第171話:エリラのお願い・前編
投稿遅れて申し訳ありません。内容をガラリと変えたのはいいのですが、もう少し計画性を持った方がいいと反省しました。
「……」
目を瞑り、真っ暗闇に溶け込むかのように気を張り巡らす。
エルシオンから遠く離れ、周りに誰一人も居ない山岳地帯。俺の目の前には巨大な岩がそびえ立っている。
「……!」
拳を構え、一気に魔力を集束させる。ボッと拳に火が纏わり付き、さらにそこから水が噴き出した。本来打ち消し合うはずの両属性。だが、反発し合う事は無く、むしろお互いに足りない部分を補うがごとく綺麗な渦を作り上げた。
―――《火水・龍渾撃》!!
作り上げた魔力の塊を岩目がけて全力で叩き込む。ゴッ! と硬い物がぶつかり合う音が聞こえたかと思えば、次の瞬間ピシッ! と砕ける音が聞こえ岩に亀裂が走る。
そして、拳に集束されていた火と水がまるで噴火でも起きたかのように噴き出すと、岩に突き刺さり意図も簡単に貫いてしまった。
高温の炎により溶けたところに高水圧の水による叩き付け、さらに龍属性を付与した攻撃なので威力は言わずも知れず。貫通力も申し分なかった。
バラバラと目の前で崩れ落ちる岩を見ながら俺が一人満足していた。
―――称号《理を破壊する者》を取得しました。
―――スキル《強制融合》を取得しました。
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称号:理を破壊する者
取得条件
・相反する属性を何らかの方法で組み合わせ魔法として成立させること。
効果
・全属性融合を可能とする。
・分子レベルで魔法を扱えるようになる。
・魔力極大アップ
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スキル:強制融合
分類:魔法スキル
効果
・どんな物質でも強制的に組み合わせることが出来る。
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いや、だからなんでこんなスキルが取得できるんだよ。
最近、俺は神にでもなってしまったのかと思ってしまう。何故自然界の法則を完全無視したスキルを俺は覚えてしまうのか……。
いや、だけど今回はそれ目的だからいいんだ。
俺は無理に自分の心に納得させる。
エリラたちを成長を見て、俺も負けていられないと躍起になった俺は、エリラが外に抜け出したのを見計らって鍛えることにしたのだが、レベルアップの余地は殆ど残されていないと俺は考えた。
いや、これでは語弊を生んでしまうか。分かりやすく言うと、レベルを上げにくいと思ったのだ。
何故なら俺の知っている範囲で地上世界には300を超えるレベルを持つ相手はいない。ならあの自重しないゴーレムでも作ればいいじゃないかと言う話になるのだが考えてほしい。
国一個を潰しかねない国家戦力級の人(?)が二人、まともにぶつかり合ったらどうなるかを。
阿鼻叫喚……そのレベルで済めばいい方かもしれない。下手をしたら天変地異ものだ。そういう意味では幼少期に行ったあのチートレベリングは本当に綱渡りな事だったんだと思い知らされる。
で、代わりにどうするのかと言う話になったのだが、武器の制作。や人員補充。と次に考えたのはスキルや称号による強化だった。
で、試しにさっきやった結果がアレと言う事だ。
ただ、そんな異常なスキルや称号が簡単に手に入る訳では無く、その後は特にコレといったものは入手出来ず、結局この日はこのまま帰ることになった。
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「お帰り」
家に帰り自室に戻るとエリラがベットの上に座っていた。
「た、ただいま」
「どこ行ってたの?」
「んー……訓練?」
何故か疑問形になってしまった俺、まあ、アレを訓練と呼ぶかどうかは怪しいしな。
「……もう十分強いのに?」
少し間があったのち、エリラが真剣な眼差しで聞いてきた。
「強さに完全は無い。本人が上を目指し続ける限り終わりなんてものは無いよ」
サラッとそんなことを言って椅子に俺は腰を降ろした。今の俺すごくかっこいいと思った俺は末期と思うんだ。
エリラがベットから降り、《倉庫》から剣を取り出した。そして、無言のまま俺の前まで来ると、俺が教えた正座をした。
「? どうしたんだ?」
「お願いがあるの」
お願い? お願いなんかよくされるけど、こんなにきちんとした形をしてのお願いは初めてなような気がする。
もしかして、やっぱり傷を治して欲しいのかと一瞬思ったが、エリラに至ってはそんなことは無いなとすぐに考えを振り払った。それに剣を出した理由にはならないしな。
「……私と修行……いやと戦って欲しいの。それも試合などといったレベルじゃない……本物の実戦をしてほしいの」
「実戦……? 前に俺とやった訓練では不満ということか?」
もっとも、その訓練ですらもエリラは殆ど俺に手を出せない戦いばかりだった。俺としては内心少し罪悪感があったほどだ。
「……そういう訳じゃないの……私……強くなりたい……クロと一緒に皆を守れるようになりたいの」
「強くか……」
今のエリラだってちょっとした人外レベルなんだけどな。これ以上強くなったらインフレってレベルじゃすまされない気がするのだが。
「私が捕まってクロが助けてくれたとき、クロが私と一緒にいたいって言ってくれて嬉しかった。だけど……守られているばかりは駄目だと思ったの……。それから真剣に自分と向き合ってトレーニングをしてきたけど……」
ああ、なるほど。あれからずっと一人でやっていたのはそんな事を思っていたからか。
「……最近、レベルの上昇が頭打ちになっていたでしょ? それも鑑みて一人じゃ限界が来ているんだと思ったの……」
「で、俺に改めて特訓をお願いしたいと言う事か?」
これで合っていると思ったが、意外な事にエリラは首を横に振ったのだ。そして、彼女が次に放った一言は俺の思考を止めるには十分な一撃だった。
「私を……潰してほしいの」