第172話:エリラのお願い・後編
前回のあらすじ。エリラがMになりました(棒)
……いやいや、そんなわけあるかぁ!
「……ちょっとまて、脳内整理するから」
そう言ってエリラに待ってもらい。俺は考え出した。
潰してほしい? 一体どういうことだよ。特訓とかじゃないのか? 潰すって、なんだエリラをフルボッコにしろとでも言う事か? やっぱりM……いやいや、違う。きっとそうだ。俺は信じている。
……レベル……頭打ち……! そうか!
「……格上相手と全力で戦ってレベルの底上げ……またはスキルや称号の獲得か?」
「……うん……卑怯な事かもしれないけど……」
「いや、そうは思わない。少なくとも俺は正攻法だと思うぞ。ただ―――」
「ただ……?」
「……それはやめておけ」
「……なんで?」
「全力の俺なんて命が何個あっても足りないぞ。《不殺》スキルは死亡を回避できても痛みまでは回避できない。いや、むしろ本来なら致死ダメージで即死の攻撃のはずが、代わりに死ななかった場合の痛みを全て受けることになる」
俺は自分を高く見ているつもりはない。だが、例え自分を過小評価しても俺とエリラの間にある力の差は覆るとは思えなかった。
「……」
「それにそんな攻撃を受ければいくら回復魔法で傷を塞ごうがすぐには完治しないはずだ」
一見、俺が持つ治癒魔法は万能かと言うとそうとも言い切れない。前にも言ったように魔法では蘇生や即死系の攻撃は出来ない。
回復魔法は自然治癒能力を高める効果があるのは前に話したが、過去の俺みたいに腕が丸ごと一本潰されたとなれば話は別だ。
この場合、まず魔力がその人の細胞の情報を読み取りそこから魔力が皮膚など身体の一部の代わりとなりそして癒着する。
魔力万能説。恐らく魔法で出来ないのは蘇生と即死だけなんじゃないかと思う。
でだ、身体の一部になった魔力は簡単にはなじんでもらえない。癒着するにはそれなりの時間を要す。こればかりはいくら俺でもどうしようもない。
で、癒着するまで傷口は非常に脆くなっている。そんな時に無理に動けば当然傷口を開いてしまう、この場合に出来た傷を治療するのは普通に治療するのと比べ膨大な時間と魔力を消費しなければならない。
つまり、俺が何を言いたいかと言うと、そのような非効率な事をする理由が無いということだ。それなら俺との手合わせを毎日やった方がいい。
そんなことは、エリラも重々承知のようだった。
「ええ、分かっているわ。だから治療はしない……《不殺》スキルだけで耐えて見せるのよ」
「……理論上は可能か……だが、死ぬよりも辛い痛みをもったまま、まともな戦闘が出来るのか? まともな思考が出来るのか? 魔法の詠唱が出来るのか?」
確かに《不殺》スキルで痛みだけの設定にすれば論理的には可能だが、少なくとも俺は出来る気がしない。想像してみてくれ、致死ダメージを受けたまま戦っている自分の姿を。俺だったら逃げ出しちゃう自信がある。
「やってみせるわ!」
「……」
「それで強くなるなら……それでクロの隣で戦えるなら……私はどんなことでも耐えてみせるわ!」
「……」
どうするべきか……俺としてはエリラが隣で一緒に戦ってもらえるのは嬉しいし、俺と張り合えるぐらいの強さになれれば心強いこと間違いなしだ。
だが、どうしても俺はそれを実行に移す気にはなれなかった。それにリスクもある。強烈な痛みを受けてそれに精神が耐え切れなかった場合……それは人としての終わりを予期するものになる可能性がある。戦闘に強烈な恐怖も覚え二度と剣を触れることが出来なくなる危険もあった。そうなれば、エリラが俺のためにと思ってやってくれた努力が全て無に帰ってしまう。
家の庭で皆が必死で訓練をしている中で、一人ポツンと取り残されたエリラ……そんな光景想像出来ないし、したくもない。
「お願い!」
エリラが俺の足元で必死にお願いをしてくる。
「迷惑かもしれないし、そんなことクロはしたくないと思ってる……でも、それでも私は―――」
「分かった!」
「!?」
「だけど約束だ……俺が無理と判断したときはやめる。そしてが起きてもいい覚悟を持つこと……いいな?」
「……分かった。約束する」
「……庭に出ろ……見せてもらう、その覚悟を」
結局、俺はエリラに折れる形で了承をすることにした。したくないのが俺の本音だが、エリラが簡単に折れるとは思えなかったし、俺の隣で、とお願いされては断りにくかった。
それよりも、あの約束を守れなくてエリラが折れる可能の方が十分にあり得るしな。
こうして、俺はエリラのお願いで実戦と言う名の本気の戦いをすることになった。悲惨な結果になるのは既に分かっていることだったので、俺は子供たちに庭に出ないようにと命令をし、大人たちにも極力でないようにとお願いしておいた。
……血の池が見えそうだと思っているのはきっと俺だけじゃないはずだと。
===2017年===
04/16:誤字を修正しました。




