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第219話:エルシオン協定

01/16:誤字を修正しました。

 ジーク歴1098年8月4日。この日帝国である協定が結ばれた。それは人類史上類を見ない協定だった。誰しもが最初に口に出したのは「本気か?」の一言であった。

 協定にサインをしたグラムス・ザームは協定後に周りの人間にこう言ったと言う。


―――面白い事になった。あの青年がどこまでやるか見せてもらおうか―――


 当時の皇帝の心境は誰にも分からない。ただ、唯一分かった事は、皇帝はこの圧倒的に不利な戦況を楽しんでいると言う事ぐらいであった……。


==========


「本当にやる気なの?」


「当り前さ、そのために準備をして皆に伝えたんだから」


 エリラが心配そうに声をかけてきたので、俺は大丈夫と答えた。


「そう……なんか、夢でも見てるみたいね。数か月前は想像できなかったことよ……」


「俺だってそうだ。まさか、こんなことをやるとはね」


「……頑張ってね。私も……頑張るから」


「ああ、任せろ」


 お互いに見つめ合う俺とエリラ。最近夜の営みを行っているせいか肌か艶めかしいような気がするのは気のせいではないはずだ。


「……もしもーし」


「「ん?」」


 そんな状況に釘を刺す人が一名。


「あま~い空間を作り出すのはいいけどさ。クロウはもう時間じゃないの?」


 テリュールだ。白色にツインテールという、あまり見ない組み合わせの髪型が特徴的で、俺らの家族の中では最年長にあたる。そう、俺よりも年上だ。

 そのテリュールはプーと顔を膨らませてこちらを見ていた。そのテリュールの後ろには十数人の獣族達が羨ましそうにこちらを見ていた。

 痛い。視線がめっちゃ痛い。現在の状況に芳しくない空間を作り出したせいで非常に痛い目で見られた俺とエリラは慌てて今作りだされていた甘い空間をかき消すかのように姿勢を整えた。


「すまんな。じゃ、ちょっくら話し合いをしてくるから準備だけはしておいてくれな」


「はいはい。分かったわ。気を付けてね」


「ああ」


 俺は軽くテリュールの注意に答えると我が家を後にするのだった。



==========


「ふむ、お主がクロウと言う者か」


「ええ、初めまして」


 エルシオンの中央部に建つこの街のギルド。建築されてまだ数か月程度しか経っていない木造の建築物は、近づけばまだ木材独特の匂いが強く感じ取れた。

 そのギルドの応接にて俺はとある人物と面会をしていた。


 その人物の名は、グラムス・ザーム。ラ・ザーム帝国の現皇帝で反乱軍のリーダー、ミロ・ザームの兄にあたる人物だ。彼の後ろには俺の家に一度やってきたマリ……げふんげふん、ウォルス・ログレシアと帝国ナンバー2と言われるニーケル・ログボーカーの二人が立っている。ニーケルは黒髪にスポーツ刈りみたいな短髪の髪型をしており、それだけ聞くとスポーツ少年を連想させるが、顔がおっさんである。もう一度言おう、顔がおっさんである。


(こえぇ……)


 なんというか……三人揃って異様な雰囲気が滲み出ている気がする。まあ、ウォルスはマ○オなのでそこで怖さが軽減されているけどな。勿論、そんな思いは心の中だけで決して表には出さない。まあ、見た目が怖いというだけで、実際ビビッているかと聞かれるそうでもないけどな。


「お主があの薬を作ったのか」


 あの薬とはウォルスに100万Sで教えてあげたあのポーションの事だ。


「ええ、コピーは出来ましたか?」


「むっ……残念だが我の帝国では少し技術が足りないようでな……どうだ? 我らの配下になる気はないか?」


「丁重にお断りさせてもらいます。私は今の生活で満足しているので」


「そうか……さて、では本題に入ろうか、態々帝国のトップである我を呼んだのはそれなりの事であろう?」


「私はウォルスで良いって言ったのですけどね。態々首脳部のトップが戦時中に来るほどでも無いと思ったので」


「そのウォルスが我に代わってくれと懇願したのでな……別に良いだろ? それに案件はこの戦争でのお話らしいではないか、ならどうせ最後には我の判断が必要なのだ。我が聞いた方が早かろ? それからどのみちこの戦争が終わればお主には一度会ってみようと思ったのでな」


「そうですか……では話しましょうか……まず、始めにお聞きしますが今回の敵が持っている兵器について皆さんはどれくらい知っていますでしょうか?」


「あの爆炎筒と呼ばれる代物か……火の魔法を撃てる道具と我らは見ておる」


「ええ、それで合っていますよ。ですが、問題はそこでは無いですよね」


「そうだ。問題はあの威力と射程距離だ。あの遠距離から打たれては矢も魔法も届かぬ」


「そうですね。あの距離から撃たれるとまず、人間の兵器では届かないでしょう」


「ふむ……その言い方を察するに、人間以外の攻撃なら届く術があるかのような言い方だな」


「残念。人間でも届く武器があるんですよね」


「ほぅ……」


 グラムスは興味深そうな目でこちらを見て来る。話の最初から静観していた後ろの二人も気になるのか、先ほどよりも真剣な眼差しになっている。


「まずは、彼らと同じ兵器を使えば届きますよね」


「そうだな。だが、我々はあの武器を持っておらぬ。よって、作る事も出来なければ研究することも出来ない状態でな」


「では」


 俺は《倉庫》から、かつて魔族から奪い取った爆炎筒を取り出した。爆炎筒が彼らの目の前に現れた瞬間、3人の視線はすぐにこの武器へと注がれた。


「こ、これは……!」


「これは、アルダスマン国が龍族と戦争をした際にエルシオンを襲った魔族から奪い取った物です」


 俺は、特に情報を隠すことなど無く話す。隠しても隠さなくても俺には関係ない話だし何より、これを奪い取った相手は嫌でも聞いてもらいたいのだ。


「魔族だと……?」


「ええ、恐らくですがこれは魔族が作った武器でしょう。これの小規模にした武器をハルマネで彼らが運用していることも確認済みです。恐らくはこれをモチーフにして改良を加えているのでしょう」


「こんな代物を……何故お主が持っておる?」


「倒したからに決まっているじゃないですか。既にアルダスマン国は崩壊していたときなので別に問題は無いと思いますが?」


「倒しただと? これを持った相手にか!?」


「まぁ、これを持っていた奴は少なかったので倒すのは楽でしたよ。不意打ちをかけましたしね」


「お主やるな……ん? まて……これがもし魔族が作った物だとしたら、あやつらは魔族と手を組んでいると言うのか!?」


「直接的には関わってないと思いますよ。恐らく商人に化けた魔族か、魔族に買収された商人からか……どちらにせよ間接的に関わっている事は否めませんね」


「あの馬鹿が……」


「フォローする訳ではありませんが、あなたもこんな良い武器があるなら買っても仕方が無いとは思いませんか?」


「まあ……そうだろう。我も同じ立場ならそうなるだろうな」


「ですよね……それでですね。まず最初の案件は、この武器をあなた方に差し上げましょう」


「なに……? これを我らに譲ると言うのか?」


「ええ、私には必要ありませんからね」


 要らないと言うより、俺からしてみれば時代遅れも良いところだし。


「勿論、ただという訳には行きませんよ」


「それはそうだろう。こんな人間が持っていない未知なる武器をタダで売るような馬鹿だったら我なら逆に怪しむな」


「そうでしょう。条件なのですが……その前に次の案件に行きましょう」


「何故だ?」


「次の案件にも関わるからです。では、この武器をあなた方が手に入れたとしましょう。まずどうされますか?」


「ふむ……普通は持ち帰って研究、開発、量産の流れになるだろうな、普通ならな」


「はい、普通ならそうですよね。ですが今は戦時下、失礼ながらも帝国軍は圧倒的不利な状況に立たされています。首都に戻れずエルシオンと言う支配下に治めたばかりの地方都市に逃げこむほどですからね」


「むっ……お主、誰に向かって言っておるか分かっているか?」


 やや不機嫌そうにグラムスは言った。自国の事をそう言われたら無理もないな。後ろの二人も「あっ」と言いたげそうな顔をしていた。恐らく彼らの内心は非常に怯えていることだろう。


「ええ、それを分かった上で言っているのです。怒りたくなるでしょうが、これが現実です。現実はきっちりと受け止めて下さらなければ、あなたの元にいる何千もの家臣、兵士たちが困ってしまいますよ」


「……ふむ……それもそうだな。失礼した。で、話を続けよ」


 あら、怒らないのね。怒って話がとん挫したら実力行使も考えていたけど、まあ、これはこれで話が楽になった。

 それにしても、皇帝と言うぐらいだからプライドの塊かと思ったけど、話してみるや意外、冷静な人というのが正直な感想だ。


「はい。で、本当なら今すぐこの武器が大量に欲しい所でしょう。ですが、残念ながら私も持っているのはこれ一つだけです。それにこの中身もかなり複雑で直ぐに解明できるほど容易い物でもありません」


 俺は量産出来るけどな。


「つまり、これだけでは現状の圧倒的不利な戦況を覆すほどの力は無いと言う事になります」


「そうだな。それで、お主はどうするつもりだ?」


「そこで……どうですか? 私と私の家族をこの戦争だけ雇ってはみませんか?」


「ほう、我の配下に下るのは嫌だと申していたではないか?」


「ええ、そりゃずっとは嫌ですよ。あくまで今回の反乱軍の鎮圧までです」


「だが、お主らを雇ったところで、この戦況を覆せるとは思えぬ」


「そうですか?」


「……何が言いたい?」


「単刀直入に言いましょう。私たちを雇えばこの戦況を覆す……そんなちっぽけな物ではありません。現在大暴れしている反乱軍を叩き潰しこの戦争事態を帝国の勝利に導く事が出来るでしょう」


「……ふん、易々と言うな……」


「ええ、私にとっては容易いことですから。なんなら反乱軍のリーダーだけ今すぐにでも攫って来て見せましょうか?」


「ふ、ふざけるな!」


 突如声を荒げたのは後ろにいたうちの一人ニーケルだ。


「陛下をバカにするのもいい加減にしろ! お主たちが加わったところでこの戦争を終わらせることが出来る訳がないだろう!」


「何故あなたにそれが分かるのですか?」


「分かるも何も、人間一人……それもお主のような青二才に出来る事など高が知れている! 陛下! もはや彼の戯言などに付き合ってやる必要はありません! 今すぐ陣営に戻られてこれからの作戦を練りましょう!」


「……」


「陛下……?」


「……ニーケルよ……少し黙っておけ」


「へ、陛下!?」


 グラムスからの思いがけない命令に、ニーケルは驚きの様子を隠せなかった。彼からしてみると目の前にいる青二才は嘘しか言っていないようにしか見えないのだろう。恐らくだが彼は今すぐにでもここを離れたい気持ちでいっぱいだろう。

 だが、他の誰でも無い陛下の命令なら致し方なし。ニーケルはおずおずと元の定位置に戻った。


「……ニーケルの言う通り、普通に考えればお主が言った言葉は戯言……と捉えるのが普通だろう」


「まあ、そうでしょう。私もそう思います。むしろここにいるお三方すべてがそう考えると、私は思っていました」


「まあそうであろう……さて、先ほどお主が言った通り我は数千の兵、何十万もの民の上に君臨する者だ。よってたった一人の我が国の者でも無い者の意見をそうやすやすと受け取る訳には行かぬ」


「ええ、当然でしょう」


「では、お主はどうやって我らを頷かせるつもりだ?」


「簡単な話です。実際に雇ってこの目で見るのです。私たちの報酬など後払いで宜しいのです。今日、ここで話した事など気にしなくてもよろしいのです。私たちは勝手に動いて勝手に勝利をしてくるのですから。そして勝利後にゆっくりと私たちの評価をして対価を払えばいいのですから。簡単な話ではありませんか?」


 俺の言葉にグラムスは黙って聞いていた。後ろの二人のうちウォルスは神妙な表情。そしてニーケルはまるで噴火する直前の火山如く顔を真っ赤に歯ぎしりをしていた。


「ですが、いくら私が勝手にするとはいえ彼らの敵はあなた方です。私が反乱軍を相手にするのは私の家族に危害が及ぶ可能性があるからです。ですが私が勝手に横やりを入れるのは、皆さんの癪に触る事でしょう。そこでどうせなら報酬も貰えるかもしれない一時的な傭兵として帝国側に自分らを売りつければいいじゃないかという事に至った訳です」


「……して、お主は対価に何を望む?」


「おっ、雇う気になりましたか?」


「勘違いするな。話は最後まで聞かぬと解からぬでは無いか」


「それもそうですね……先ほどの爆炎筒の提供と私たちの一時的な雇用……この二つの代わりに対価として、このエルシオンの統治権を全て私に譲って下さい」


「「なっ!?」」


 これに驚いたのは皇帝では無く、ウォルスとニーケルだった。先ほどから神妙な顔つきだったウォルスも流石にこの言葉は予想してなかったのか面喰った表情をしていた。


「統治権全て……つまりお主はエルシオンを都市国家にしてお主はそのトップになると言うのだな?」


 だが、皇帝だけは表情を崩さず目を瞑り耳を立てるように聞いていた。


「ええ、先ほども言った通り私が今回、反乱軍を相手にする理由は私の家族に危害が及ぶ可能性があるからです。ですが、エルシオンに危機が迫るたびに今回のような交渉が出来るかと言われるとそうでもありません。それにウォルスさんが前に家にやった来たときに私の家族を買おうとしたのですよ。勿論、到底私の家族は譲りませんが、何度もやってこられるのは正直に申しますと、面倒極まりないのですよ。では、いっそ独立してしまおう……そうすれば、まず雇うと言う催促は無くなるでしょう。そして、エルシオンに敵が来る度にこんなことをせず、勝手に一方的にやっつけてしまえばいい。そのための用意をエルシオン全域を使って出来るようにする……という訳です」


「……」


「考えてみてください。こんな圧倒的不利な状況化を都市一つ……それも支配したばかりで税率の適合も出来ていないような地方一都市を譲るだけで、この戦争に勝ち、尚且つ新型の兵器を鹵獲出来てしまうのですよ。なんなら不可侵条約や同盟でも結びますか? 私は家族が守れればそれでいいので、別に他国に攻める気なんて端から無いので全然構いませんよ? 勿論、私の家族に危害を及ぼすようであれば……その時は灰一つ残らずに消しますけどね」


 俺は最後の言葉に威圧を込めるように言った。

 僅かばかりにグラムスが震えたように感じたが、特に何事も無かったかのように目を瞑り考え込んでいる。その後ろに立つ二人……特にニーケルの方は噴火寸前……いや、あれは間違いなく噴火中の顔をしていた。そして、癇癪が爆発したかの先ほど皇帝に言われた事も忘れ怒号が飛び出ていた。


「ふざけるな!! 小僧いい加減にしろ! そのような戯言……いや、内容など断じて許すわけが無いッ! そのような事を許せば、今後我が国は他方からも舐められるわ!」


「クロウさん……私は最初あなたを見たとき只者では無いと思っていた……ですが、まさかこんなおお逸れた事を言うとは思いませんでした。どうやら私の勘違いだったようですね」


 ニーケルほどでは無かったが、ウォルスも多少なりとも怒っているようだ。感情の籠っていない声にもわずかながらの怒りを感じる。


「陛下! 帰りましょう!」


「陛下……今回ばかりは私もニーケルに賛同致します」


「……」


 ウォルスとニーケルがグラムスに問いかけるが、グラムスは何も答えない。先ほど同じ様子で黙ったままだった。


「陛下!」


「……フフ……フハハハハハ!!」


 ウォルスとニーケルの声には答えず、代わりにグラムスは笑い出したではないか。グラムスは笑い声を暫くの間続けた。その様子はまるでアニメの敵の親玉の笑い方のようだった。


「面白い! 面白いぞ! お主……いや、クロウよ!」


 グラムスが目を開け、こちらの方を向いた。その顔は実に心地よさそうな顔をしており、体の芯から笑っているのが見て取れた。


「気に入った! 今言った条件……全て飲むことにしようではないか!」


「へ、陛下!? 本気ですか!?」


「無論、本気だ! 我がこんなところで戯言など言うはずが無かろうが!」


「へ、陛下! 気でもおかしくなりましたか!? もし、彼の言った事が本当なら彼はあの爆炎に対して打ち勝つと申しておるのですぞ!? 我々の精鋭部隊が束になって手も足も出なかった相手にですぞ!」


「ああ、そうだ。普通ならあり得ぬ。だが、クロウは言ったではないか『報酬は後で良い』と……買うだけ買って損は無かろう! もし、クロウの言ってる事が本当に出来るなら実に安い話では無いか!」


「さすが、グラムス陛下。この要求を呑んでもプラスと考えたようですね」


「ああそうだ。こやつらには理解出来なかったようであるが、我には理解できたぞ。なるほど、クロウよ、お主の言った通り、我は現実を見なければならなかったようだな」


「ええ、そうです」


「この戦争。このままいけば我らに勝機は無いだろう。戦力、士気、兵器……すべてにおいて敵は我らを凌駕する力をもっている……まともにぶつかり合えば敗北は必至だ」


「「へ、陛下!?」」


「そこで我らの目の前に、お主が現れた……そして、お主は言った『この戦争を帝国勝利で終わらせる事が出来る』と……つまり嘘か誠かなど、どちらでも良かったのだ……これは交渉では無い、我らはクロウと言う名の商品を都市一個という価格で買うか買わないかの商売だったのだ」


「し、商売……?」


「ああそうだ。そしてクロウと言う名の商人は勝てば対価を払えと言っている……逆に言えば、使うだけならタダと言っているのだ。対価は効果があったときに払ってくださいと言っているのだ。なら、滅亡の可能性もある現状況を打開するのに買っても問題ないとは思わないか?」


「し、しかし、私はこの小僧が本当に彼らに勝てるとは―――」


「そんなことわかっておる! 我が言いたいのはそういう事では無い! 買って失敗しても我らに損は何一つない。逆に買って成功すれば都市一個という価格で我らは、この戦争の勝利と爆炎筒と言う名の兵器を手に入れることが出来るのだぞ? 敗北と言う買い物より遥かによい買い物とは思わぬか?」


「し、しかし、それでは我が国の威厳は―――」


「負けたら威厳は残るのか?」


「そ、それは……」


「負ければすべてが終わりだ。威厳を始めとして何もかも失うだろう。なら、例え一時の汚名を受けても勝ち残り後で挽回しようとは考えぬか?」


「……」


 完全に黙りこんでしまうニーケル。完全に圧に屈した形となっていた。そんなニーケルの事は無視してグラムスは俺に話の続きをした。


「クロウよ。先ほどの話の件だがそちらの条件を飲む代わりに、こちらかも条件を出すが良いか?」


「ええ、勿論構いませんよ」


「ならまず一つ。反乱軍のリーダーであるミロ・ザームを捉えて我の目の前に連れてこい。だが、ただつれて来るだけでは駄目だ。彼に組した者にそれ相応の罰を与え、奴自身にも死なない程度に罰を受けさせて来い。お主なら可能なのだろ?」


「ええ、可能ですよ。死なない程度に地獄を見させて来ましょう」


「よし、なら二つ目、勝利した暁には約束通りこの都市をやろう。だが、それと同時に我らと半永久同盟を結ぶこと。お主に攻める気が無いのであれば、半永久的でも問題無かろう?」


「ええ、勿論構いませんよ。ただし、そちらから危害を加えようとしたならば、その話は勿論無しです。帝国から手を出さないのであれば、私たちも決して手を出す事は無い事を約束しましょう」


 なるほど……もし、勝つことが出来たと言う事は、俺が反乱軍を鎮圧したことになる。それほどの力を持っている者が配下にならないとなれば、次に考えるのは敵対しないことだからな。賢明な判断だろう。


「そして3つ目……お主は今店をやっておると聞いた。当然、あのポーション以外にも色々な物が売ってあるのだろ?」


「ええ」


「では、今後お主が作った商品は優先的にこちらに流すのだ。勿論、安く買いたたくつもりはない。ただ、優先権だけ我らに譲れば良い……どうだ?」


「そうですね……帝国側には格安で販売することもオマケ付けてあげましょう」


「フハハハハハ!! 本当に欲が無いのお主は! 欲しいのは奴隷……いや、家族の安全だけなのか?」


「いえ、それと家族の幸せですかね」


「フハハハハハ!! そうか! 分かった以上の内容でお主を雇おうではないか! そうそう、反乱軍を相手するにあたって民を巻き込むのは必要最小限にすることもお願いしようか」


「あなたは強欲ですね。では、それも内容に付けて合意といたしましょうか」


「決定だな」


 俺とグラムスはガッチリと握手をした。これを最後にここでのお話は終わった。後日詳しく書いた協定書を発行するらしいが、ここで俺とラ・ザーム帝国の契約が成立したと言っても過言では無かった。


 こうして、ジーク歴1098年8月4日。歴史上に初めてクロウが登場することとなったのだった。


 そして、この日結ばれた協定は後日『エルシオン協定』と呼ばれることとなるのだが、それはもっと後の話である。

 今回は長くなりました。と言うか書くのが止まりませんでした。やっぱり戦記物とかで協定とか会談の中身を書くのは楽しいですね。


 では、次回もよろしくお願いします。

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