第160話:部隊長交代
「全く……いつの間に戻っていたのよ……」
一通りの救出作業が終わったのち俺は特待生たちと集まっていた。
セレナやローゼ、シュラなどは事情を聴いて納得してくれたのか今まで通りだった。ただ、その他のメンバー……ここではテリー、ネリー、カイトになるが、彼らは顔が少し怖かった。もう見た瞬間に「あっ、これ根に持ってるわ」と思ったほどだ。唯一の救いはカイトは包帯をグルグル巻きにしていたので怖さ三軒だったことぐらいか。
「えーと……午前中かな……」
「それで、エルシオンの方はどうなりましたの?」
「ああ、何とか間に合ったよ。まあ、被害が全く無かった訳じゃないし、色々あったけどな」
エリラの事がチラッと頭に浮かんだが、この人たちに言う必要は無いとすぐにかき消す。ただ、リネアとかサヤはエリラと結構仲良くしていたのでどうしようか迷ったが、また会った時でいいか。
「夜に出て朝に戻って来るって……一体どうやったら出来るのよ……」
エルシオンとハルマネまでの距離は強行でも2~3日かかる。それを時間にして僅か10時間足らずで行き帰りして戦闘もしてとなるとそりゃ物議になるよな。
「まあ……色々してな」
取りあえず適当にはぐらかして置くことにする。移動方法を知っているサヤとリネアはお互いに顔を見合わせ納得したのか頷いたのち一緒に明後日の方を向いていた。
「ふぅん……まあ、クロウならねぇ……」
「クロウさんですからねぇ……」
「クロウだしな」
何故か俺と言う事で特にそれ以上言われることは無かった。うん……それ以上言わない事は嬉しいんだけどよ……なんでだろう……涙が出てきそう。
「で、これからどうするんだ? エルシオンもそんな状態じゃこっちばかりとは言えないだろ?」
そう言ったのはシュラだった。
「そうよね……家の方にも被害は出たりしたの?」
「ちょっとだけだけどな。今回は壊された南地区からの侵入だったからよかったけど北地区から侵入されたら不味かったかもしれない」
今回の件で俺が不在の時に、彼女らを守る盾が全く無い事を痛感した以上、ハルマネに滞在を続ける訳には行かない。
職務放棄と言われようとも大事なのを守るためには決断をしなければならないようだ。
「……エルシオンに戻るべき……」
サヤが俺にエルシオンに戻るべきと提案をする。援護射撃ありがとうございます。
「……ああ、悪いけどこれ以上エルシオンを放置する訳には行かない……エリラたちの事も考えて俺は降りさせてもらうよ」
降りる……それは隊長をやめると言う事だった。エルシオンに戻る以上部隊の隊長は降りなければならない。隊長がいない部隊のままにする訳にはいかないからだ。
「……それが正しい……」
「そうね……不安だけどそればっかりは仕方が無いね……」
「戦力不足は否めませんがそれはこちらで何とか補うしかありませんわね」
皆が納得をしてくれる中一人反論する者もいた。
「……俺らの存在は|アレ《クロウの家にいる獣族たち》以下かよ……」
何やらカイトがポツリと呟いた。結構大きい声だったがので俺の耳にも当然届いている。
一瞬、ぶちのめそうかと思ったが
「では、その辺のお願いは理事長に報告をしなければなりませんわね」
「隊の編成も仕切り直しかな?」
「おい、でも国の命令で徴兵されている以上、逃げるのは駄目だr
「そうですわね……暫くは何もないといいのですが……」
「おい、話をk
「……なんとかする……」
セレナたちの会話に遮られた。おそらくだが、彼女たちもカイトの声が聞こえたが、あえて無視をしたのだろう。その証拠によくよく見てみるとサヤが目でセレナたちに何やら合図をしているように見えたからだ。
事情を察してくれているのもあるが、俺にはカイトは居ない存在……空気扱いをされているように見えた。
「じゃあ、全員で理事長室に今から行かない?」
「そうですわね……理事長にはまだ何も話していないので報告も必要だと思われますわ」
「それならリーファ辺りは一緒に付いてきてもらった方がよくねぇか?」
「おいっ!!」
スルーされる空気に耐え切れなくなったのかカイトが大声を上げた。そんな彼にサヤが振り返る。ただその目は死んでいる……いや、ジト目をしてどことなく近寄りがたい雰囲気を作り出していた。
「……あんたは……話に入るな……」
「何でだよ!? 俺も関係あるだr
「……黙ってなさい……それとも何……? また沈められたいの……?」
気付くとサヤの拳に風が纏わり小さな気流を作りだしていた。恐らく、あの拳に殴られたら最後、皮膚を切り刻まれ、内臓にまで損傷を与え痛みの中で死んでいくのだろう。サヤさん怖いっす。
その様子に先ほどまで威勢の良かったカイトも
「あっ……いや、なんでもねぇ……」
あっさりと萎んでしまった。襲撃される前に彼とのいざこざがあったことは聞いていたが、よほどこたえたんだろうな……。もっとも、俺もカイトの立場だったら引き下がる自信はある……いや、逃げだすわ。
「じ、じゃあ早速行こうや」
シュラが場の空気を読んで催促をしたのでそれに乗っかり理事長室へと向かう事になった。GJやシュラ。
「ええ!? 隊長を降りる!?」
まぁ、そんな反応になるよな普通。
「ええ、エルシオンで被害が出た以上、俺としてはあちらを優先させてもらいます」
だが、俺はそんなことお構いなしに答えた。実際、最初は来る気すらも無かったんだけどな。
「……」
アルゼリカ先生は顔の前で手を組み、俯いた。
「……私としては残ってもらいたいのですが……」
「ええ、それは分かっています。ですから隊長は降りますが一生徒として部隊に残らせてもらいたいのです」
「ですが、クロウ君はエルシオンに戻るのでしょ? 在籍していてもそれは居ないに等しいn
「ええ、分かってますよ。その辺は手を打っています」
そういうと俺はエルシオンを出る前にニャミィに渡したのと同じ水晶を取り出した。
「? それは?」
「仕組みは詳しくは言えませんが、これに俺を思いながら魔力を送れば俺に伝わるようになっています。緊急時にはこれを使ってください。すぐに駆けつけます」
そう。あのニャミィに渡した水晶を今度はこちらに渡しておくのだ。当然、何も改良はしていないのでリスクはエルシオンのとき同様にあったが今はこれしか無いので仕方が無かった。
アルゼリカ先生はその水晶を手に取るとまさぐるように見回した。聞いたことも無いアイテムなので本当かどうか気になるのだろう。
ただこれを教えるとなると《共鳴》スキルの存在がばれてしまうので教える訳にはいかない。
と言うのも、エリラの一件もそうなのだが、俺の予想が当たればこれからこの地方は大変な時期に入るだろう。龍族もそうだが、魔族や人間たちといった敵対勢力の動き方によってはエルシオンやハルマネも戦火に飲み込まれる可能性がある。
ただえさえ俺の周りには問題が転がりまくっているのに、そこにさらに別の問題が転がって来るとか洒落にもならない。
と、これからどうなるか分からない以上下手に自分の技術を他人においそれと渡したり教えたりするのは決していい手とはいえないことだ。
「……いいでしょう。クロウ君にはこの街を救ってもらった礼もありますので、今回は特別に許可しましょう……ですが、クロウ君、本当に何かあった時は駆けつけてもらえますか?」
「ええ、勿論ですよ。約束します」
「……分かりました。その言葉を信じましょう」
アルゼリカ先生も色々言いたいことはあったのだろうが、ここはグッと抑えたのだろう。何とも言えない複雑な表情がそれを物語っていた。
もっとも、ここで断ろうが強行するつもりだったしな。アルゼリカ先生は多分「ここで言い争っても良いことは無い、むしろ助けてくれると言う今のうちに彼の願いをかなえるべき」と考えたのだろう。
「……ですが、隊長の役は誰が……?」
「……私がやる……」
「!? サヤっ!?」
「……いいでしょ……?」
「い、いや、それはそれでいいけど……本気? クロウが隊長をやった時にあなたも見てたでしょ。隊長役がどんなに大変なのか……」
「……承知済み……」
「……分かった……お願いするぞ……サヤ……」
サヤがコクリと頷く。
「……任せて……だからクロウも……エルシオンを絶対に守る事……いいね……?」
サヤにそんなこと言われたら頑張るしかないじゃないですかー。
「ああ……約束する」
サヤとしっかり握手をしお互いにしっかりと頷く。
「……なんか変な雰囲気ですわね」
「むー」
ローゼとセレナが何かを言っているが聞かなかったことにしておこう。
こうして、部隊の方はサヤに任せ俺はエルシオンに戻る事になった。
戻ったらまずは何をするべきか……
家を安全にするために色々作らないといけないし、例の薬のこともあるし、ガラムの件もあるし……。
スキルもまだ強化出来たり新しく作れるのもあるだろうし、とやる事があり過ぎて頭がこんがらがってしまいそうだ。
だが、そんな俺をさらに悩ます出来事が起きるのであった。




