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後篇




高校1年生になった年。僕は家族ぐるみで仲良くなった伏見家へ色々と学園内の改造をそれとなく進言して進めてもらっていた。有名進学校でもあり通称金持ち学校と呼ばれる学園なだけあって学園を囲う塀や出入り口には監視カメラがあるのだが、やっぱり今はいじめ等の問題もあるので学園内にも監視カメラを置くべきだ、とね。

そして、それを知る事と確認することが出来る者を教師は勿論の事、生徒会と風紀委員に限るべきなどの案は全て採用されてみぃが入学するまでに全ての準備が整った。


表向きは学園内の治安維持と安全性の為と、昂柳と共に上を言いくるめて僕たちの都合よく学校を整えてやった。だけど、僕らにとっての本当の使い道は僕らに近づこうとする害虫の排除のための動向を探る事。勿論みぃの安全は言うまでもなく最優先事項ではあるけどね。

だから、それを駆使している為あれが入学してから必要最低限しか姿を現さない僕らにあの女はとても荒れている。何故知っているかって?勿論隠し部屋から見ているからさ、ほら今もね。


「なによなによ!あの女は思ったイベント起こさないし!!魁様と昂柳と中々接触できないし!!現実とかふざけんじゃないわよ、この私が主人公な世界なのよ!この私がみんなから愛される世界なのよ!全てが私の思い通りにならなければいけない世界なのよ!!」


放課後の誰もいない旧校舎の2階にある1室で地団駄を踏むのは、自他共に外見だけはとても可憐だといえる主人公でもある女。だが、夕日に照らされたその顔は般若の様に歪みとても見苦しい事この上ない。


「シークレットの晴久と大稀センセがすんなり出たことには嬉しかったけど!それに斎賀魅のやつ、見た目から違うじゃない!何がお姉様よ!キモいんだよ!!もうもうもーーう!!許しがたいわ、魁様がシスコンとかあり得ない!!魁様は私だけを見て、私だけを愛して、私の事だけを思って、私とだけ居ればそれでいいのに!!あの微笑みもあのイケボも綺麗な手も美しい髪も、斎賀家の“黒真珠の指輪”もすべてすでに手に入っているはずだったのに!!」


髪を振り乱しながら叫び、自身の鞄を壁に投げつる様はまさに鬼婆と例えたってあながち間違いじゃないよね?そんな事を思いながら冷めた目で見ている僕らの前で、あの女はそのまま鞄から出てしまった中身の教科書などをこれでもかという程に踏みつけている。

その教科書類・・・僕らにとっては普通の教科書だけど、一般人の君にとっては中々手が出ないモノなのに。新しいのちゃんと買えるのかい?


「くそっくそっ!!この1年、鷹彰だってゲームとは違って何でもかんでも買ってくれるわけじゃないし、“大真珠の髪飾り”だって貰ってない!あの明斗や将彦の家族イベントも起こらないから貰えるはずの“翡翠のカメオ”や“スターサファイアのブローチ”が手に入んないじゃない!あれらがないとエド様が留学してこないってのに、使えない!!」


散々踏みつけ所々破れた教科書を、荒い呼吸をしながら見下ろした主人公を名乗る柿本かきもと美咲みさきは、ハッと何かを思いついた様な顔をしたのちニヤリと笑うと別においてあったセカンドバッグから絵具を取り出して、そのままキャップを開けると散々踏みつけられた教科書にかけ始めた。


「そうよね、そうよ。イベントが起こらなければ起こせばいいんじゃなぁ~い。やだ、も~。何がどんな風に起こるか知っているんだから!みさきってばぁそんなかぁ~んたんな事思いつかないなんてぇ、んもぅどじっこ」


一通り下準備をした美咲は教室の後方に不自然なまでに存在感を放つ巨大鏡に近寄り、散々暴れたために乱れた髪をセカンドバックに入れていたコームで梳かしメイクも直すと、満足そうに微笑んだ。


「あぁんもう~~・・みさきってばチョ~~可愛い!残り半年しかないけど、みさきの世界なんだから大丈夫~!きゃ~っ、目指せコンプリートハーレム!!」


てへっとかわい子ぶって、美咲はぐしゃぐしゃにした教科書を持って早足にその教室から出て行った。


その一部始終を否が応でもその眼で見てしまい、顔をひきつらせた男と怒りを湛えた男に見られているとは知らずに・・。



旧校舎の今まで美咲が居た教室の巨大な1枚鏡がゆっくりと動き、美咲が散々叫んでいた室中に出てきた二人の男。二人は鏡の裏にあった小部屋から美咲の足音が聞こえなくなってから、巨大な鏡を動かしてそこから出てきたのだ。


「・・・醜い上に浅ましい。しかし、何故表には出していない筈の各家の家宝をあの女は知っている?」

「まるで泥棒・・いや、それ以上に性質が悪い。まぁ、今に始まった事じゃないけどね。けれど、これで明日にはあの女は僕らのみぃに何かを仕掛けてくるね」


あの女、マジックミラーの裏で一部始終を見ていた僕と昂柳の事最後まで気が付かないとはね。小声で昂柳と会話をしながら、外から見えない様に窓から冷めた目で下を見下ろせば、まさにスキップをしそうなほど浮かれて歩く自意識過剰な主人公を名乗るあの女が歩いて本校舎に戻っていくところだった。


確か、斎賀家の黒真珠・天清寺家の本真珠・里見家のルビー・椎名家の翡翠・里笹家のサファイアの5つの装飾品を集めて漸く、シークレットの王子が出るんだったな。あの女、本気でシークレットを含めた全員の逆ハーレムを狙っているのか?



―――――ばかばかしい!



「昂柳、今日は誰が残っていたっけ?」

「君が副会長としての仕事を押し付けてきた冬弥と響か?あぁ、響から連絡だ」


僕たちは早々に“下級階級の何にもとりえのない柿本美咲”が上流階級の嫡子ばかりを狙っていると言う噂を攻略対象者の関係者に流したところ、現在裏では僕が所属している生徒会を中心として数人が常にあの女の動向を見張って上に報告することになっている。


勿論、攻略対象者でそれを知っているのは僕と昂柳のたった2人だけ。


「響はなんていってるの?」

「・・・“女狐が自身の巣を汚染中”って、さっきの教科書類を使ってみぃを悪者にしたいのかもしれないけど、本当に考えが足りないね」

「確かに。いつかやると思ってたけど、よりによってみぃが体調不良で早退した日にやるなんて・・」


一体誰を嵌めるつもりなんだろうね。そう笑う僕の表情は自分でもわかるほど寒々しい物だろう。だけど、そんな僕よりもっと凍てつく表情をしている昂柳に僕は嬉しくなる。


「そろそろ引導を渡したっていいんだけどね。もうすぐで夏休みだし、あれが仕掛けてきそうなのは登校日かな?」

「・・・あぁ、やりそうだね。それじゃ、僕はそれまでに全ての資料を用意しておこう」


僕が記憶の引き出しからゲーム2年目を思い出しながら言えば、昂柳も未だに凍てつきそうなほど鋭い視線を向けてあの女が去って行った方をまだ見ていた。


「あれ?君の大好きな“大稀兄さん”も含まれているけど・・いいの?」


高校1年の時まで昂柳はあのいとこの教師の事を慕っていた。そんなからかいを含んだ言葉に少しムッとしながらも、昂柳は僕に顔を向けてため息交じりに吐き出した。


「――・・いいよ。あれはもう兄さんじゃない。問題発覚前にさっさと切ってしまえば学園にはそれほど問題はないだろ・・・」


もう昂柳の中では線引きが出来ているのか、彼の瞳に迷いなど一切感じられない。この学園は彼の父方の先祖が立ち上げた物で、特に学園に対する情の強かったおじいちゃんっ子だった彼はこの学園の事をとても大切に思っているのだ。

一度言葉を区切ってから、「それに」と少しいい辛そうに昂柳は視線を外しながら口を開く。


「魁って、由香利さんの事・・・好きなんだろ?由香利さんも大兄さ・・里見先生といるときより魁といるときの方が表情柔らかいし、な」


不覚にも僕は昂柳の言葉に、一瞬表情を変えてしまった自覚がある。だけど、僕はただ何も言わずに余裕ぶって昂柳に向かってにっこりとほほ笑んだ。

おかしいな、特に態度に出していたわけでもないし誰にも知られていないと思っていたんだけど・・さすが、昂柳だね。


「ふふ、公衆の全面で堂々と生徒に手を出すような変態に由香利さんは勿体なさ過ぎです。この夏は忙しいと思うから、最後の仕上げまで気を抜かずにいこうか」

「あぁ、もちろん協力する」


そう言って僕は制服の内ポケットから取り出したボイスレコーダーを触ると、カチッと言う音の後に先ほどの不快感しかないあの女の、聞くに堪えない叫び声が流れ出した。

冒頭部分だけ聞ききちんと取れていることを確認して、僕らがその部屋に取り付けてある隠しカメラに視線を向けて一つ頷くと、それに返事をするかのように小さな赤い光が数回点滅した。



共犯者なかまに伝令を伝えよう。



決行は夏休みの登校日、その中でも生徒行き交う朝はとても良い1日の始まりとなるだろう。それまで忙しくなるだろうけども、僕に気づかれない様にといじらしくも必死で動いているみぃの為にもサポートはちゃんとやってあげるから心配しなくていいからね。

うん、準備も大詰めだし前祝としてみぃを旅行に連れて行ってあげようかな?昂柳達も交えてこの間行きたいなと言っていたエジプトなんてどうだろう!そうと決まればそのことについても計画立てなくては!



おっと、そうだ。登校日の午後の部活動では、家庭部は強制にやってもらわなくてはいけないな。あの女は好感度を上げるために、助言役あわれな親友いけにえの所属の部活に必ず顔を出してプレゼントアイテムを作るのだから。

既にあの女の手に落ちた数人はともかく、逆ハーを狙っているのなら僕や昂柳の好感度を上げるためにあの女はこの夏をとことん狙ってくるだろう。


「ねぇ、昂柳」

「何?」


ゲームに沿って言えば、夏休み明けにはみぃのこれまでの罪を全校生徒の前で暴くと言う断罪イベント――なるものがあって胸糞悪いの――だから。


生徒会室に向かい、前を向きながら昂柳に話しかければ昂柳もそのまま答えてくる。


「夏休み中に付き纏われるかもしれないから、みぃの行きたがっていたエジプトやイタリアに一緒に行かないか?昂柳も一緒だとみぃも喜ぶ」

「みぃが?そうだな、行こう。息抜きだって必要だし」


さっそく計画を立てて、最初は渋っていたみぃをほぼ無理やり連れだしたけど、予想以上にみぃはその旅行を気に入ってくれたみたいで僕らも嬉しくなった。

そして案の定というか、あの女は天清寺然り里見教師を巻き込んでこの夏休み中ずっと僕や昂柳に接触できるようにと動いていたようだった。でも、そこは予想していた僕らはその夏中エジプト経由でギリシャへ行き最後はイタリアで過ごして、日本へ帰国したのは登校日の前日だった。

何所から漏れてもいいように、マレーシアからバリ経由でオーストラリアへ行くと嘘の情報を各方面に流しておいたので問題はない。それに昂柳も行くという事で、あの教師に経由でその情報を聞いたあの女は、夏中落とした男どもを使ってその地を血眼になって探していたらしい。



そして、今日は問題の登校日。仕掛けてくるとしたらあの女は僕のみぃへと向けるだろうと思い、必要な情報はみぃの協力者へとこっそりと渡してある。






何時もより早く起きてしまった僕は、リビングで新聞を読みながらみぃが来るのを待っていた。うん、今日の新聞は興味深いね。あの攻略対象者たちの家がどこかしらに出ているのだから。

みぃへの暴言が一番酷かった椎名家は倒産にまで追い込んでやった上に、救済措置は一切取ってやっていない。他愛も無いなと口角が上がりそうになったと同時にみぃがリビングに入ってきたので、今はまだすべてを隠した笑顔をみぃへと向けた。


「おはようございます、兄様。待たせちゃってごめんなさい」

「おはよう。全然待ってなんかないよ、僕のみぃ。さぁ、ご飯を食べよう」


身内の欲目だろうとなんだろうと、僕のみぃは愛らしく美しい女性だと思う。僕に遠慮することなんてないのに、みぃはあまり我が儘を言ってくれないから少しさみしく思ったりもする。


僕はみぃが思っているほど出来た人間じゃないし、とても自己中な人間だよ。ずっとずっと僕は自分自身の幸せの為だけに生きてきて、時には他人を貶めたりだってしているのだから。

でも、みぃ・・君の事は心から大切に思っているよ。だから、僕はずっと本心しか口にしていないのだから。


「僕のかわいいかわいいみぃの為ならなんだってやってあげるよ。僕のみぃはお姫様だからね」

「兄様・・・うん、ありがとう」


シスコンだって僕自身自覚しているし、自惚れじゃなければみぃも僕の事を好きでいてくれている。今だって僕の言葉に頬を染めて照れたように笑っている顔を見せてくれている事にとても幸せを感じる。



――――・・何だってやってあげる。みぃが幸せになるためになるんだったら、何だってね。



そう再度決心した僕に届いた昂柳からのメールに、靴を履いているみぃの後ろで僕は暗い笑みを深くする。

罠を張って僕らを待っているだろうお前は、その罠すらもがもうすでに僕らの掌の上だなんて思っていないのだろうね。


「お待たせ、兄様。何か楽しい事でもあるの?」

「うん?まぁね、昂柳が面白い事を教えてくれたからね」


みぃにはちょっと不快な思いをさせてしまうかもしれない。でも、それも今日までだ。

あぁ、少し困ったような不思議そうな顔も相変わらず可愛らしい僕のみぃ。さぁ、愚か者の為に仕方なく舞台に上がってあげようね。




学校に着くと昂柳を覗いた風紀委員が校門に立って、登校してきた生徒達をゆっくりと服装チェックしているために未だに教室へ入っている生徒は少なく溢れかえっている。


「さ、お手をどうぞ僕のみぃ」

「ありがと・・兄様」


みぃをエスコートしながらも学校を見回すと、あの女が落とした攻略対象者を引き連れて僕を待ち構えているようだった。そいつらから少し離れた所には、僕らの協力者が数人ケータイを手にしていて、僕に気が付くと1つ頷き校舎へ視線を向ける。彼らの視線を追って校舎の方へと視線を向けると、理事長室手前の廊下の窓に昂柳と彼の父である理事長の姿を見つけた。


そして、あの女は予想通りに踊ってくれた。触れられた腕が気持ち悪くてしょうがないが、それもまぁ多少は我慢しなくてはならない。媚びた様な表情と間延びした声を至近距離で聞かされた時には、殴りつけそうになるのを何とか抑えるのに必死だった。


それよりも驚いたのは、みぃが僕の予想外の攻撃を仕掛けたことだった。しばらく呆けてしまったが、口元に浮かびそうになる笑みを隠して小走りでみぃの側まで来て一息をつく。

大丈夫?と言うような目で見上げてくるみぃに微笑むと、みぃも安心したように微笑んで見せてくれて奴らに向き直ってさらなる攻撃を仕掛けていた。


みぃの協力者たちはライバルキャラと呼ばれる人達ばかりだったが、そんな彼女たちの団結と僕の集めた情報や証拠であの女は真っ青になり、同じく青い顔をして動揺している取り巻きの男たちに支えられている。


「あの女以外の彼らは今後の態度で処遇が決まるけど、あの女の事は社会的に抹殺してあげるよ。かわいいかわいい僕のみぃを殺させやしない」

「え・・兄様。まさか・・」


そんな6人は捨て置き、教室へと移動するみぃを抱き寄せて耳元でそっと囁くように告げた言葉に、みぃは信じられないという顔をして僕を見上げてくる。

本当はみぃが上層部等へ情報を渡していたことも、僕がその間に入っていたとは思ってないようだし、その事は知らなくてもいいから言わないけどね。





「もう大丈夫、僕のみぃ。ここからは誰にも邪魔なんかされない、幸せな物語のスタートだよ」






兄視点終了です。


い、いかがでしたでしょうか・・?(ドキドキ)

頑張って書いたつもりですけども、『こんなの思っていたのと違う!』とか思われた方もいるかもしれませんよね。


取りあえずは、これ以上は何にも思いつかないので終了でお願いいたします。

読んで下さった皆様、誠にありがとうございます。

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