第164話:まずは食べ物から
今回から第5章が始まります。前回の後書きに書いた通り今回の章は少し小休憩のお話になります。
戦闘回などを楽しみにしている方には本当に申し訳ありません。
代わりにこの章では久々に称号などを沢山取り入れますので、クロウの人間離れした技をのんびりと見て頂けたらなと思います。
「と、いう訳で作りました」
「……へっ?」
「だから、農地を作りました」
目の前に広がる一面の耕作地。
翌朝……まだ日の出前だったが、俺はこの前作った農業区(俺の心の中での名称)の所で更なる拡張をした。攻撃によって荒らされた部分は多少あったものの、大体の部分は残っていた。
魔物が相手なので食料の事など無視して踏み荒らしそうだなと思ったが、彼らも生き物なのでこの区画は残そうとしていたみたいだ。恐らくだが占領後にコボルトやゴブリンみたいな下級魔族などに耕させるつもりだったのだろう。もっとも人間と同じものを食べるとは限らないので変な物を埋められそうで怖いが。
さて、そんな話は置いといてエルシオンの地理をまずは整理しようと思う。
エルシオンの北部と西部は平原が広がっており南部と東部には森が広がっている。さらに南部の森を抜けた先にはクローキ火山というかつて龍族が拠点としていた火山地帯がある。そこの龍族は全滅させておいたので今はもう無人の拠点があるだけとなっている。
そして、エルシオンは北にメレーザ。西にハルマネがあり交通の便などはいい方になる。東に行くと海岸線と山岳地帯があり魔族たちはその山岳地帯か、またはその先に住んでいると言われている。もっともその場所は遠くに離れておりエルシオンと隣接しているとはいえ、襲われる心配はあんまりなかった。
南西部には他の国との国境地帯が広がっており、常時500名ほどの兵士が待機していたと言われているが、国が事実上滅んでしまった今、他国が制圧していると予想される。
南西部に位置する国は二つある。
一人の王が長年支配している国「ラ・ザーム帝国」。
同じく一人の王が国を支配しているが事実上の共和国の「クロリアル共和国」。
二つとも強力な軍隊を持ち長年アルダスマン国と争っている国家だった。その国家が全て隣接しているのがエルシオンの遥か南西部に位置する「シャヌダリア平原」となっている。
ちなみにこのクローキ火山とシャヌダリア平原の中間にある山岳地帯に俺が生れた家がある。もっとも、平原と火山の本当に隅っこの位置にあるのでかなり遠い所にあるのだが。
話が逸れてしまったが、この2か国のうちのどちらかが支配している可能性が高いという訳だ。絶対とは言い切れないのは未だに龍族の力が強い場所でそこを制圧するメリットが少ないので、放棄されている可能性もあるからだ。
ストテラジー系のゲームでも空白の地帯が隣接していたら取りに行くけど、周りの敵国に囲まれてしまうような所に無駄に兵士を送って守れない領土を増やすなんて事はあまりしないからな。まあ、守れないならだけど。
んで、平原の方は作物を育てると言う事で耕そうとしたのだが、難民の数とエルシオンにいた人口を合わせてどれくらいの大きさがいるのか見当もつかなかった。
そもそもここの世界の主食は小麦である。中世のヨーロッパで一人を養うのに必要な農地と中世の日本で一人を養うのは規模が全く違う。日本が狭い国土で何千万人(江戸時代は約3000万人が住んでいたとされる)もの人を養えたのは水田による稲作農業の力によるところが大きい。
今でこそ日本の自給率は低いが、江戸時代では3000万人もの人々がほぼ日本国内で出来た食べ物を食べて過ごせていたのだから昔から低いわけじゃない。(まぁ、昔と比べて食べる量などは全く違うが)
俺も詳しく知っている訳では無いが、確か収穫量で言うなら小麦が1haで約3.5tくらいに対してお米は1haで約5.0tもの取れ高があったそうだ。
さらにヨーロッパではこれに酪農などで餌の分が消えて行ったのに対して、日本では肉(正しくは仏教で4足の動物が)を食べる事は禁止されていたので、お米などはほぼ人間の胃に入っていくことになる。
現代の地球が90億人ぐらいが限界と言われているが、どこかの本で草食になればもっと多くの人を養えると言っていたのはある意味当たっているよなと思った。
とまぁ、以上の理由で俺の感覚で農地を拓いても失敗するのは目に見えている。前回は一時的にと言う事で作ったが今回は違う。下手をすればポリス(都市国家の事)見たいな生活を強いられる可能性も無きにあらずなのだから。
……近隣の国々が寛容的にエルシオンを向かい入れることに期待しておくか……。
聞けばいいのだけど、正直どれくらい必要かなんて農地を管轄している人に聞かないと作っている本人たちも分からないことだろう。てか、測量とかしたことあるのかるんだろうか……。
日本とは違うことだらけなので(てか、日本基準だとしても分からないよ)手探りでやるしかないな。
という訳で、まずは小手調べに前回のに加え2ha(20,000平方メートル)分を新たに追加で作っておいた。残りの部分はその手の本職の方に任せましょう。
―――特殊条件【人間重機】を取得しました。
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称号:人間重機
取得条件
・一人で一日あたり3,000平方メートル以上の農地を制作すること。
効果
・分析系スキルで土の養分などが調べられるようになる。
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……どうやら、【自称】は必要なくなったようです(泣)
あれ? てか重機とかこの世界にあるの? 専門職の人に前聞いたけどそんなものは無かったはず……これしか表現方法が無かったのかな?(※作者の脳の限界です)
と、まあ色々あったがこんな感じで農地を開拓したのだが……これを見たミュルトさんは唖然としていたと言うよりどこか遠いところを見ているような何とも言えない奇妙な表情をしていた。脳がオーバーヒートしてしまったのか、それとも考えるのをやめてしまったのか……。
「えっ……えっと……良く分かりませんがありがとうございます?」
何故、疑問形なのだ?
本当はここでガラムを何故あんな表情で見ていたのか聞こうと思っていたのだが、肝心のミュルトさんはお礼の言葉に疑問形を付けるほど頭の中の処理が済んでいないようでしたので、また後にしようと思いました。