第159話:半壊の魔法学園の一室にて
「……話すよ……」
「おk」
半壊の魔法学園の教室の一角を借り、俺はサヤとリネアからお話を聞くことにした。
半壊と付いてある通り、魔法学園の校舎は3割~4割ほどが崩れ落ちたり亀裂が走っていた。その中でも被害が殆どない教室をで二人と話すことになった。
これ、日本なら間違いなく立ち入り禁止区域になっている場所だよな……。廃校というより廃墟と言った方が正しい光景が窓から見えた。
「……結果から言うと……襲ってきた魔物は何とか処理できた……」
俺が確認した魔物たちはどうやら倒せたようだ。まあ、一般人の作業風景やリネアの発言から大体予想は付いていたけど。
ただ、勝ったのはいいが、街の様子を見るとかなりの乱戦だったと思われ、生徒たちもかなりの数が死んだのではと思っていた。
しかし、その心配はどうやら無用だったようだ。
「クロウさんの《自動防御》のお蔭で怪我をした人は居ましたけど死者は居ませんでした」
リネアが笑顔で言った。それは良かった。
でも、そうなるとあの町の壊れ方はなんなんだ?
その答えもすぐに分かった。
「……敵が持っていた棒みたいなものから火の玉が飛び出して……前衛を相手しているときに後方からかなりの数が打ち込まれた……」
おそらく《爆炎筒》の事だな。
「大体どの辺で迎え撃ったんだ?」
「西門……」
西門……つまり街には殆ど侵入されていないで一方的に撃たれたと言う事になる。
街を見た時に見えた被害状況と迎撃位置から推測するに、《爆炎筒》の射程距離は1キロ~2キロ程度と言う事になる。
……ってマテヤ、大きさは小銃ほどしかないのに飛距離が1000メートル以上? 一体どんな仕組みになっているんだよ……。
《爆炎筒》の事はそこまで詳しく調べていなかったので、予想以上の飛距離に俺は驚いた。だがそれ以上に驚いたのは魔族側がこれほどまでの技術力を持っていることだ。
当然だが、人族側にはそんな高度な技術は無い。クロスボウなどの遠距離系射撃武器は魔力を使わない代物だし、魔力を使っても数百メートルが限界のはずだ。
魔法単体では数百メートルの距離を打つことが出来る事魔導士はごく一部だ。何故ならスキルレベルで言うなれば7以上を要する超高難易度だからだ。
威力を抑えて距離を伸ばす方法もあるが、そうなると殆ど殺傷力は消えてしまうので使えないらしい。
まあ、仮に《爆炎筒》レベルの魔法を一人が撃とうとするならば、従来の平面魔法式では駄目だ。魔力の消費量が馬鹿にならないからだ。
ではどうすればいいかと言うと、俺がリネアに教えた立体魔法式を作らなければ実戦では使い物にならないはずだ。
本格的に話したら長くなるので、簡単に話すと平面魔法式は足し算や引き算。立体魔法陣はそれに加え掛け算や割り算、括弧を加えたものになる。
例えばだが、威力20の魔法があるとしよう。
これを1と2のみで表そうとすれば
平面魔法式 = 2+2+2+2+2+2+2+2+2+2 = 20
立体魔法式 = (2+2+1)*(2+2) = 20
と、同じ威力20の魔法を撃とうにも式の長さ……ここでは魔力消費量を表すのだが違いが出て来るのが分かるだろう。当然、少ない方が魔力消費量も少なくて済む。
本来ならここに加速魔法式などの制御系魔法式なども加わって来るので実際はこんな安価な計算式では無いんだけどな……。
これはまだ威力20と低めの数値だから差はそんなにないかもしれないが、魔力が増えれば増えるほどその差は開いていくことは忘れてはならない。
あと、この世界の常識では括弧や乗数など使い勝手の言い式は無いので、リネアが覚えた魔法はどの国も喉から手が出るほど欲しい技術になる。……まあ、立体魔法式の時点で既にこの世界に(少なくとも人間には)持っていない式なのであるが。
さて、話を戻して西門あたりで迎え撃ち無事に迎撃に成功したのはサヤとリネアの活躍によるところが大きいのは間違いないが、話を聞いてみるとランクが低い魔物が多かったので特待生は勿論、一般生徒もかなり頑張ったとのこと。
そして、その戦いの前に主にカイトといざこざがあったことも聞いた。
「……そうか」
「クロウさんは何も悪くありませんよ、あの人たちが勝手すぎるのですよ」
俺が落ち込んだと思ったのかリネアが励ましてくれた。実際、へこんでも無いけど。
もっとも、今回の一件を受けて俺はある決断をしたのだが、それはまた後にして、一通り話を聞き終わった俺も、救援活動に参加することにした。
《マップ》で瓦礫の下敷きになっている生存者を見つけ出し、見つけ次第、魔法で本人を囲みあとは周りに被害が行かないように撤去をするという作業を淡々と繰り返した。
その途中火事になっていた家を見つけては水魔法で消化したりもした。
人が数百人単位でやっても何時間かかるか分からない作業を俺は一つ数分で済ませてしまい、街の住民たちはひっくり返るほど驚き、「これ、俺たちいらなくね?」と呟く者もいた。
その後は、怪我をした者たちを一か所に集めてまとめて治療をした。骨折していたい大やけどをしていた者たちが全員一斉に治ったので、人々は俺を「神の使いだ!」とかなんやら言って崇めて来る事態が発生した。あれ? この流れ前にもあったような……。
そして、一通りの作業が終わる頃には、俺はハルマネの街の人々に神徒とか言われて崇められる羽目になっていたのだった。
アレ―? コンナ ハナシ ジャ ナカッタ ノ ダケドナー?