロルパルス郊外の中では4階建てと高さは頭一つ抜け出ていた。そのためここからクロルパルスの中心地は良く見え今もその中心に建つ反乱軍の拠点から兵が逃げ出しているのが見えていた。
「あの少年……やはり危険過ぎる……早々に手を打たね―――」
「誰が危険だって?」
「!?」
バッと振り向いた瞬間、魔族の顔面にまるで鋼鉄のような拳が突き刺さった。身体能力的には人よりも遥かに高スペックな体を有している魔族であったが、この攻撃は受けきれずに地面へと叩き伏せられる。
「《土鎖》」
魔族の周囲に土の鎖が纏わり付きやがてガッチリと魔族を拘束した。自力で引きちぎろうともがく魔族であったが、鎖はジャラジャラと音を鳴らすだけで切れる様子は全くなかった。
「やめときな、あんたの力で千切れるほど軟な魔法じゃないぜ」
「き、貴様は!?」
魔族が初めて自身を襲った者の顔を見ると、先ほどまでクロルパルスの反乱軍拠点にいたはずの少年の顔ではないか。
「覗きとは悪趣味な魔族だな」
「いつから気付いていた!?」
「最初からだよ。覗くならもっと気配を消したりすることをお勧めするぜ?」
「チッ……」
舌打ちをしながらごそごそと自分の腰辺りを探る魔族の手には目くらましようの閃光弾が握られていた。これを使い一瞬の隙を突き逃げる算段だったのだろう。だが、同じ魔族から同じ手を一度受けている少年に隙は無かった。
魔族に括り付けた土鎖のうち手を拘束していた部分に《瞬断》の能力を付与。そしてそのまま手の拘束を一段ときつくする。土の刃と化した鎖が魔族の手に抉り込み、そこから血が流れ出る。その痛みに思わず手に持っていた閃光弾を地面へと落としてしまった。地面へと落ちた閃光弾が光を放とうとした瞬間、閃光弾の周りに土がかぶさりすっぽりと囲ってしまったではないか。当然こうなってしまえば攻撃力を持たない閃光弾は完全に無力化されてしまったといえるだろう。
「その手で一回逃げられているからな、恨むならその手で逃げた魔族二人組を恨むことだな……さて、聞きたいことは山ほどある。全てに答えてもらうからな?」
「ふん……簡単に話すとでも思うか?」
「まさか? こういう時は拷問でもするのがセオリーなんだろうが……」
そういうと少年の手から光が放たれ魔法陣が現れた。
「面倒だから全て洗いざらいしゃべって貰おうか」
魔族の方へ魔法陣が現れている手を出すと魔法陣からより強い光が放たれる。
「《強制》」
魔族の体を光が覆う。その光は僅か数秒にして消え去り、後には魔法陣が現れる前の様子に戻ってしまった。
「? 何をした!?」
「今から分かるよ……さて、じゃあ早速かかっているか確認させてもらおうか。手始めに『今回、ミロに爆炎筒を渡したのはお前だな』」
(ふん、何故それを答えなければならな―――)
「そうだ、私だ―――!? な、何故だ!? わ、私は今―――」
「その様子だと効いたようだなよかったよかった」
「き、貴様ぁ! 私の体に何をした!?」
「俺とあんたとの間で簡易的な《隷属》関係を結ばせただけだよ。さて、これであんたはもう嘘は付けなくなった。全て知っている事を洗いざらい吐いて貰うから覚悟しておくことだな」
「こ、この悪魔め!!」
「魔族が人に悪魔と言うか……フォート城のときと一緒だな」
「フォート城……? き、貴様、まさかフォート城での同士も―――」
「おっと、俺は答えないぜ? それと俺の質問が終わるまで自爆関係の命令を一切禁止する……逃げられると思うなよ?」
「く、くそがぁ!!!」
魔族の声も虚しく、少年……もといクロウにによる質問の時間が始まるのであった。
悪魔度:クロウ>>>>>>魔族
魔族の悪魔っていったい何なんでしょうね? 天使とかでしょうか?
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03/08:誤字を修正しました。




