表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
227/270

第223話:ターニングポイント3

「な、なんだこいつらは!? 攻撃が当たらない!」


「ひるむな! 所詮は無勢だ、数で押せ!」


「うわぁぁぁぁぁ、こっちに来るなぁ!」


 エリラと獣族達の攻撃に反乱軍はパニック状態に陥っていた。


「距離を置け! 離れて爆炎筒で撃つのだ!」


 エリラたち精鋭部隊の人数は12名。1,300もの軍勢に対しては余りにも少数だ。そうなると当然、被害を受けていない部隊も出て来る。


「し、しかし、それでは接近している味方までも被害が……!」


 ある程度距離が開いていたある部隊の隊長は爆炎筒を撃つように命令をした。しかし、今彼女らの周りには味方の兵士もいる、そんなところに爆発型の球を撃ちだす爆炎筒を使うとなれば、味方もろとも吹き飛ばしてしまうだろう。


「構うな! それともなんだ、お前らは死にたいのか?」


 しかし、隊長は撃つように命令をした。味方などどうでもいい、自分が生き残りたい一心なのだろう。


「……!」


 迷ってる暇はなかった、指示された者たちは照準を乱戦状態になっている場所に合わせる。そして、一瞬躊躇したと思ったがトリガーを引く。

 ドォンと衝撃が走り火球が爆炎筒より撃ちだされた。そして、撃ちだされた火球は真っ直ぐと狙った場所へと飛んでいく。


「!」


 乱戦状態であったが、一番最初に気付いたのは獣族のココネだった。いつもはほんわかとしている彼女であるが、剣を握ればその性格はどこへやらか、素早い剣捌きを主軸に戦場を舞う、まさに蝶のように舞い蜂のように刺す動きと言えよう。

 その動きはここでも活かされた。フェイントを織り交ぜた動作の前に反乱兵は混乱する。元々訓練された兵では無いうえに、ここまで爆炎筒という遠距離武器のみを扱い、近距離の剣は全くと言うほど扱っていなかった。それに引き換えココネの方は銃の使い方と同時に短剣、魔法、剣と様々な戦闘方法をクロウから学び毎日鍛錬を怠る事は無かったココネとでは戦闘力は歴然としている。

 そんな彼女が最初に気付いたのも当然かもしれない。即座にその場から飛び出し、集団から距離を置いた。そこに丁度爆炎筒からの火球が集団に突入し、爆発した。距離を置いたとはいえココネの方にも多少なりとも衝撃が来たが敵の集団と言う肉壁によって血が飛び散って来るだけだった。


「危ないですね~……敵さん味方もろとも殺ってしまいましたね……」


 どこか思うところがあるのか、ココネは巻き込まれた敵に心の中で合掌をする。だが、敵に同情するほどココネも甘くは無い。直ぐに切り替えると、今度は先ほど撃って来た敵をキリッと睨む。


「ひぃっ!」


 睨まれた兵士は思わず後ろにのけぞる。


「ひるむなぁ! うてぇ!!」


 号令に合わせ一斉に爆炎筒が火を噴く。だが、無情にも撃ちだされた火球がココネに当たる事は無く気付けばあっと言う間に距離を詰められていた。


「クロウ様の攻撃を見ていたら、そんなのには当たりませんよ~」


 音速以上で飛ばされる剣風を目の前で見た彼女たちだ。火球などは止まって見えるのかもしれない。もっとも音速で衝撃波を魔法も無しで撃てるクロウが可笑しい気がするが、そんな事はもはや慣れたことなのでおいておこう。

 その他の場所でもエリラ、獣族ペアの強さは圧倒的で彼女たちに対して反乱軍は倒すどころか傷一つ付けれない始末であった。

 そんな反乱軍の様子を遠巻きで見ていた皇帝以下帝国の者たちは唖然とするしかなかった。人数も少ない上に戦い慣れした龍族など出も無い、一見すると普通の奴隷である彼女たちの戦闘力は驚くしか他無かった。

 いや、充実した武器や服装をみただけでは奴隷とは見えないだろう。今や彼女たちを奴隷として示すのは首に付けられたチョーカーただ一つだろう。


「……クロウよ、一体あ奴らはどこで手に入れた?」


「どこって……山賊(国軍)ぶちのめして全員同じ場所で見つけましたよ。あっ、でもエリラは違いますよ」


「な、なに……? そうなるとあ奴らはお主が育てたとでも言うのか?」


「ええ、でもそれ以上に彼女らが真面目に鍛錬をしたからこそのあれですからね。私は手助けをしたにすぎませんよ」


「ふむ、本当に勿体無いな……あれほどの実力があれば、国……いや大陸でも髄一の部隊となろうに……」


「……」


「……どうしたクロウよ?」


「いえ、私にはもったいないぐらいの人たちと思っただけですよ」


「ふむ……お主のその奴隷を家族と見る価値観は一体どこから来るのだ?」


「どこ……そうですね……今まで見て来た経験からとでも言っておきましょうか」


 少なくともクロウには前世と言う別の世界を体験している。そのためこの経験というのも間違ってはいない。ただ、その部分を説明していないので皇帝からしてみれば、この世界のどこでそんな経験を……? と疑問しか残らなかった。


「さて、大分数も減って来たようですし、そろそろですね」


「む? 何をするのだ?」


「最後のお片付けですよ」


 そういうと、クロウは《意志疎通》で全員に指示を飛ばす。


「全員、そこまでだ。引いてくれ」


<了解>

<了解しました>


 その合図と共に、エリラと獣族達は一斉に都市へと撤退を始める。敵からしてみれば、何の前触れも無く、いきなり引き出したので、ただただ混乱するしかなかった。


<もう少し倒したかったです>

<私が一番倒しましたよ~>

<いや、私よ!>

<<私です!!>>

<うん、君たち。言い合うのは後でいいからサッサと戻ってきなさい>

<<<はーい>>>


「さて……じゃあ、そろそろ終いとしますか」


 そういうとクロウの手の上に魔法陣が浮かび上がる。その魔法陣を中心に様々な方向に線が延びその先にまた別の魔法陣がありその魔法陣の中心からまた別の方に線が延びる……と繰り返し気付けば魔法陣の数は100を超えていた。

 一つ一つは手のひらサイズの魔法陣だが数が多すぎる。普通100個の魔法陣を結合させようとするならば、最低でも、強力な魔力を持った魔導士30人は必要だからだ。それを一人で出してしまうあたり、流石はクロウといったとことであろう。

 さらに、今回はそれで終わりではない。その結合された100個の魔法陣と同じ魔法陣が今度はクロウの上空に浮かび上がる。そして、その魔法陣の末端に、これまた同じ魔法陣が結合している。その数実に20。魔法陣の数はこれで合計2200個にも上る。


「なっ!?」


 これにはさすがの皇帝も驚きの様子を隠せなかった。通常の人間が扱える量をゆうに超えてるので無理もないだろう。他の家臣、兵士たちも同等の様子だ。特に魔法に精通している魔導士に至ってはへなへなと地面に座り込む始末だ。


「さて……これが、俺の魔法です……天体魔法……《超新星爆発(スーパーノヴァ)》」


 手のひらの魔法陣の上に小さな火球が作られる。その大きさはゴマ粒ほどの大きさしか無く、巨大な魔法陣からはとてもではないが想像できない大きさだった。

 その小さな火球は、クロウの手から飛び出し、敵の方にへと飛んでいく。その小ささ故に常人の眼では直ぐに見えなくなってしまった。


「……?」


 不発か? 誰もがそう思ったその時、突如反乱軍の中央が光ったかと思えば、次の瞬間、突如大爆発を起こしたでは無いか。その爆発の威力は凄まじく、数キロ離れたエルシオンの城壁でもその熱風を感じ取る事が出来たほどだ。当然のことながら、下でエルシオンに向かって逃げている獣族たちにも被害が飛んでいくが、そこはクロウのお得意な魔法制御で当たらないように工夫をしている(具体的に言うと、爆風と衝撃が当たらないように魔法の壁で彼女たちをコーディングしてあげてる)

 大地が割けるがごとく轟音が響く。爆発の衝撃により地面が割れ、エルシオンは地面が揺れるほどだった。

 そして、爆発が止み暫くたったのち爆発の中心点あたりの煙が晴れてくると、そこに人影どころか物すらも落ちていない巨大なクレーターが出来上がっていた。


「……!!!!」


 あまりに唐突な出来事に言葉を失う帝国の者たち。そんな中早めに我に帰った皇帝は、同時に背筋が凍るかのような恐怖を覚えた。

 もし、あの爆発が自分らに降りかかっていれば……爆炎筒など生温い、これが本当の一方的な暴力……いや、もはや暴力でもない無への強制返還といえよう。


「……さて、仕事は終わりました。次へと行きましょうか」


 もはやクロウの言葉を聞ける者など、誰一人としていなかった。

02/26:誤字を修正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ